
原作を深く理解する二人による共作だった
二〇二〇年の大ヒット映画『鬼滅の刃 無限列車編』の主題歌「炎」の作詞は梶浦由記氏と歌手のLiSAとの共作としてクレジットされている。実際にどのように創作は進められたのか、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が梶浦氏に聞いた。
【写真】作詞・作曲・編曲を手掛けるマルチ音楽コンポーザーの梶浦由記氏
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梶浦:今回、はじめに私が一回全部書いたんです。でも、我ながらすごく悲しくなってしまって。映画化された箇所は原作を読んでるときに、そちらの気持ちで読んでいたんです。この歳になると、親しい人を何人も亡くしているので、いろんなことを思い返してしまって……。それもあって、歌詞には悲しみが強めに出ていました。
前向きさよりも悲しみにすごく寄っちゃったなと思いながら歌詞を提出したら、やっぱりスタッフの方々から「もうちょっと前向きにしたい」と。私も「そうだよね」と思い、そこからLiSAさんに手伝っていただきました。
LiSAさんは「子どもも見る作品」という点を大事にしていました。「見終えた子どもを悲しい気持ちにさせないほうがいいんじゃないかと思います」とおっしゃって、前向きな気持ちを足してくださった。結果、すごくよくなったなと思っています。共同作業にさせていただけたのは本当にありがたかった。
――お二人の異なる視点が入っていることになりますが、実際に歌を聴いても違和感はありませんでした。
梶浦:そこはLiSAさんが元の歌詞を非常に汲んでくださったからですね。読解力も発想力もある方ですから。もともとLiSAさんって、すごくいい歌詞を書かれるので、私、すごく好きなんです。あれだけいい歌詞を書く方なので、別にどこを直していただいても、私のほうも不安はなかったです。
LiSAさんもすごく原作への理解が深くて、特に「あの話は一番好きなエピソードだ」とおっしゃっていたので、そこに対するご自身の気持ちも入れたかっただろうと思いますし、そういった意味で、とてもいい共作にさせていただけたなと思っています。
――梶浦さんからみて、LiSAさんの歌詞の魅力は、特にどのような点にありますか?
梶浦:きらっと光る言葉を出されます。すごくキャッチーな言葉を使われますよね。それが素晴らしいなと思います。
――作詞できる者同士だからこそ、できた共作ということもいえますね。
梶浦:そうですね。正直、一度も歌詞を書いたことのない方に、「好きに変えていいですよ」とは言えませんから。でも、逆にLiSAさんだったら、「どういうふうに素晴らしく手を入れてくださるだろう」というワクワクがあったので、楽しみでした。
【プロフィール】
梶浦由記(かじうら・ゆき)/作詞・作曲・編曲を手掛けるマルチ音楽コンポーザー。1993年「See-Saw」のコンポーザー兼キーボーディストとしてデビュー。現在はアニメを中心とした劇伴音楽を手掛け、「ソードアート・オンライン」、「魔法少女まどか☆マギカ」、「鬼滅の刃」等、数々の話題作を担当。
【聞き手・文】
春日太一(かすが・たいち)/1977年生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2023年3月24日号
NEWSポストセブン