どこにでもある飲食店でこそドラマが起こる 『初恋の悪魔』でも一貫する坂元裕二の哲学

どこにでもある飲食店でこそドラマが起こる 『初恋の悪魔』でも一貫する坂元裕二の哲学

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  • 更新日:2022/08/06
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『初恋の悪魔』(c)日本テレビ

第3話で物語が一気に加速した『初恋の悪魔』(日本テレビ系)だが、本作の物語は3つのパートに分かれていると言えるだろう。

【写真】林遣都に膝枕する仲野太賀

まずは刑事ドラマの華といえる事件パート。捜査一課の刑事たちがロクに捜査しない事件を、会計課職員の小鳥琉夏(柄本佑)、総務課職員の馬淵悠日(仲野太賀)、推理マニアで凶悪犯罪に目がない、現在停職処分中の刑事課の刑事・鹿浜鈴之介(林遣都)、生活安全課の刑事・摘木星砂(松岡茉優)が、独自に考察するというのが第1話~第2話の流れだ。捜査権を持たない4人が事件の真相を導き出すが、彼らの功績は表には出ないという影のヒーロー性が本作の魅力だ。

一方、事件と同時進行で描かれるのが、馬淵たち4人の青春群像劇。脚本の坂元裕二は人間関係の機微を描くことを得意とする作家だが、馬淵と星砂と鹿浜の間に三角関係が生まれる第3話を観て、いよいよ坂元ドラマの本領発揮だと感じた。

そして全体を貫く物語が、馬淵悠日の兄で刑事だった朝陽(毎熊克哉)が殉職した事件。朝陽の友人だった境川警察署・署長の雪松鳴人(伊藤英明)は「朝陽は境川警察署の人間に殺されたのではないか?」と疑っている。馬淵は雪松から兄の事件を調べるように強要されており、鹿浜の元に最初に向かったのも、雪松が「怪しい」と言ったからだ。

第2話では、星砂が朝陽の死に関わっているのではないかと匂わされたのだが、この第3話では彼女が大きくフィーチャーされる。

今回描かれたのは、星砂が万引きを監視するスーパーで起きた連続万引き事件。犯行現場を目撃した星砂は万引きした客を捕まえる。しかし、客のバッグの中に商品は入っていない。監視カメラの映像を確認すると、荷物がカメラの前に置かれて死角となっており、犯行の瞬間は映っていなかった。同じことが5回も続いたため、星砂は自分の認識がおかしいのではないかと疑うようになっていく。

星砂が解離性同一性障害(多重人格)で「“ヘビ女”という別の人格を宿しているのではないか?」という疑惑が、劇中では繰り返し描かれている。この第3話でも、星砂の意識が飛び、気がつくと時間が経っていたという描写が挟み込まれる。そのため、連続万引き事件なのか、星砂の別人格が起こした認識の齟齬なのかがわからないまま、物語は進んでいく。

第5回自宅捜査会議で4人は、この事件は誰かが仕組んだもので、連続万引き事件の裏で別の犯罪が動いているのではないかと考察する。そして監視カメラで犯行現場を確認する際に録画が止まり、入力が出力に切り替わる瞬間を狙った犯行だと突き止める。

犯人は、スーパーに30年間務めているパート主任の女性で「老後の資金」が欲しくて社長室にある金庫の中にある売上を横領していたことが判明する。

今回は、小鳥が考察する際に「社会の闇」を持ち出し、鹿浜が何でも社会のせいにする小鳥を馬鹿にするシーンがなかったのだが、「老後の資金が欲しかった」という犯行理由は、社会の問題だと感じた。

4人の考察は、小鳥がなんでも社会のせいにし、鹿浜がなんでも猟奇殺人事件につなげようとする両極の意見があり、その間に馬淵の普通の意見と星砂の人間の本質を付いた意見があるという構造なのだが、毎回面白いのは、それぞれの意見が少しだけ正解だということ。4人のやりとりは議論というよりはバトンリレーのようなもので、それぞれが見つけた小さな正解を繋げていくことで真相にたどり着くという流れとなっている。

また、第2話の事件が馬淵の「兄に対する愛憎」とシンクロしていたように、今回は星砂の人格が入れ替わることで「時間が飛ぶ」問題と、監視カメラを再生に切り替えた瞬間に録画時間が「10分弱、飛ぶ」という状況が重ねられている。

やはり本作の事件は、各登場人物の内面を映す鏡なのだ。

事件解決後、鹿浜に拒絶された馬淵と星砂は居酒屋へと向かう。変わり者で普通の人にコンプレックスを抱いている鹿浜に対して、馬淵は鹿浜のような変わり者にこそ自分は憧れていて、逆に普通であることがコンプレックスなのだと星砂に告白する。そんな馬淵に対して星砂は「好きだよ」と返し、青春ドラマのような甘酸っぱいやりとりが繰り広げられるのだが、その後、星砂が馬淵の兄と会ったことがあり、自分の中に別の人格がいるかもしれないと告白すると、劇中の空気が変わっていく。

そして、星砂の秘密が一気に明かされ、彼女が苦手だったトマトを口にした後、ヘビ女らしき人格が登場するという怒涛の展開を見せる。その舞台が“居酒屋”だというのが、実に坂元裕二らしい。

居酒屋やファミリーレストランは坂元裕二作品では定番の場所で、客の雑音がうるさい飲食店で、恋人や友達が深刻な話をおこなう場面を、彼は繰り返し書いてきた。

「どこにでもある飲食店でこそドラマが起こる」というのが坂元裕二作品の哲学で、刑事ドラマを書いていても、そのスタイルは一貫している。

(成馬零一)

成馬零一

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