「それを戦略的に作れるか?」 楽天の4つのフォントができるまで

「それを戦略的に作れるか?」 楽天の4つのフォントができるまで

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2020/09/15
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どこかの企業をイメージするとき、多くの人はまず「ロゴ」を思い浮かべるのではないだろうか。あるいは、店や商品、CMなど、見たり触れたりできるものかもしれない。そこで、「あの企業はフォントがいいよね」という人は稀なはずだ。

しかし、クリエイティブディレクターの佐藤可士和は、その目立たない要素を「コントロールすること」が有効なブランディング戦略だという。

2000年に自身の会社「SAMURAI」を立ち上げた佐藤は、2003年から楽天にチーフクリエイティブディレクター(CCD)として籍を置く。その楽天はこの7月、4書体からなる「フォントセット」を開発したことを発表した。

身近なところでは、メルカリが昨年11月にコーポレートフォントを発表しているが、コーポレートフォントとは、どのような戦略とプロセスで生まれるのだろうか。制作を監修した佐藤と楽天デザインラボのメンバーに話を聞いた。

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フォント開発の様子。左が佐藤、右は楽天デザインラボのデザイナーChee Yen Thye(タイ チーイエン)(c)楽天

「大企業、または様々なサービスを展開する企業にとっては特に、フォントの統一は有効なブランディング戦略です。日本語のフォントは難しいけれど(今回開発したのは英数字のみ)、それでも英字をコントロールすると、ロゴや広告、ウェブサイトはもちろん、名刺や提案資料においてまでイメージを統一することができる」。佐藤はフォントの役割についてこう話す。

そうした考えから、2003年のCCD着任後、楽天のロゴを新たにデザインし、フォントを選定。2012年には、楽天初のオリジナルフォント(1種類、2書体)を開発した。それを今回4種類に増やしたのは、どんな戦略があってのことだろうか。

「いまや楽天のサービスは70を超えます。いろいろな表現が求められるなか、コーポレートフォント1種類で対応するのは難しくなった。4種類あれば、サービスの多様性を表現しながらも、統一感を出すことができる。今後さらに事業が増えても、対応しやすくなります」

Eコマース、金融、トラベル、スポーツなど国内外で展開する様々なサービスを展開する楽天は2018年6月、新しいステージへの挑戦の決意としてグローバルロゴのデザインを一新した。フォントについてはその後、同年末に構想を始めたという。

しかし、その制作には膨大な時間と費用がかかる。今回の4フォントは、本格的にプロジェクトが開始してから完成するまでにおよそ1年を要した。

開発にあたりタッグを組んだのは、ロンドンに拠点を構えるフォントデザインのスペシャリスト、Dalton Maag社。エアビーアンドビー、ネットフリックス、フェイスブックなど時代をリードする企業のほか、2016年リオデジャネイロ五輪のフォントも手掛けている。

フォントの開発は、「フォントを作ってからロゴを作る」「フォントとロゴは切り分けて考える」など様々なパターンがあるが、佐藤は「ロゴ」起点の手法をとる。

「Rakutenという7文字のロゴ、中でも”R”が重要で、ベースになります。そのイメージから離れず、でもフォントとして使いやすく読みやすいものを作り、新たなサービスにも対応させていきたい。そんなコンセプトと戦略をDalton Maag社に伝え、素案をもらい、細かな調整を重ねていきました」

可読性と判別性の追求

そうして完成したのは、楽天ロゴを骨格のベースにした「Rakuten Sans」、エレガントな明朝体ベースの「Rakuten Serif」、楽しさを表現する「Rakuten Rounded」、スポーツ関連の制作物などに適した力強い「Rakuten Condensed」の4種類。各5ウェイト(文字の太さ)、さらにSansとSerifのイタリック(斜体)が揃い、合計30パターンとなる。

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右上から時計回りに「Rakuten Rounded」、「Rakuten Condensed」、「Rakuten Serif」、「Rakuten Sans」

佐藤の言う「読みやすく使いやすい」については、デザイナーのChee Yen Thyeの説明が興味深い。フォントにおける読みやすさには、可読性(Readability)と判別性(legibility)の2つがあるのだという。日常で意識することはほとんどないが、単語や文章などまとまりとして「読みやすいか」、似た文字が並んだときに「判別しやすいか」ということだ。

新フォントではそれらを満たすため、大文字に対する小文字の高さを下げたり、小文字の「l(エル)」下部を曲線にして大文字の「I(アイ)」と差別化したり、「aとo」や「gとq」の見間違いを防ぐために二階建ての「a」と「g」を作るなどした。

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(c) 楽天

「デザインだけでなく文章の文字となるので、スマートフォンの画面で見る小ささでも見やすいか、長文でも読みやすいかは重要です。また、デザイナーに限らず多くの楽天の社員が使うので、資料作成ツールで使ったときや、紙に印刷したときに文字がつぶれないかなど、様々な用途を想定して検証しました」と、同じくデザイナーで楽天デザインラボ マネージャーの河上洋樹は話す。

実に細かく、気が遠くなりそうな作業だ。しかしその絶妙なニュアンスを「ユーザーは自然に感じ取っているはず」だと佐藤は言う。

「料理と同じです。美味しいかまずいか、その微妙な違いは料理ができない人でもわかる。でも『それを作れるか?』というのは別の話です。フォントも同じ。体系立てて、細かなところまで戦略的かつ効率的に作れるか。これは、デザイン、ブランディング、経営、運用までわかっていないとなかなか難しいです」

楽天の財産が増えた

「これでデザインのベースが全て揃った」と佐藤は言うが、今回のプロジェクトで得られたのはフォントだけではない。2018年4月に発足した楽天デザインラボが制作にフルコミットしたことが大きな成果であるという。

「極端な話、このフォント制作は僕とDalton Maag社だけで進めることもできたかもしれません。しかし、それでは楽天にナレッジが残らない。楽天の”担当者”でなく”デザイナー”が細かなところまで入り、社内にノウハウが蓄積されたことは本当に素晴らしい財産です」

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佐藤、楽天、Dalton Maag社でのフォントに関する議論。検討を重ね、少しずつ方針を絞り込んでいった。(c) 楽天

佐藤との仕事を振り返り、「1年以上かけて多くの議論を重ねましたが、可士和さんは判断スピードが早く、迷いがない。『ブランドとして強くなるか』という軸でどんどん決めていく」と話す河上は、ラボ創設前から楽天で働いている。

最後に、ラボができてから大きく変わったことはあるのかと聞くと、「以前より、仕事が経営に近いところにあります。決定のスピードが上がりました。世の中や会社の変化にデザインですぐに対応できるのは大きいです」と、そのやりがいを語ってくれた。

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