迷惑系YouTuber、マッチングアプリ...“今”を盛り込んだミステリーで描いた人間の根源的な欲求【結城真一郎】

迷惑系YouTuber、マッチングアプリ...“今”を盛り込んだミステリーで描いた人間の根源的な欲求【結城真一郎】

  • ウートピ
  • 更新日:2022/08/06
No image

マッチングアプリ、リモート飲み、迷惑系YouTuber …今、世の中で起きていることやトレンドをふんだんに盛り込んだ結城真一郎(ゆうき・しんいちろう)さんのミステリー短編集『#真相をお話しします』(新潮社)6月30日に発売され、7月19日には4万部の重版が決定。発売からわずか20日で、累計発行部数6万部を突破しました。

結城さんといえば、2018年の『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞し、小説家デビュー。21年には、短編小説『#拡散希望』(「小説新潮」掲載)が、第74回日本推理作家協会賞の短編部門を受賞。そして、22年には、『救国ゲーム』が第22回本格ミステリ大賞候補に選ばれるなど、ミステリー界の超新星として注目を集めています。

今回、初の短編集を上梓した結城さんに、同作への思いやミステリーの魅力、会社員との両立などについてお話をうかがいました。前後編。

No image

リモート飲みやマッチングアプリ…“今”を盛り込んだ理由

——ご自身初の短編集ということですが、執筆を振り返ってみていかがですか?

結城真一郎さん(以下、結城):もともとは短編集になる前提で書き始めてなかったんです。それが縁あって、『#拡散希望』が日本推理作家協会賞を受賞できたので、「これを主軸に短編集化しましょうか」という話になりました。

実は、そのお話が出る前から、短編集化しやすいようにこっそり自分なりに話のトーンをそろえたりとか、似たようなテイストを織り交ぜてたんです。誰にも言わずに、短編集化とか企画にしやすいように勝手にやってました(笑)。

——短編集への伏線も用意されていたのですね!

結城:そうですね(笑)。無事、その伏線も現実で回収できました。だから、すごく狙い通りというか、一つの形になってうれしいというのが率直な気持ちです。本来だったら、世に出なかった可能性もあったので、短編集という形にまとまって一安心しています。

——同作では、YouTuberやマッチングアプリなど、現代の日本社会をテーマにされていますが、その理由を教えてください。

結城:新しい生活様式とか価値観が世に広まってきたときに、それに付随して、従来では考えられないような動機を持つ人間や行動原理を持つ人間がきっと出てくるという予感がありました。それを作品に投影したいなと思ったのがきっかけです。例えば、迷惑系YouTuberとかも、自分の中ではすごく気になる存在で……。犯罪行為をしたり、ふざけたことをしたり、それを映像に撮って、なおかつ世の中に公開する。そして、その映像を楽しみにしてる視聴者もいるわけです。10年前、15年前だったら考えられない環境が、今成立しているという実感がありました。

そんな環境の中に自分の身を置いてみると、「こんなことやってバカじゃねーの」と思う自分もいれば、「ちょっと見たいな」って思う自分もいる。なんなら、思うだけじゃなく、実際に再生ボタンを押しちゃう自分もいたりするんです。一人の人間の中で、分裂してる感じがすごく気味悪くて……。「これはまさに、現代ならではの歪(いびつ)さだな」と感じていたので、今身の回りに増えてきたものをテーマにした作品を書きたいと思ったのが、この作品のきっかけになります。

——リモート飲み会で空気感が分からない感じや、つい同時に話してしまって気まずい感じとか、まさにそうですよね。

結城:10年前、15年前の人が読んだら、「なんだこれは?」ってなりますよね(笑)。でも、今のこの時代だからこそ、ある程度同じ呼吸でみんな分かるというか。わざと、そういうものをテーマに据えたような感じです。

——結城さんにとって、コロナ禍の影響は大きかったですか?

結城:そうですね。新しい生活様式や価値観が、一気に世界中に広まって。日常がガラリと変わるというのは、今までの人生で初めての経験ですし、我々が当たり前だと思っている常識がくつがえるっていうことが、普通に起こり得るんだと肌で実感しました。あり得ないと思っていたことが本当に起こり得るというのを、まざまざと突き付けられた体験だったので、今回の作品にも、多かれ少なかれ反映はしていると思います。

No image

「何が起きたら自分はびっくりするのか?」ストーリーの組み立て方

——長編小説と比較して、苦労したことはありますか?

