「お仏壇のはせがわ」といえば、あのCMの可愛い名ゼリフを思い出す@DIME読者も多いことだろう。
『おててのしわとしわを合わせて、しあわせ〜。な~む~』
かつて放送されていたCMでお馴染み『株式会社はせがわ』。お仏壇販売の老舗として知られる同社が今年10月、トンデモないものを発売した。その名も「推し壇」!

アイドル、俳優、アニメキャラなど大切な「推し」のアクリルスタンドやフィギュアを飾るための祭壇だ。SNSで一躍話題となった「推し壇」は、本物の神棚や祭壇と同じ素材・技法を用いた本格仕様で、LEDライトを使い20色の光で照らすこともできる。

税込価格1万3750円の今までにない商品は想定以上の売れ行きで追加生産するほど反響を呼んでいるというが……一体なぜ、推し活アイテムを作ってしまったのか?
そんな「はせがわ」を調べてみたところ、ここ数年さまざまな業界がコロナの影響で長らく疲弊している中、緊急事態宣言後にV字復活を実現。「お仏壇」という高額な商品を扱っているにもかかわらず業績をアップさせ、さらには「推し壇」という新たな領域にも挑戦していたのだ。

苦難を乗り越え、時代を切り拓こうとしている「はせがわ」の強さの秘密を知りたい!
そこで今回、経営企画部・福田惇弥さんに話を聞いた。時代を捉え、果敢に挑戦する老舗企業の真髄に迫る。
「推し」への祈りも立派な文化だ!時代に沿った老舗の役割
――先日発売された「推し壇」。誕生のきっかけを教えてください
福田さん
「きっかけは昨年行なわれた社内公募の企画でした。新商品開発や販促イベントなど、社員が思いついたチャレンジ性の高いアイディアを集め、実現してみようといった試みです。役職、年代問わず募集をかけたところ、当時2年目の若手社員が『推し壇』の企画を提出し、役員へのプレゼンを経て見事採用!『推し壇』の開発がスタートいたしました」
――若手社員の熱意が実を結んだんですね

「企画した若手社員いわく、『推しを持つ人たちにとって“推し”の存在は生きる支えでありアイデンティティにもなり得るもの』だと。それを聞いて、『推し』に感謝と祈りを捧げる行動は当社の使命で掲げている『心の平和と生きる力』を実現させるものだと考え、今回のアイディアが採用されました」
ちなみに、企画した若手社員は学生時代から部屋に”推しのための神棚“を設置し、手を合わせていたとか。ミレニアル世代・Z世代の意見を理解し、それに応える老舗の懐も深い。
福田さん
「当社は手を合わせる生活文化を大切にし、ご供養の領域を起点とした商品を提供することでお客様の心豊かな生活を実現するお手伝いをしていますが、今回は「推し活」という新たな視点で手を合わせる文化を醸成したように思えます」
発売前から「推し壇」は反響を呼び、リリースからわずか1日でSNSでは約1万件のリポスト、160万の表示回数を記録。さらに、
「コメントでも『時代に沿ったアイディアだ』、『推しを飾るだけで元気になりそう』など前向きなお言葉や、このように新しいアイディアを採用した組織風土についてもお褒めいただけるなど想像に反して好意的な評価をいただき、大変ありがたく思っております」
コロナ後にV字回復。成約率業界屈指のワケとは?
新商品の「推し壇」は、これまでの顧客層とは全く異なる層を取り込み話題になった。
“生きている方に祈りを捧げる商品”というコンセプトもかつてない挑戦だったはず。
だが、そこに「はせがわ」の強さがあるのかもしれない。
実はコロナ禍初期の2020年、緊急事態宣言が発出された期間中は130店舗近くを閉店。
しかし、宣言解除後には業績がV字回復し、2023年3月期決算では売上高216億8百万円(前期比9.6%増)、当期純利益は11億54百万円(前期比65.5%増)という好決算の内容だった。果たして、逆境から立ち上がったその要因とは?
――2020年以降のコロナ禍はかなり大変だったのでしょうか?
「コロナ禍が本格的になった2020年3月期単体決算は前期比で5.9%減、11億3千万円の減収、当期純損失10億15百万円と厳しい結果でした。この期間は消費増税前の駆け込み需要とその後の増税不況に加え、外出自粛要請が出され本当に大変でしたね。
また、翌年度の2021年4月から5月にかけては、政府の緊急事態宣言の発出により、約1カ月間、全営業店を休業することに。解除以降は以前の状態に戻れるか不安でしたが、営業再開後、私どもの想像以上に店舗には多くのお客様がお見えになりました」
――V字回復の要因とは?
「大きな要因としては、お仏壇の販売基数の増加が挙げられます。2022年3月期のお仏壇販売基数は30,035基まで増加し、3万基を越えたのは創業90年以上の中で史上初めてのことでした。そして今年の3月期は32,604基まで伸ばしています。
販売基数増加の要因として考えられるのが、一つはお客様の買い回り行動の変化です。これまでは、購入にいたるまでにお仏壇店をいくつも回遊されるところを、コロナの影響で最初に訪れたお仏壇店で購入する方が増えたからだと思います」

