オリンピックレガシーのなくなった選手村「晴海フラッグ」は、値下げしてどんどん売りさばくしかない

オリンピックレガシーのなくなった選手村「晴海フラッグ」は、値下げしてどんどん売りさばくしかない

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/02/23

コロナ禍が終息を見せず、緊急事態宣言がだらだらと続く中、東京五輪選手村での利用の後に分譲・引渡しを予定している大規模マンション群、晴海フラッグが久しぶりにメディアを賑わせている。このマンションですでに購入の契約をしている客の一部、約20名が、東京五輪延期により、引渡しが1年程度遅れたことに対する補償を求めて、東京地裁に民事調停を申し立てたからだ。

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東京都中央区の臨海地区に建設されている東京五輪・パラリンピックの選手村。大会後は1万人超が暮らす街「晴海フラッグ」となる  提供元: 共同通信社

2023年3月の引渡し予定、1年延期を申し出

晴海フラッグは計画戸数5632戸、東京都中央区の晴海に建設される大規模マンション群だ。このうち分譲されるのは全体戸数の74%にあたる4145戸で、19年7月に始まった中低層棟の分譲ではすでに約900戸あまりが売買契約を締結しているという。五輪終了後に建設が予定されている高層棟(2棟1455戸)を除いては、建物はすでに完成、五輪終了後に間取りなどを含めて全面リニューアルを施して引き渡すため、中低層棟の引き渡しは2023年3月を予定していた。

ところが長引くコロナ禍とそのことを理由とする五輪延期によって、売主である三井不動産レジデンシャルを幹事会社とするデベロッパー11社は、契約者に対して引渡しの1年延期を申し出たのだ。

入居を予定していた契約者の方々には確かに気の毒な部分がある。投資用で購入する投資家と違い、実需での利用を考える場合、現在居住中の賃貸マンションの契約延長の問題、子供の学校の問題など、たかが1年されど1年である。1年分の賃料くらい補償してほしい、という気持ちもわからなくもない。説明会の開催を迫ったが、売主側はこれを拒否。そのことで関係が険悪になったとの報道もある。

売主側は「契約解除して別のマンションを探せば……」

いっぽうで、売主側も今回のコロナ禍による五輪開催延期は想定外の事象であるので、本来ならば契約締結後の買主からの契約解除は、既に受領している手付金(購入価額の10%程度)については、返済せずに没収してしまう(手付流し)こともできるのだが、今回はノーペナルティでの解約に応じているという。

ならば延期によって人生計画が狂ってしまう契約者はさっさと契約解除して別のマンションを探せばよい、これが売主側の理屈だ。しかも通常のマンション売買契約書には、天災などの不可抗力な事象を原因とする引渡しの遅延については免責される条項が入っているはずだ。さすがに延期を売主側の人為的なミスとすることに関しては、今度はデベロッパー側に同情してしまう。

五輪に振り回されている晴海フラッグ

つまり結論としては、契約者の気持ちは理解するものの、補償などの要求はやや「無理筋」というのが結論だ。担当する弁護士もいきなり裁判に訴えることはせずに調停に持ち込んでいるところをみても、裁判所で闘うことにあまり勝ち目はないと思っているのではないだろうか。裁判所からしても、こうした案件がきても「まあ、お客さんの気持ちもわからないではないが、売主は大手さんばかりなのだからあんまり喧嘩せず」くらいの気持ちだろう。もともと東京都から都有地が異常に安いお値段でデベロッパー各社に卸されている(むしろこちらのほうが、先に裁判沙汰になっている)わけだから、ちょっと補償くらいしてくれたって、という買主側の思惑も透けて見える。

現在、国民の大半が東京五輪の中止または再延期を望んでいるという。五輪に振り回されている晴海フラッグだが、一向に先が見えない視界不良の中、どうしていけばよいのだろうか。結論は「もう振り回されることはやめてしまおう」というものだ。

