6社で運営、約110社が参加 ワクチン共同職域接種を支えた工夫

6社で運営、約110社が参加 ワクチン共同職域接種を支えた工夫

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/07/22
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カスタマーリレーション事業を行うアディッシュが発起し、シェアリングエコノミーサービス事業のガイアックスなど6社が主体となり、共同職域接種が実施された。

7月13日午前10時頃、第一回の接種日に会場となるガイアックスが運営する永田町のシェアオフィス「Nagatacho GRiD」を訪れると、すでに接種を終えた多くの人が接種後の経過観察を行なっていた。午前9時半の開始から40分あまりで、200名以上の接種が完了したという。

「スムーズに行き過ぎて経過観察の席が足りなくなりそうなので、少しペースを落としています」

そう話すのは、発起人のアディッシュ経営企画本部長の松田光希と、ガイアックス人事総務部長の流拓巳だ。

5000人を対象に行われた共同職域接種には、都内の中小企業約110社が参加。各社の契約社員やインターンなど、非正社員を含む従業員とその同居家族も接種の対象とする。さらに一般社団法人シェアリングエコノミー協会の会員であるシェアワーカーやフリーランス、ガイアックスが運営するシェアサービス「TABICA」に登録するシェアワーカーと、家族・子ども向け出張撮影プラットフォーム「fotowa」に登録する写真家も対象だ。

自治体主体のワクチン接種に遅れが目立つなか、雇用形態にかかわらず多くの希望者を対象に、スピード感をもって共同職域接種を実施することができた裏には、どのようなノウハウや工夫があったのか。

スピードの裏に

2週間ほどの接種者募集期間には応募が殺到した。5000人を超えた後に申し込んだ人は、キャンセル待ちに登録できる。キャンセルが出るとキャンセル待ち登録をした人々へ一斉にメールが送られ、早い者勝ちで枠が埋まっていく。当日にキャンセルが出た場合も同様だ。このシステムについて、流はこう解説する。

「申し込む側にはキャンセル待ちになるかもしれず、確実に打てるかはわからないという前提を伝えていました。最初からそうした曖昧さを許容する企業しか受け付けていません。

また、私たちは全日程同時予約受付にはしませんでした。もし何かしらの理由で接種日をずらさないといけなくなると、全員が予約を取り直す必要がありますが、全てを同時にやることにはこだわらず、確実に決まったことからしかアナウンスしないようにしていました」

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アディッシュ松田光希(左)、ガイアックス流拓巳(右)

想定していた最悪のリスクは、ワクチンが届かないことだったという。ワクチンは、ちょうど1週間前に納品されることになっている。納品の確定連絡を受けるのが、さらにその1週間前だ。つまり2週間前まで納品確定かどうかがわからない。

ただ、松田は「でも予約がすぐに埋まることはわかっているので、予約受付開始も納品確定してから行うこともできると考えられますね」と語る。

会場設営も、どの段階でも変更できるように工夫した。運営に入った6社のメンバーは、社内外でのイベント運営などを日頃から行うことが多く、そこでの会場進行スキルが生かされた。もともと作ったレイアウトから、当日医療機関の視点から変更を提案されることを想定し、印刷物なども「受付」や「事務局」といった絶対に変更がないもの以外は印刷しないようにし、当日手書きで会場内の案内を作成した。

ちなみに松田と流は、自衛隊の大規模接種会場に2人で接種を受けに行き、会場のレイアウトや必要物資、導線や椅子の間隔などを記録して、参考にしたという。

スムーズな運営について、松田はアディッシュが行うカスタマーリレーション事業で培ったノウハウが生きたと話す。

「カスタマーサポートって、サイトにログインできない、メールが届かない、予約できたかわからないといった、誰でも回答できるようなお問い合わせが8割以上を占めるんです。そういったよくあるお問い合わせを運営本体がやるとパンクしてしまう。なので問い合わせ窓口は作りませんでした。

参加する110社各社の担当者がカスタマーサポートの一次受付だと明言して、まずは社内の問い合わせは社内で完結するようにし、担当者が判断できないものだけ運営に上げるという2段階にしました。これだけで9割の問い合わせをはじくことができます」

110社各社の担当者は、運営チームが開設したSlackのチャンネルに入り、そのチャンネルで情報を随時得たり、社内で解決できない質問をこの場で投げかけることができるようにした。

「我々は医療スタッフではないので、医療的な話はわからないことを明言し、その代わり、国やワクチン製造会社のマニュアルを示して、そうした質問は一切来ないように線引きをしっかり行いました」(流)

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会場は普段シェアオフィスや貸会場として使われる施設だ。受付を終えると写真奥のスペースで問診が行われ、その後手前のスペースで接種となる

