日本で繰り返すドーナツ人気「3つの大きな節目」

日本で繰り返すドーナツ人気「3つの大きな節目」

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/05/15
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東京・池袋の「ラシーヌブレッドアンドサラダ」では、常時20〜25種類のドーナツを販売している。一番人気は左上の「フジカワレモン」(撮影:今井 康一)

近頃、カラフルなフレーバーのバリエーションを並べるドーナツ店があちこちに誕生し、行列ができている。今回の流行は、ブリオッシュの発酵生地を使ったふわふわドーナツ。フルーツフレーバーなどの砂糖入りソース、グレーズをかけたものなど、バリエーションの豊富さや、くちどけのよさを売りにするブランドが目立つ。

2000年代以降、ドーナツブームはすでに二度訪れている。

一度目は、2000年代後半。2006年にアメリカのクリスピークリームドーナツが日本へ上陸して大流行し、同年に奈良発の「フロレスタ」、2008年に神戸の豆腐屋の豆乳・おからが原料の「はらドーナッツ」などのチェーン店が誕生し、2006年に東京・代々木上原に店を構えたハリッツなど、人気店が次々と開業したことがブームのきっかけだった。

二度目はセブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートなど大手コンビニがドーナツ販売を始めた2015年頃。そして今、おしゃれな店が青山などに次々とできている。いったいなぜ、ドーナツブームはくり返し訪れるのだろうか。

1日5000個のドーナツを売り上げる人気店

池袋から徒歩約10分の住宅街に位置する「ラシーヌブレッドアンドサラダ」がドーナツを売り始めたのは、2020年7月。季節の果物入りソースをかけた、ふわふわで滑らか、くちどけがよいドーナツを平均単価300円で、常時20~25種類をそろえる。一番人気の「フジカワレモン」は290円。香川県観音寺市のフジカワ果樹園の無農薬レモンを使ったグレーズを、ブリオッシュドーナツにかけたものだ。

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昼時ともなると、ドーナツが次から次へと売れていく(撮影:今井 康一)

同店と南池袋公園、目白、青山の4店で、1日5000個のドーナツを売り上げる。週末には、午後2時半頃には残りわずかになってしまうことも多い人気ぶりだ。

ラシーヌのドーナツの製造・販売を行うグリップセカンドの金子信也社長は、「いろいろな年代の人が一緒に食べられる。そんなに高くないから、子どもが母の日に買うなどハードルも低い」とドーナツが支持される理由を分析する。「ケーキだと手土産としては重い印象を与えがちな場面でも、ドーナツなら気軽に持参し喜んでもらうことができる」。ラシーヌでは、ドーナツを4個以上買っていく人も多いのだという。

「安定需要を見込める」以外の理由

だが、同社がドーナツの販売を始めたのには、安定需要を見込めるということ以外の理由がある。

同社はイタリアンやビストロ、パン屋など、業態が異なる14の飲食店を展開。全国70カ所以上の農家・酪農家・漁港など産地と直接契約し、その日に集まった食材からそれぞれの店でメニューを決める。

全店で年間5億円分の食材を仕入れるが、ロス率はわずか1%しかない。食材を無駄にしない同社が、コロナ禍で窮地に陥る果物農家を救おう、と始めたのが果物を使うドーナツとジェラートの販売だった。

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池袋駅から徒歩10分ほどのところにあるラシーヌの店舗(撮影:今井 康一)

金子社長は、「コロナの巣ごもり需要で、A品と呼ばれる規格どおりの果物は売れたのですが、加工用のB品、C品の価値が非常に下がって販路が少なくなった。僕たちは農家さんの課題を解決するために、“エクセプト・フォーA”、つまりA品以外を加工するプロジェクトを立ち上げたんです」と語る。

もともとフランス料理のラシーヌブランドでパン屋も経営し、製造技術を持っていたことに加え、海外滞在歴が豊富な金子社長自身が、日本ではドーナツがブームになるのに、アメリカなどのように国民食にならないのはなぜか疑問を抱いていたことも理由だ。

