「自動運転タクシー解禁」のサンフランシスコの悲惨な現実

「自動運転タクシー解禁」のサンフランシスコの悲惨な現実

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2023/09/19

自動運転で走行する「ロボタクシー」がサンフランシスコで急増する中、これらの車両が緊急車両の走行を妨害した数十もの事例が報告されている。あるケースでは、クルーズのロボタクシーが交通事故による重症患者の搬送を妨害したという。

8月14日深夜にサウス・オブ・マーケット地区の事故現場に急行した救急隊員らは、車にはねられ大量に出血している人を発見した。サンフランシスコ消防局(SFFD)の記録によると、2台のクルーズのロボタクシーが救急車の走行を妨害し、医療処置が遅れたという。患者は近くの病院に運ばれてから20~30分後に死亡した。

しかし、クルーズは彼らの車両のせいで救急車が遅れたことを否定している。同社の広報担当のティファニー・テストは「救急車は、当社のロボタクシーを追い越すことが十分可能だった」とEメールでコメントした。フォーブスが確認した動画には、多くの車両がロボタクシーの隣の車線を走行している様子が映っていたが、大型の救急車が同じようにその車線を通過できたかどうかは定かではない。

この事件の発生は、8月10日にカリフォルニア州の公益事業委員会(CPUC)がクルーズとウェイモにサンフランシスコでのロボタクシー事業の拡大を許可したわずか4日後という皮肉なタイミングだった。SFFDによると、クルーズとアルファベット傘下のウェイモは過去16カ月間で、少なくとも74件の同様な事件をサンフランシスコで発生させている。

「救急車や消防車の仕事は一刻一秒を争うものだ。火災は1分で大きさが倍になることもあるし、医療コールでは、さらに1分かかれば、文字どおり人が死ぬリスクが増大する」とSFFDのジェニーン・ニコルソン署長はフォーブスに語った。

この事故の後、カリフォルニア州の自動車局はクルーズに対し、地元で稼働している車両を半減させるよう命じた。しかし、それでもなおサンフランシスコは他のどの都市よりも多くのロボタクシーを走行させており、先端テクノロジーの実験場であるこの街は、今後の10年の終わりには数千億ドル規模の追加の収益を自動運転関連の企業にもたらすとマッキンゼーは予測している。

8月17日の別の事件では、赤信号の交差点を通過しようとしていた消防車にクルーズのロボタクシーが衝突した。自動運転で走行する車両は、本来なら優先すべき緊急車両を無視して左折したという。

クルーズは現在、サンフランシスコで約200台のロボタクシーを配備しており、ウェイモは250台を配備している。SFFDが報告した74件の妨害事案のうち52件がクルーズに絡むもので、21件がウェイモに絡むものだった。

「安全で安価な移動手段」の現実

ウェイモとクルーズは、自分たちの車は人間のドライバーよりも安全だと主張する。しかし、彼らの「より安価で安全な移動手段を実現する」という夢は、多くの課題に直面している。

ウェイモは2022年3月に、クルーズは2022年6月に有料サービスを開始した。クルーズのカイル・ヴォークトCEO は7月の決算説明会で「サンフランシスコのような都市はロボタクシーを、最低でも数千台走行させるキャパシティがある」と語っていた。

しかし、サービスが拡大するにつれ、同様の事件は増えており、今年4月には市役所の南に位置するハワード・ストリートで、2台の消防車が急行した火災現場に、クルーズの車が突っ込んだ。さらに8月には、クルーズの車が消防署の前の道路をふさぎ、消防車の出発を妨げた。

クルーズは、これらの事件についての具体的なコメントを拒否した。

不満をつのらせたSFFDの当局者らは、クルーズとウェイモへのより厳格な規制を求めている。CPUCがロボタクシー事業の拡大を認めた8月10日以降に、さらに12件の妨害事案が発生した。

「私はテクノロジーそのものを否定したい訳ではないし、その進化を止められると思っている訳でもない。私はただ、彼らに話し合いに応じるよう求めているだけだ」と、SFFDのニコルソン署長は話す。

彼女によると、クルーズとウェイモはいつも、彼女の要求に対し「当社の車両に対する適切な対応は次のようになります」と、版で押したような答えを返すという。「順序が逆だろうと言いたくなる。あなたたちの会社のほうが、適切な対応を学ぶべきだ」とニコルソン署長は述べた。

ウェイモとクルーズは、アリゾナ州フェニックスとテキサス州オースティンでもロボタクシーを配備しているが、両都市の消防当局は、サンフランシスコの当局ほど多くの問題に遭遇していない。それは、これらの都市がはるかに大きく、歩行者の密度が低く、1平方マイルあたりの消防車両の数が少ないためでもある。

しかし、現地の消防・警察関係者は、クルーズとウェイモは、些細な問題が発生した際にも彼らの懸念に応えてくれたという。フェニックス警察の広報担当はフォーブスの取材に「一度だけ問題が発生したことがあるが、ウェイモは迅速に対応した。ウェイモは特定のエリアで降車や迎車をしないようにジオフェンスを設置した」と話した。

しかし、サンフランシスコにおいては、ウェイモは6月の時点で、最低限のジオフェンシングすら行っていない模様で、ロボタクシーが消防車の出動を妨げる事態が頻発している。

ニコルソン署長は、ウェイモとクルーズが彼らの苦情に聞く耳を持たないと述べている。「私たちが現場にたどり着けず人が死んだとき、誰がその責任をとってくれるのか」と彼女は憤りをあらわにした。

forbes.com 原文

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