「安心・安全で後悔のないように購入できるお仏壇店はどこかと考えたときに「はせがわ」をイメージしていただける。先人たちが真剣に積み上げてきた信用や、当社の知名度がここで活かされたのかと思います」
さらに「はせがわ」は他社と比べ、お仏壇の成約率が群を抜いているという。
「2023年3月期のお仏壇の成約率は70.8%でした。社長の新貝がよく言うのは『我々の仕事は大切な方をご供養したいと来店されるお客様と向き合う“菩薩業”である』と。単なる御用受けにだけは決してならず、従業員たちはその場で最上と思うおもてなしを実践する。それがお客様の感動や従業員自らの誇りとやる気に繋がると信念をもって取り組んでいます」
「お仏壇というカタチにとらわれない」ニーズに合わせた戦略
生活スタイルの変化により、お仏壇のニーズやデザインなども変わってきている昨今。
「はせがわ」オススメのお仏壇、イチオシ商品を紹介していただいた。まずはコチラ!
【ソリッドボード ジャスト】

日本を代表する家具メーカー「カリモク家具」と共同開発した逸品。仏壇と下台のスツールセットはリビングルームにマッチする国産のおしゃれな新型仏壇だ。
福田さん
「弊社のLIVE-ingコレクションは国内の家具メーカーが製造した『お仏壇の機能を備えた』本物の家具。特に本商品は2014年に販売開始し、10年続くロングセラー商品となっております」
【HK ガレリア】

こちらも、カリモク家具との共同開発。5段階の高さ調整が可能なガラス扉、扉を閉じたままお参りができるデザインが人気で、リビングの雰囲気がより一層高まるようなシルエットになっている。
【薄院(はせがわ×隈研吾)】

「はせがわ」と建築家・隈研吾氏がコラボした究極の和モダン仏壇『薄院(はくいん)』。縦格子を基調としたデザインは、はせがわが伝え続ける「思いの和」と、隈研吾氏の描く洗練された「現代の和」が一つになり、誕生した。
伝統を受け継ぎながら革新的な商品を生み出している「はせがわ」。
これからの時代を生き抜くための経営戦略、そして新たな挑戦を聞いた。
「近年、仏壇・仏具業界もEコマース市場が拡大しているため、ホームページの大幅リニューアルを始め、組織としても2023年3月期よりデジタル推進部、CRMプロジェクトを新設しました。顧客データの蓄積・分析やデジタル戦略推進のための制度・インフラを整備するとともに、インターネットやアプリ、SNSなどデジタルを最大限に活用した販売促進を実施しています」
また、「はせがわ」では遺品整理や不動産整理、相続手続きなどの紹介サービスや、法事シーンを中心とした食のギフト販売を今期から本格スタート。

お客様に寄り添い、幅広いニーズに応える取り組みを展開している。
――今後の展望とは?
福田さん
「中期経営計画のテーマが「手を合わせる機会の創造」。価値観が多様化する中で、今後は個人個人に合わせた自由なお祀りが可能な商品やサービスの開発、ご提案をしていかないと業界で取り残されていくのではないかと考えています。
『手を合わせる生活文化』を大切にし、そこに焦点を絞れば、お仏壇というカタチに囚われなくて良いかもしれません。世の中の変化とともに柔軟に対応できる商品を開発し、『こういう祈りの空間があってもいいんだ』ということを我々が率先して発信していきたいと考えております。そういう意味で今回の「推し壇」は、「はせがわ」の新たなステージへのチャレンジなのだと私は考えます」
取材協力
株式会社はせがわ
文/太田ポーシャ