オリンピックレガシーとしての価値がなくなれば、冴えない物件に

まず、五輪が中止となれば話は簡単だ。今すぐリニューアル工事にかかることしかない。従来、2年半をかけて間取りの変更、内装等のやり替えを行うことを予定してきたが、選手村として使われないのだから片付けもなく、多少工期を早めることができるかもしれない。最速でかかれば23年の夏くらいまでに引き渡せる可能性がある。ただしオリンピックレガシーとしての価値はなくなり、勝どきの駅からめちゃくちゃ遠い海辺のマンションという、あまり冴えない物件となってしまいそうだ。なにせ勝どき駅周辺には徒歩圏内に既にたくさんのタワマン群がそびえる。その中をとぼとぼ歩いて海風吹きすさぶマンションに帰る気持ちはあまり盛り上がりそうにない。まだ残り3000戸以上の住戸を売らなければならないデベロッパー側も、まことにご苦労様というしかない。

問題は再延期だ。また1年後に開催となれば、引き渡しは当初予定の23年3月から25年3月に遠のくことになる。購入を決断したのは19年。婚約から6年というあまりに遠い結婚式を待つ男女のような気分だ。6年もたてば家族構成も変わる。今はかわいい息子がグレたり、娘は口も利かなくなっているかもしれない。学校だって変わっているかもしれない。6年たてば小学校だって卒業だ。

さらに24年にはパリ五輪があるから、28年のロス五輪の後、つまり32年の開催に廻ろうという意見がある。そうなってはもはや絶望としか言いようがない。今から11年後、マンションはすでに19年に竣工済みであるからリニューアル後の34年入居、つまり築15年のマンションを引き渡されてもワクワクなんてするだろうか、という話になる。これはもう、選手村は別に用意したほうがよいことは言うまでもない。

今からリニューアル工事に入って安く販売すればいい

さて、森さんをはじめ、五輪関係者は石に噛り付いてでも五輪を開催したいとのことだが、仮に行うとしても、日本にやってくる選手や競技関係者の数は極端に少ないだろう。そして選手村を利用する選手も少なく、おまけにPCR検査実施に、外出もままならない、そんな選手村に多くの日本人がワクワクするだろうか。

いっそのこと、もう選手村として利用することを諦めたらどうだろうか。今、少なくとも選手村としての利用をやめて、リニューアル工事に入れば、多少の遅れがあっても23年の引渡しが大きく遅れることはない。デベロッパーは売りにくくはなるだろうが、もはや「無理くり」行われた五輪の「選手がいたんだかいなかったんだかわからない」選手村の後のマンションに過度の不動産的価値を期待するのはそれこそ「無理筋」というものだ。もともと土地代はめちゃくちゃ安かったのだ。思い切り安売りしてさっさと売りさばけばよい。

弱り切ったホテル・旅館を選手村に

それで、やってくる選手たちはどこに滞在するか、といえば簡単だ。コロナ禍で苦しむ都内のホテル・旅館の部屋を選手、競技関係者たちに利用してもらえばよい。菅さん得意のGO TO ホテル&旅館だ。都内の多くの宿泊施設は長引くコロナ禍といつまでも解除できない緊急事態宣言下で、稼働率は10%程度と阿鼻叫喚状態だ。そんな彼らを救うことがGO TO だったはず。選手村はさっさとマンション仕様にお化粧直しして早く売り払う、選手たちには弱り切ったホテル・旅館に宿泊してもらう。どうせ海外からの観客を呼ぶことは不可能だろうし、日本人観客だって制限されてあまり来ないだろう。全館PCR検査体制を万全に整えたうえで、一棟丸ごとお泊りいただければ、日本流の「お・も・て・な・し」の真髄を味わっていただけるはずだ。

これだけのこと、リーダーの意思で決められるはずだ。放置しておけば経済的被害はどんどん拡大する。そして人々は疑心暗鬼となって無理や無駄な闘争が始まる。晴海フラッグ、早く楽にしてあげようではないか。

(牧野 知弘)

牧野 知弘

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