4年ほど前からニューヨークやボストンのドーナツ店へ視察に行くなどしていたこともある。

「アメリカのドーナツは非常に甘くサイズも大きいが、日本でレストランのシェフの料理技術と繊細なパン製造技術を融合すれば、天然のフレーバーをグレーズに使った豊かな食感のドーナツができるのではないか」と構想。また、ドーナツはコロナ禍などでふさいだ雰囲気の中で、人を笑顔にする食べ物としても魅力があり、社会に貢献できると考えた。

ドーナツの販売を始めたことは、同社にとっても新しい視点を獲得するきっかけもになった。金子社長は、「BC品を売ることはコロナ禍にとどまらない、農家さんの課題です。ジャムやジュースへの加工は珍しくありませんが、レストランとして、農家さんが一番食べてほしい状態でドーナツやジェラードに加工すれば、価値を高めることができる」と話す。果物を加工するため、同社は2021年5月、池袋にセントラルキッチンも作り、「新たな雇用を生み出すことができました」(金子社長)。

日本の「ドーナツ史」を変えたのは

日本でドーナツは、戦前からレシピが紹介されていた。オーブンを使わないので、家庭でも作りやすい。また、牛乳や卵、小麦粉、砂糖を使った素朴な味が愛されてきた。中にクリームを入れる、グレーズをかけるなど、さまざまな味のバリエーションを作れることが知られたのは、1971年にミスタードーナツが日本に上陸してからだろう。

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季節などによってドーナツの種類が変わることも(撮影:今井 康一)

それでも長い間、ミスタードーナツ以外は、砂糖だけをかける、あるいはトッピングなしのシンプルなドーナツが家庭で作られ店でも売られてきた。クリスピークリームドーナツは、おしゃれさでミスタードーナツの上を行き、目新しかったことが流行の要因として大きかった。

コンビニスイーツは、2010年頃からクオリティーの高さで注目されるようになっていたうえ、何しろ店舗数が多く全国にあるので、一度人気になれば強い。ドーナツが販売されると、再びブームになったのもうなずける。

三度目となる今回のブームは、人気のパン屋が販売するなど、ブリオッシュの発酵生地を使ったドーナツが目立つ。ふわふわの食感は、スフレタイプのチーズケーキやスポンジケーキ、コッペパンなどが代表する日本人好みだったことも、人気の要因と言える。それまでの主流は、ベーキングパウダーで膨らませるケーキ生地だった。

ブームが訪れるのは、一度ブームが沈静化するからだ。ドーナツが廃れるのではなく、流行の店の味が陳腐化し他の目新しいスイーツに目が行くだけで、忘れられるわけではない。新しいブランドができるたびに流行するのは、もともとドーナツが愛されているからだろう。シンプルな食材を使ったドーナツは、素朴で懐かしい味わいである。誰でも食べたことがある味で値段も高くない、気軽な定番スイーツである。

社会課題を解決する食品にもなっている

今回のブームは、ラシーヌもそうだが、いくつかの店が社会課題を解決することを掲げている点にも特徴がある。ラシーヌは食材のロス率が驚異的に低い飲食店ブランドで、オーガニックな食材を使ってきた。

やはり産地の課題を解決しようと、北海道の食材を使う学芸大学の「ヒグマドーナッツ」、ヴィーガンのドーナツを売る下北沢の「ユニバーサル・ベイクス・ニコメ」などが今は人気になっている。

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(撮影:今井 康一)

環境を守ること、健康的で持続可能な食を選ぶことといったSDGsの考え方は、近年急速に食の世界に浸透してきた。食べること、買うことを通じて社会貢献することがおしゃれ、というトレンドが、やがて本気で社会の問題に取り組む人たちを増やしていくことにつながる可能性はある。

SDGsへの取り組みは、日本は遅すぎ、広がらなさすぎると言われ続けているが、もしかすると、こうしたメディア化した食から、社会を変えていくことが日本的なのかもしれない。

(阿古 真理:作家・生活史研究家)

阿古 真理

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