電子レンジで気軽にチンできる!? 大ヒットした伝統工芸品〈わっぱせいろ〉の生まれた場所へ

電子レンジで気軽にチンできる!? 大ヒットした伝統工芸品〈わっぱせいろ〉の生まれた場所へ

  • 新潟のつかいかた
  • 更新日:2022/11/25
No image

創業は江戸時代!「寺泊山田の曲物」最後の1軒

お弁当箱や調理器具など、さまざまな形で愛される「曲げわっぱ」。いつもよりごはんが美味しく感じられたり、ほんのりと漂う木の香りに癒されたり。軽くて、丈夫で、使えば使うほど愛着が湧いていく、暮らしのなかに息づく伝統工芸品です。

新潟県で曲げ物の生産地として栄えた海沿いの集落「寺泊山田(てらどまりやまだ)」は、古くから「ふるい」づくりが盛んだったそう。文献によれば、江戸時代の1842(天保13)年にはすでにふるいの組合があったとか。

その後、1982(昭和57)年に貴重な技術が認められ、新潟県長岡市の無形文化財に指定されました。そんなこの地で、ふるいをつくり続けている最後の1軒が〈足立茂久商店〉です。

No image

江戸時代から続く〈足立茂久商店〉。

現在は11代目・足立照久さんが家業を盛り立て、ふるい、せいろ、裏漉しといった曲げ物を昔ながらの製法でつくっています。

んっ? 足立の曲げ物? と、ピンと来た方は情報通。実はこの〈足立茂久商店〉、電子レンジで気軽にあたためられる画期的な〈わっぱせいろ〉を考案し、一般家庭にも曲げわっぱの楽しみを知らしめた人気店なのです。

No image

テレビ番組『マツコの知らない世界』でも紹介された〈わっぱせいろ〉。

かねて全国の菓子店や割烹で愛用され、さらには〈わっぱせいろ〉のヒットもあって、今や大忙しの〈足立茂久商店〉。具体的にはどんな曲げ物をつくっているの? 曲げ物の魅力って? せいろを電子レンジにかけても平気な理由とは? 秘密を探るべく、工房にお邪魔しました。

古墳からも出土!? ミステリアスな新潟の曲げ物

トントントン。工房の扉をくぐると、中から木を叩く音が聞こえてきます。爽やかなヒノキの香りにつられて進むと、工房内は見渡す限りの曲げわっぱの山でした。

No image

ふるいをつくる足立照久さんと、作業をお手伝いする母親の道子さん。

「この地域で曲げ物が盛んになった理由は、実はよくわかっていません。漁業や農業がシーズンオフになる冬の生業として曲げ物づくりが発展したとされていますが、いつから始まったのかも不明です。実は、近所にある『山田郷内遺跡』などからも曲げ物が発見されているんですよ」と、足立さん。

このあたりは海路だけでなく、北国街道という陸路も通っており、古くから人の往来が盛んだったとか。曲げ物の技術はもしかすると古代から伝わっていたのかもしれないと足立さんは推測します。

母親の道子さんも「私がお嫁に来た50年前は、この集落で曲げわっぱをつくる家が11〜12軒あったんです。みんな田んぼや畑、漁をしながら、曲げ物づくりに携わっていました」と頷きます。

まさにこの足立家も、お米をつくりながら工芸品に携わる“半農・半曲げ”のおうちだったそう。時代とともに1軒、また1軒と減り、今はこの〈足立茂久商店〉を残すのみとなりました。

意外な場所でも大活躍! オーダーメイドの伝統工芸

No image

この日、足立さんが手がけていたものがこちら。あれ、ずいぶん目が粗いですね?

「これは、道路工事の舗装をするための『ふるい』です」

えっ、道路工事!?

