この時期に金正恩「総書記」就任の謎。過去の報道から見えた意図

この時期に金正恩「総書記」就任の謎。過去の報道から見えた意図

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  • 更新日:2021/01/13
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12日に北朝鮮の首都・平壌で開かれていた朝鮮労働党大会が閉会し、それに先立つ演説で、金正恩氏が「核戦争抑止力を強化し、最強の軍事力を育てることに全力を挙げる」と述べたことが大きな話題となっています。これまで「非核化」実現を掲げていた発言を正恩氏自ら放棄した形となったわけですが、その正恩氏がこの党大会で「総書記」に就任しました。今のタイミングで就任した意図は何なのでしょうか? メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんが、北朝鮮の「総書記」という文字を含む過去の新聞記事から、北の現状を読み解きます。

北朝鮮・金正恩氏「総書記」就任について新聞はどう報じたか?

きょうは《朝日》から。

北朝鮮の金正恩党委員長が党総書記に推戴されるという記事がありました。《朝日》の検索で「総書記」を検索すると、1年以内の紙面
掲載記事で50件ヒットしています。

きょうは、ちょっとよく分からない「総書記」を探ります。

まずは《朝日》3面の記事。見出しから。

金正恩氏が「総書記」に
北朝鮮、態勢強化の狙い

北朝鮮の朝鮮労働党は、金正恩党委員長を党総書記に推戴する決定を採択。「総書記」復活は父の金正日氏以来で、祖父、金日成主席も就いたポスト。2人の権威と並ぶことで「遺訓政治」から脱却し、正恩氏が首領としての地位を掌握したことを示す狙いか。

朝鮮労働党の党大会で、金正恩氏を「総書記」に推戴する決定書が採択されたという。決定書の中では「総書記」を「全党を代表し領導する党の首班」としている。

正恩氏は37歳で、父の金正日氏が総書記となったのは55歳、祖父の金日成氏は54歳の時だった。《朝日》の記者によれば、「核ミサイル開発の進展で軍事力を確保したことを成果とし、正恩氏中心の体制を一層強化する狙いがあるようだ」という。ただ、「経済が厳しいなか、総書記就任で内部の結束を高め、危機を突破したい思惑もあるようだ」とも。

(uttiiの眼)

このところ、北朝鮮関連の情報としては、金正恩氏が公然と自らの失敗を認めるような発言をしたり、経済計画がうまくいっていないことを認めたりするなど、父や祖父の時代には考えられなかった「率直さ」が表に出ていたので、そのことと今回の「総書記」就任にどんな関係があるのか知りたかったが、記者の取材も困難なのか、記事中に納得のいく説明はなかった。そもそも、朝鮮労働党委員長が「総書記」になることが、なぜ「内部の結束を高める」ことにつながるのか、理解が困難だ。

【サーチ&リサーチ】

50件のうち、相当数が北朝鮮ではなく、中国の「総書記」についての記事。アジアの社会主義国、あるいは共産党では、党のトップを「総書記」と称することが多く、General secretaryの訳という意味では、「書記長」も「第一書記」も似たようなもの。言葉の印象としては「合議体の記録係」のような感じだが、実際は強大な権力を持つ独裁者や、少なくとも共産党内で最高の地位を示す言葉になっている。

因みに、中国の習金平氏は共産党トップの総書記だが、同時に、国家主席として国家のトップでもあり、中央軍事委員会主席でもある。

金正恩氏と北朝鮮国民にとって「総書記」は依然として金正日総書記のことであり、正恩氏は「遺訓政治」の形を脱することが、最近まで難しかったのだろう。物別れに終わったハノイの米朝首脳会談から1年たった昨年2月、米朝非核化交渉を巡って、以下のような記事が掲載されている。

2020年2月28日付
故金正日総書記の誕生日だった16日、朝鮮中央通信は正恩氏が金正日総書記の遺体が安置されている太陽宮殿を訪れ、参拝したことを報じ、「正面突破戦の先頭で、革命的な進軍の歩幅を力強く踏み出す誓いを固めた」と伝えた」と。

*この後、4月に20日間、5月に入っても20日以上、金正恩氏の動静が伝えられない日が多くなる。そして、父の金正日総書記が韓国の金大中大統領と行った南北共同宣言から20年の6月15日、韓国の脱北者団体による体制批判ビラの散布に反発して「終わりをみるまで連続した行動で報復する」と韓国を非難。16日には予告通り、開城の南北共同連絡事務所を爆破した。

2020年8月20日付
党大会開催を決定した中央委員会では「予想しなかった挑戦が重なって計画した目標にとても達せず、人民生活を向上できない結果となった」と経済不振を認めた。父の故金正日(キムジョンイル)総書記は一度も開かなかったが、正恩氏は16年、1980年以来36年ぶりとなる党大会を開き、さらに2021年1月の党大会開催を決めたことになる。

2020年10月6日付
核ミサイル開発を担う軍幹部2人に「元帥」の称号を与える。これで「元帥」は正恩氏を含めて4人に。

2020年10月11日付
夜間に行われた異例の軍事パレードの前に演説した金正恩氏は、「「私は首領(祖父の故金日成〈キムイルソン〉主席)と将軍(父の故金正日〈キムジョンイル〉総書記)の偉業を仰いでこの国を率いる重責にあるが、努力が足らず、人民が困難な暮らしから抜け出せないでいる」と自らを省みた」とされている。

2021年1月7日付
党大会の初日、開会の挨拶で金正恩氏は過去5年間の経済政策の失敗を認めた。記者は「率直に反省できるリーダー像を演出して求心力を強め、経済再建に向けて人民を鼓舞する狙いがあるようだ」と評している。

(uttiiの眼)

この間の記事を並べて読んでみると、金正恩氏が「遺訓政治」から脱して、しかも、父や祖父では為しえなかった「率直さ」さえ表に出して権力を維持しようとしていることが見えてくる。

ところで、今回の党大会では自らに「大元帥」の称号を与えようとしているのではないかとの情報が韓国の情報機関から流れてきたこともあったが、これは「総書記」に置き換わったのかもしれない。「大元帥」であれ「総書記」であれ、父祖の時代とは違う「自分の時代」を演出しようという意図は明らかと思われる。

さて、この「金正恩の北朝鮮」と我々はどのように付き合っていけば良いのやら…。

image by:Alexander Khitrov/ Shutterstock.com

MAG2 NEWS

内田誠『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』

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