また運営6社の役割を明確に分担したことも、迅速な意思決定を行う上で重要だったという。

「6社各社の1人ずつに領域別に担当を振り分けました。例えば流さんは会場担当で、A社の担当者はキャンセル対応を行い、B社は予約担当として予約システムやマニュアルを作るというように。6社で1チームですが、担当を会社単位で置いて、その領域に関しては各社に任せ切っている状態。いちいちお互いに質問しなくても全て意思決定を行っていいようにしました」(松田)

イレギュラーな業務に柔軟に対応できるよう、社内で環境を整えることも鍵となるという。

「人数が少ない会社で行う場合、社内の職域接種担当者が『この人はワクチンの対応を仕事としてやっているんだ』と明確に上司から認められ、社内から理解を得られていることは、実はかなり重要だと思います」(流)

少人数の会社では職域参加に心理的ハードルも

実際に今回の共同職域接種に参加した人たちに話を聞いてみた。

ガイアックスが運営するTABICAに登録し、自宅で料理教室を行うイギリス出身のStewart Dowardさんは、参加した理由をこう語った。

「とにかく早く、自宅で行う対面の教室と民泊を再開したいため、申し込みました。申請はとても簡単で、日本語が流暢でない私にとってはオンラインでの申し込みは簡単で迅速でした。今回接種を受けることができ、安心しました」

今回の接種に参加した企業のうち、従業員数が100名以上の会社は10社ほどで、ほとんどが50名以下の中小企業や、数名の企業もあるという。

共同職域接種へ参加した企業のうち、日程調整ツール「調整さん」などを手がけるミクステンドは、正社員や業務委託など全ての雇用形態の従業員を合わせて10名の企業だ。同社で事業開発を行う尾高文香は、参加を決めた経緯をこう語った。

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ミクステンド 尾高文香

「メンバーの健康を重視してワクチン接種についても積極的にアナウンスしたいと思っていましたが、従業員数10名の弊社にとっては職域接種を行うのに越えるべきハードルが高いなと感じていました。どこかの職域に参加したいと思ってもギブできるものがない。提供できる場所もないしネットワークも多くなく、参加しづらいという心理的ハードルがありました」

ミクステンドは昨年10月からNagatacho GRiDのシェアオフィスメンバーとして利用登録しており、今回の接種の案内を受けたのだという。

「登録したら全員が接種に強制参加しないといけないとか、接種対象者の条件として雇用形態に条件があるなら、弊社のポリシーに反するのでちょっと違うなと感じていたと思いますが、そういった縛りがなかったのは大きなポイントでした」

”アントイレプランナー”としてトイレの研究を行い、フリーランスで講演やメディアでの活動を行う白倉正子は、自治体の接種と比べて早かったことが参加の決め手となったという。

「私が住む地域では接種の日程が未定で、もしワクチンを来月に打てたとしても、健康で外に出ていい状態になるのは9月下旬頃になる。であれば、早く打てた方がいろいろな可能性が出て来るのかなと考えました。

私の場合、社員がいるわけでもお店を構えているわけでもなく、極端に言えば家でじっとしていることもできるので、他の方のワクチン接種の優先度が高いのは仕方ないなと割り切っていました。ただ、主婦であり、個人事業主である=会社員ではない人生を選んでいて、結局は社会から忘れ去られているんだろうなという、そういう寂しさとか物足りなさはありました」

自分らしい生き方を支えたい

今回の共同職域接種の実施を決定した思いについて、松田はこう打ち明けた。

「もともと自治体で接種が行われるのを見て情報収集するなかで、ノウハウを集約すればもっとうまくできると、勝手に接種オペレーションを考えてたんです。その後、共同での職域接種が可能だと報道されたので、会場さえ押さえられればできるのではないかと。

また、弊社はカスタマーサポートやSNSをモニタリングする仕事を行なっているので、クライアントとの兼ね合いでリモートワークが禁止されていて、家で業務ができなかったりするんです。そのため職域接種参加へのニーズ自体が弊社内でも高かったこともあります」

一方、流はこのプロジェクトに参加した狙いについて語った。

「私は世の中全体が、一つのプロジェクトだと思っています。ベンチャーが先進的な取り組みを行い、それが大企業にも徐々に広まり、世の中に浸透して変わっていく。ですが、当初は大企業だけが接種できますと言われ、悔しい思いがありました。

また、企業に所属している人や大企業に勤める人の方が有利で、『寄らば大樹の陰』となっていくと、自分らしい生き方をできる人が少なくなっていくのではないでしょうか。そうした循環は良くないと思い、自分たちだからできることがあると感じたからこそ、共同職域接種に参加しました。

こうしたプロジェクトを私たちがずっと運営していくというよりも、今回の知見が広まり、もし将来同じような状況に直面することがあったら、どの企業でもスムーズに職域接種を行える状態になることが望ましいと思っています」

ワクチン接種のオペレーションを巡っては混乱も生じているが、今回の共同職域接種の事例のように、中小規模の企業ならではのスピード感や柔軟性を生かした方法を積極的に共有し、行政など他のワクチン接種の現場でも生かしていくべきではないだろうか。

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