「そう。道路を舗装するときって200度くらいの熱したアスファルトをふるいにかけるのですが、金属製だと革製の耐熱手袋をしても熱いんだそうです。その点、木製のふるいなら熱を伝えにくく、安全に使えるとのことで、もう長くご注文をいただいています」

キッチンでの用途がメインかと思いきや、意外なところでも活躍していたんですね。

〈足立茂久商店〉の2階を見せてもらうと、目の細かさや素材が異なるたくさんの金網がずらり。顧客の要望に沿って、適した網を選んで張るといいます。

No image

「この網は真鍮です。例えば、お菓子づくりで使うふるいはステンレス製が多いのですが、どうしても静電気が起きやすく、せっかくふるいにかけて揃えた粒子がまたダマになってしまうとか。その点、真鍮の網なら静電気が起きにくいため、それがない。こうした網の素材はもちろん、目の細かさ、全体のサイズに至るまで、目的に合わせた道具をつくっています」

まさに、至れり尽くせりのオーダーメイド。ゆえに、花火師さんは火薬の粉を通し、鋳物屋さんは砂を通し、表具師さんは糊を漉すなど、足立さんの曲げ物は幅広い分野で使われています。

「ひとつひとつ材料を選んでつくらなければならないので、大変と言えば大変です。でも、苦にはなりません。『いい道具があってよかった!』と言ってもらえることがうれしいのです」

No image

失われていく「織り」の技術を未来へ残す

珍しいものがいっぱいの足立さんの工房で、黒い布を見つけました。薄く透けていて、絹でも綿でもなさそう……。これは一体?

No image

「それは『毛網(けあみ)』です。馬の毛を編み上げたものですよ」と足立さん。

「料亭や和菓子店で使われているもので、人工のツルツルの糸と違って、天然の毛で素材を裏漉しすると、ガサガサとしたキューティクルが余分な繊維をきれいに漉しとり、驚くほどなめらかな舌触りになるんです。しかし、日本やアジアで毛網を織れる人がほとんどいなくなってしまって……」

廃れつつある毛網の技術を復活させようと、足立さんは長岡造形大学とともにタッグを組んで研究をスタート。現在は、足立さんの妻の幸子さんが技術を習得すべく、織りの先生から習っているそうです。

No image

「どうかやめないで」「お願いだからつくり続けて!」の声が多い毛網の裏漉し。

原料となる馬毛の仕入れ先についてもこれから探す必要があるのだとか。国内で馬毛が入手できるところなど、何か情報があれば教えてほしいそうです。(連絡先は最後のInformation参照)

大ヒット商品〈わっぱせいろ〉ができるまで

一人前の職人になるまでにかかる時間は、約10年。今年で48歳になる足立さんが、職人の世界に足を踏み入れたのは22歳のときだったそう。父である10代目が病気で他界するまで、12年にわたって技術を習いました。

No image

先代から引き継いだ道具の数々。なかにはお手製の道具も。

「亡き父からは、よく『不器用だなぁ』と言われてきました。でも、それがよかったんだ、とも。器用な人はすぐにそれなりの物をつくれて、ああこんなものか……と思って終わってしまう。でも、不器用だと、できないから数をいっぱいこなして、できるようになるまで何度も繰り返す。だから身についていくんですね」

テレビ番組『マツコの知らない世界』で紹介された電子レンジで使える〈わっぱせいろ〉は、そんな10代目の父が考案し、研究して製品化したものだといいます。

No image

〈足立茂久商店〉の名を世に轟かせた〈わっぱせいろ〉。

「電子レンジで使うための特殊な加工をしているわけではなく、本来は金属の釘で止めるところを、自然素材で代用しただけ。それ以外は伝統の技と天然素材のみで、いつもつくっている曲げわっぱとまったく同じです」

イチからつくってみましょうか! と言った足立さんが、まず手に取ったのは「曲げ輪」。すでに丸くクセづけられたヒノキの板です。

No image

奈良の専門の職人から取り寄せている曲げ輪。端を小刀で削ぎ落とす。

No image

続いて、桜の皮を細い帯状に切る。

No image

曲げ輪にメサシという道具で穴をあけ、桜の皮を編むように通す。

No image

桜皮で輪にしたものを正円の木型にはめこむ。

これをそのまま電子レンジの中へ。えっ、チンするんですか?