結城:短編は長編と比べて、枚数に限りがあるので……。その中で、自分がやりたいトリックやネタを過不足なく、伏線も含めてまとめあげなければならないというのは、難しかったです。ダラダラと情景を描いたり、内面の描写ができない分、端的にまとめて書かなければならない。そのために、どういう言葉を選ぶかとか、どういう展開にすれば効果的かというのを、長編以上に考えたので、そこは一番大変でした。

——結末で「あー! そういうことか!」となるのが気持ち良くもあり、悔しくもありました。どんなふうに作品を書いているのでしょうか?

結城:明確に答えられる方法論があれば、より創作ペースも早まる気がするんですが……(笑)。自分の場合は、体を動かさないとキツいので、散歩をしてるときにイメージが浮かんできたりしますね。だから、コロナ禍で外出制限になったときは、ちょっとつらかったです。やっぱり、動き回ってるときのほうがアイデアが浮かぶので。

具体的には、最初に使いたいテーマやガジェットを決める。今回の作品で言うと、マッチングアプリを使おうとか、リモート飲み会をテーマにしようっていうのをまず決めて。それから、「どんなことが起こったら、自分は一番ビックリするかな?」「どんなことをされたら愕然(がくぜん)とするかな?」ということを、何日もかけて考えるんです。「こういうことが起こったらビビるな」ということが固まったら、あとはそれをどうやって作品にするかという算法を繰り返す。その中で、なんとなく浮かんだイメージを、ガチャガチャ作り変えていく感じですね。

——今回の作品では“違和感”もキーワードだと思いました。

結城:まさに、迷惑系YouTuberがそうなのですが、みんなが当たり前に受け入れていることでも、「本当にそれでいいのか?」と自分でも感じてる部分があって……。そういう感覚は、おそらく自分だけじゃなくて、今生きている人は多かれ少なかれあると思うんです。「本当にそれでいいのかな?」「この裏で変なことが起こり得ないんだろうか?」という感情が付きまとうというか。別に、世の中に警鐘を鳴らしたいということではなく、その感覚を一つのテーマとして表現したかったので、“違和感”という言葉はピッタリだと思います。

No image

“驚き”と“悔しさ”ミステリーの魅力

——そもそも、結城さんが「ミステリーを書こう」と思ったきっかけは何だったのでしょうか?

結城:昔から、小説家を目指したいとは思っていました。それで、「なぜミステリーなのか?」というと、子供のころから読んでいた本のジャンルを振り返ると、ミステリーが多かったんです。ミステリーは読んでいて楽しかった。だから、おそらく執筆するうえでも、「自分が楽しめて、ずっと熱意を持ち続けられるだろう」と考えて、小説家になるならミステリーかなと。ミステリーに狙いを定めたのは、大学生のときぐらいだと思います。

——結城さんにとってミステリーの面白さや魅力は?

結城:自分が思うミステリーの面白さは、“驚き”と“悔しさ”ですね。つまり、「ここに書いてあったじゃん!」「この情報を使ったら自分でも気づけたじゃん!」ということを実感するのが、気持ちいいジャンルだと思います。

——今回の作品も、本当に悔しかったです……。

結城:自分が読んでも、“驚き”とか“悔しい”とか思えるようなものを、そのまま今回の作品でも表現したいなと思って書きました。だから、そうおっしゃっていただけると、ある程度はうまくいったのかなと実感します。

No image

欲望や感情…人間を動かすものは?

——作品を読んでいて思ったんですけど、人間の欲望や根源的なものが、あぶり出されるというか。

結城:そうですね。心の片隅で思っていても表に出しづらい嫌な部分とかを表現したいと考えていて。どんなにガジェットが現代的になっても、それを人間が使ってる以上は、原初的な欲求が表れると思うんです。迷惑系YouTuberも、その行為の先にある金銭欲とか承認欲求というところまで突き詰めることができる。結局最後は、そういう感情で人間は動くんだろうなという予感があるので、そのあたりも表現できたらいいなと思っていました。

自分自身にも、嫌な面は多々あるし、そんなに良い人間だとは思ってなくて。でも、それは多分みんな同じなのかなって。心の中に秘めているものがあって、表に出さないようにしてるから、そういう欲求をあぶり出すみたいな。怖いけど“怖いもの見たさ”で引き込まれて、つい見てしまうこともあると思うので。そのあたりも、狙った部分ではあります。

——小説を書く動機も、その欲求に関係しているんですか?

結城:小説を書いているのは、隠れた欲というよりも、真っすぐな欲ですね。自分が書いたものを、他人が楽しんでくれて、さらにリアクションも返ってくるというのは、純粋に気持ちがいい。そういう経験が、今までの人生に何度もあったんですけれど、それをそのまま仕事にさせてもらえたという感じですね。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加