
14日、2時間超の会見を行う(左から)宝塚歌劇団の木場健之理事長、村上浩爾専務理事
宝塚歌劇団の劇団員の女性が亡くなった問題で、歌劇団が調査報告書を公表したが、ハラスメントは「確認できなかった」とする内容に批判の声が高まっている。AERA2023年11月27日号より。
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「(亡くなった)女性が上級生からいじめられていたとの供述はなかった」
「いじめやハラスメントは確認できなかった」
「(女性に対し)『ウソつき野郎』と実際に言っていたかは確認できていない」
宝塚歌劇団の宙(そら)組の劇団員の女性(25)が亡くなり、自殺とみられている問題で外部の弁護士による調査チームの調査報告書が14日、公表された。会見した歌劇団は、長時間に及ぶ活動などによって「精神的な余裕が失われ、心理的な負荷が強くなった」と管理責任を認めて謝罪した一方で、冒頭に挙げたように遺族側の主張と大きく乖離(かいり)する報告書の内容を繰り返した。
■遺族側は再検証を求め
「宝塚は変わらないんだな、と悲しい気持ちになりました」
そう話すのは、長年、宝塚を目指す少女たちを指導してきた女性だ。亡くなった女性と同じ宙組の103期にも教え子がいたが、数年前、新たな舞台の稽古初日の「集合日」に退団したという。女性は、
「普通は公演後に退団します。芯が強くて根性のある子で、同期ととても仲が良いと聞いていたので、集合日に退団するとは、何かよっぽど嫌なことがあって耐えられなくなったのだと思います。それ以来、宙組の様子が少し変だな、とは感じていた」
と話し、こう続けた。
「先輩や先生には『イエス』しか言ってはいけないような厳しい世界。ある程度のパワハラはこれまでも絶対にあったけれど、他の人にも聞かせるために全員の前でひとりを叱るようなパターン。そして必ず後からフォローしてもらえた。今回のように1人を攻撃するような形は、明らかに行き過ぎている」
失望は多くのファンにも広がっている。特に、批判の声が上がっているのは、亡くなった女性が2021年8月に上級生から「前髪を巻いてあげる」と言われ、ヘアアイロンを額に当てられやけどを負った件だ。報告書では「ヘアアイロンでのやけどは日常的にあることである」とし、さらに会見で、村上浩爾専務理事は、
「(遺族側が、ヘアアイロンの件がパワハラだとするのであれば)その証拠となるものをお見せいただきたい」

AERA 2023年11月27日号より
と発言。遺族側の代理人を務める川人博弁護士は「納得できず、事実認定と評価は失当(不当)だ。劇団と上級生の責任を否定する方向に誘導している」として再検証を強く求める事態になっている。
歌劇団側は会見で今後について、(1)年間興行数を9から8にする(2)週の公演数を10から9に減らす(3)稽古のあり方を改善する(4)外部の通報窓口の新設を検討──などの対応を説明した。だが、亡くなった女性が苦しんだ要因のひとつである上級生との関係に踏み込んだ対策が語られることはなかった。
■先輩と特殊な従属関係
過労死弁護団全国連絡会議幹事長・玉木一成弁護士は、今回の歌劇団の対応について、「調査が不十分。なんらかの制約を受けたか、自己規制した中で行われている印象がある」とした上で、こう指摘する。
「パワハラと長時間労働によって亡くなるという典型的で過酷な例です。宝塚という特殊な世界とはいえ、ひとつの企業としてとらえると、『先輩』は管理者や上司にあたる。その『先輩』と特殊で強固な従属関係があり、理不尽な支配が強まっているにもかかわらず、経営幹部や第三者からの指導や管理が入りにくい構造があった。そこを是正しなければ、何度も同じことが起きる」
前出の指導者の女性は言う。
「亡くなった女性をいじめた劇団員は、おやめになるべき。それが組織として唯一、信頼回復する道ではないでしょうか」
宝塚は、どう応えるのか。(編集部・古田真梨子)
※AERA2023年11月27日号
古田真梨子