マスク非着用解雇とホームレス避難所拒否に思う、日本人の“感情のルール”

マスク非着用解雇とホームレス避難所拒否に思う、日本人の“感情のルール”

  • 日刊SPA!
  • 更新日:2021/04/07

―[連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史>]―

◆マスク解雇に思う、同調圧力の怖さと、世間と社会の対立

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ニュースで、「職場でマスクを着用しないことを理由に、雇用を打ち切られたのは違法」だとして、訴訟を起こす男性のことが報じられていました。

男性は、「マスクを着けないのは持病の皮膚炎を悪化させないためだとし、会社側は就業規則違反を理由に雇用打ち切りは正当だと反論」しているようです。

これね、「就業規則」が根拠のようになってますけど、僕からすると、「世間」と「社会」の対立に見えるのです。

◆避難所にきたホームレスを断った職員

以前、台東区の職員が、台風で小学校の体育館に避難しようとしたホームレス2人を断ったということがニュースになりました。

これに敏感に反応したのが、ブレイディみかこさんの中学生の息子さんでした。

ホームレスを追い出して、もし台風の中で死んだら、職員は殺人をおかしたことになる。そのことを考えたら、どうして断れるのだろうかと。

でも、日本人である私達は、職員の気持ちは想像できます。

地域住民が避難した体育館は「世間」になりました。(「世間」はあなたと関係のある人達ですね)その反対語は、「社会」です。(あなたと関係のない人達です)

日本人は「世間」に生きていて、「社会」を無視します。

だから、ホームレスという「社会」に生きる人がどうなっても関係ないのです。

とにかく、職員は「避難所」という「世間」を守ることが重要だったわけです。

もしホームレスの人を入れて、「世間」の人達から「臭い」「怖い」「不安」と言われる心配の方が、ホームレスの人を追い出して、死ぬ可能性の心配よりも高かったのです。

こうやって「世間」を大切にして、「社会」を無視する気質は、日本人はよく分かると思います。

問題は、「世間」は中途半端にしかあなたを守ってくれないことです。

ホームレスの人達を追い出して、安心した「世間」の人達も、もし、ホームレスの人達が死んだら、「なにやってたんだ!」と職員を責めるはずです。誰も「殺人」の責任は取りたくないですからね。

◆明確な基準がない“感情のルール”

で、このマスク非着用の場合です。

契約社員の男性は、顔や手にアトピー性皮膚炎があり、当初は、上司の求めに応じて、肌と接触が少ない口元を覆うタイプのマウスシールドを着けたそうです。

が、その後、上司からマスクの着用を求められたため、2回にわたって「不織布マスクが刺激になる」「マスクをつけた方が皮膚炎の症状が出やすい」とする医師の診断書を会社に提出し、今年1月には「マスク代わりに(顔全体を透明なプラスチックで覆う)大型フェースシールドを着ける」などの代替案を提案したそうです。

最初はマスクじゃなくても、オッケーだったんですね。

で、会社側からは、「職場の安全管理や秩序維持の観点を総合考慮し、就業規則違反にあたる」と通告され、2月で雇用を打ち切られたそうです。

これね、「就業規則」という「成文化」されたルールのように感じますが、じつは「秩序維持」が理由なんですね。

「秩序維持」ってのは、つまり、「世間」の人がどう思うか、です。

「安全管理」については、この男性は、職場では正面と両隣には誰も座らず、飛沫予防のアクリル板も置かれたと主張しています。

これでは、ただちに「危険」だとはなかなか言えないでしょう。

「社会」は「法のルール」ですが、「世間」は「感情のルール」です。つまりは、明確な基準はありません。人が不安だと思ったら、それがルールになります。

それが「同調圧力」の怖さです。

◆職場という「世間」

勝手な想像ですが、上司は、最初、問題がないと判断したのではないかと思います。

が、会社という「世間」で、誰かが「どうしてあの人はマスクをしてないんだ?」と不安を語り始めると、それがやがて「世間」のルールになってしまうのです。

もちろん、「感情がルール」と堂々とは言えないので、「就業規則」という言葉を持ち出します。

職場という「世間」と、働く権利という「社会」の対立に、僕には見えるのです。

―[連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史>]―

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