「そうです。今、うちの企業秘密を明かしちゃっているかもしれませんね。でも、大丈夫。技術を後世に残したいので、どんどん公開していくつもりでいます」

No image

電子レンジで数分温める。

チン! と電子レンジが鳴って、ホカホカのわっぱが出てきました。型に入れたまま温めてから冷ますと、きれいな正円になるのだそう。

No image

別の曲げ輪にぐるりと切り込みを入れて、細い「小輪」を切り出す。

No image

切り出した小輪を丸めて、先ほど温めた曲げ輪の本体の中へ。

No image

「打ち棒」と呼ばれる棒で、曲げ輪の内側に小輪をトントンと叩きこむ。

No image

小輪を固定するために、竹釘を通す。そして、突起がなくなるように削る。

「ここの工程を、金属の釘ではなく竹釘にしたことで、電子レンジでも使えるようになりました。金釘ならトントンと打てば終わるところを、竹釘だと穴を開ける工程、竹釘を通す工程、削る工程が増えます。ちょっと手間ですが、小輪がゆるんで外れることのないようにするには必要な作業です」

No image

最後に、わっぱの上下をやすりにかければ完成。

驚くほどの手間ひまをかけて、丹念につくられた〈わっぱせいろ〉。食材を入れて、電子レンジにかけて温めたら、専用の台座に乗せて、やわらかいヒノキの香りとともにそのまま食卓へ。

わっぱめしや点心などの定番のお料理から、冷やご飯の温め直しまで、和洋中を問わず楽しみ方は無限大だというから、なるほど、ヒットするはずです。

匠の手“共通”インタビュー

「至極の作品は、誰に一番に見せたい?」

この先、自分でも納得がいくような最高の作品ができたとしたら。一番に報告したいと思う人には、きっと匠にとって特別な“なにか”があるはず。足立さんからは、こんな答えが。

「やっぱり家族かなぁ。実際、渾身の作品ができあがると『できたぞ! すごいだろ!』って、まず家族に見せるのがいつものパターン。『球体』が完成したときも、まっさきに娘に見せましたね」

No image

足立さんのアート作品〈曲輪の球体〉。細く割った曲げ輪を組んで作られている。

No image

曲げ物の技術を用いた椅子〈曲輪(まげわ)スツール〉。

No image

新潟県伝統工芸品の小国和紙とコラボした照明〈ゆきほのか〉。

伝統を守りつつも、新しいジャンルの作品づくりにも積極的に取り組んでいる足立さん。

「仕事をする傍らで、こうしたものづくりも少しずつ進めています。これまで手がけたことのないものに挑戦するのは、やっぱりとってもおもしろいもの。ふるいなどの需要はだんだん減りつつあるので、新しい風も取り入れたいな、と思います」

そう言って、のびのびと笑っていた足立さんですが、顧客から修理の連絡を受けとると、すぐに職人の顔が戻ってきました。〈足立茂久商店〉では、網の張り替えなどの修理も請け負っているのです。

「製造や販売に加えて修理を行うというのは、ウチの特徴かもしれませんね。ウチのものじゃなくても引き受けますよ」

No image

青森からやってきた年代物のせいろ。

No image

桜皮が織りなす模様が美しい。

この日、青森から送られてきたという見事なせいろを検分しながら、「すばらしい出来映えです。文化財級かも。心臓に悪いですね……」と汗をぬぐう足立さん。そんな逸品を任されるのも、ひとえに一流の腕前があってのこと。

「師匠だった父から学んだことで、一番よく覚えているのは『つくった物には、つくった人間の性格や人柄がにじみでる』ということ。真剣に取り組めば、しっかりとした良品ができる。確かにそのとおりだとつくづく実感しています。これからも実直に、喜んでもらえるものをつくり続けていきたいですね」

No image

今日も工房からは、トントン、トントンと足立さんが手を動かす音が聞こえています。

※足立さんの作品は、いくつかのECサイトなどで販売されているほか、長岡市のふるさと納税の返礼品にもなっているそうです。

Profile 足立照久(あだちてるひさ)さん

〈足立茂久商店〉11代目。ふるい、せいろ、裏漉しなどの曲げ物をつくり続ける。プロ向けの調理器具から一般家庭向けの電子レンジで使える〈わっぱせいろ〉まで、喜ばれる道具づくりに定評あり。〈曲輪の球体〉などのアート作品も精力的に発表している。

No image

Information

【足立茂久商店】
address:新潟県長岡市寺泊山田1289
tel&fax:0258-75-3190

※メールによる商品のご注文は承っておりません。

credit text:矢口あやは photo:やまひらく

新潟のつかいかた

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加