いまさら聞けない...「遺伝子」「DNA」「ゲノム」って、それぞれ結局どういう意味ですか...?

いまさら聞けない...「遺伝子」「DNA」「ゲノム」って、それぞれ結局どういう意味ですか...?

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2023/01/25
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「ゲノム」や「DNA」という言葉は誰でも知っているし、日常会話のなかでもよく口にする言葉です。しかし、それらが生命の情報だったり、設計図だったりすることはなんとなくわかっていても、それが具体的にどんな形で私たちの体の構造に現れるのか、理解するのは、なかなか難しいことです。

そこで今回は、このような情報や設計図がどのように伝わるかを、分子生物学者の中井 謙太さんに解説していただきました。

*本記事は『新しいゲノムの教科書――DNAから探る最新・生命科学入門』を一部再編集の上、紹介しています。

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「ゲノム」「遺伝子」「DNA」…それぞれ何を指す?

よく知られているように、私達の体は元々1個の受精卵からできたものである。受精卵は成熟個体のすべての細胞の情報を保持しており、その情報は細胞が分裂するたびにコピーされていくので、基本的にはすべての体細胞が(核の中に)もとの受精卵と同じ全情報をもっている。

また、単に個々に分化した細胞の情報をもっているというよりは、未分化状態の細胞が分裂を重ねて、体づくりを行っていく指示書(プログラム)という形でもっているので、それをうまく起動できさえすれば、任意の細胞から、複雑な多細胞の個体を再生できることになる。この情報のことを、ゲノム情報、あるいは単にゲノムという。

すなわち、ゲノムとは、(厳密な定義は難しいが)ある生物がもっていて、その生物をその生物たらしめる全遺伝情報の一揃えと定義される。遺伝情報という言葉をはじめて使ったが、要するに細胞が分裂するたびに、あるいは生殖によって、親から子に伝えられる情報という意味である。

このようにゲノムとは、ある意味で抽象的な概念であるが、その情報の単位が遺伝子であり、その実体は、後述するように(核内)DNAという高分子物質である。

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遺伝情報は、細胞が分裂するたびに伝えられていく photo by gettyimages

意味が変遷した「遺伝子」という言葉

実は、遺伝子(英語ではgene)という用語の意味するところは、歴史的に変遷を重ね、また今日でも様々な文脈で用いられるので、その定義を簡潔かつ正確に述べることは不可能に近い。

遺伝子は元々、DNAなどの実体が解明される前からいわば仮想的にその存在が想定されたものである。すなわち、1860年代にメンデルによってエンドウの種子の形などの様々な性質(形質)の遺伝の法則を説明するために最初に導入された(メンデルは遺伝子という言葉を使ったわけではないが、同等の概念を提案した)。

その後、ショウジョウバエなどを使った遺伝学が、メンデルの研究成果が知られないままに、20世紀初頭頃から盛んになった。そして、仮想的な存在である遺伝子が、染色体上に並んでいることが知られるようになり、遺伝子が一次元的に多数配置された染色体地図が作られた。

また、ビードルとテータムは、アカパンカビの成長に必要な栄養素にかかわる突然変異の遺伝的ふるまいなどを調べることで、「一遺伝子一酵素説」を提唱した(1945年頃)。

酵素とは、生体内の化学反応を触媒する分子のことで、通常はタンパク質でできている。つまり、「一遺伝子一酵素説」は、一つ一つの遺伝子がそれぞれ別の酵素機能と対応していることを主張している。

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ジョージ・W・ビードル(左)とエドワード・L・タータム。1958年のノーベル医学・生理学賞受賞時 photo by gettyimages

先のメンデルの例で言えば、エンドウの豆が黄色いという性質は、その対応遺伝子がたとえばある種の色素合成酵素タンパク質の細胞内生産と関係しているなら、うまく説明できる。

分子遺伝学の誕生

一方、遺伝子とDNAの関係はちょうど同じ1940年代にアベリー(エイブリーとも表記される)による形質転換の実験によって、最初に明らかにされた。すなわち、ある形質(この場合は表面の外層構造)をもたない細菌に、その形質をもつ別の細菌から抽出したDNAを取り込ませてやると、新たにその形質をもつようになるというものである。

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オズワルド・T・アベリー photo by gettyimages

しかし、この研究の意義が広く理解されるようになったのはもう少し後のことで、1950年代のDNAの二重らせん構造の発見の頃になる。この頃から、遺伝学という形質の遺伝様式を調べる学問とDNAというその実体に関する知識が融合され、大腸菌やこれに感染するウイルスである(バクテリオ)ファージなどを用いた、いわゆる分子遺伝学が盛んに研究されるようになった。

「遺伝子」は、DNAのどこにある?

このように、遺伝子は、元々は染色体上のある位置(遺伝子座、英語ではlocus)が生物の示す形質と対応づけられたものであったが、実際はDNA上の点ではなくて、ある局所的な領域であって、そこに書かれた情報がある種の形質を示すために使われる。

前述の一遺伝子一酵素説が示唆するように、この領域の情報をもとに、特定のタンパク質が作られ、そのタンパク質の働きによって、形質が外から観察できるようになるのである(実際には、遺伝子が担う機能は、酵素反応だけではなく、多岐にわたるので、一遺伝子一タンパク質説と呼んだほうが、より正確であった)。

また、より正確にはDNAの部分情報がまずRNAというDNAとよく似た物質にコピーされ、そのRNAをもとにタンパク質が合成される。

典型的な遺伝子は、タンパク質の設計図になっている。したがって、その設計図が書かれているDNA上の始まりから終わりまでが遺伝子に対応すると考えたくなる。あるいは、DNA情報をもとにタンパク質を合成する際には、まずRNAに写し取られるので、その写し取られる領域を遺伝子とみなすことも考えられる。

ただし、RNAのコピー開始位置や終結位置にはときに大きな揺らぎがあるので、この考え方は厳密な定義には使いづらい。それでも世間では便宜上、遺伝子をおおざっぱに、RNAにコピーされるDNA領域とみなしていることが多いようである。

しかし、遺伝情報とは、RNAがどういうタンパク質を合成するのか、という情報だけではないのである。

遺伝情報は、タンパク質の構造を伝えるだけではない

実は、遺伝情報には「どんな」タンパク質を合成するかという構造情報だけでなく、「どのような状況で」そのタンパク質を合成するかという制御情報も重要である。

そのような情報は、そのタンパク質の構造情報が書かれている領域からは大きく離れた位置に書かれていることも多く、実際にどこにそのような情報が書かれているのかよくわからないことさえ多い。

そのため、本来はそのような領域(制御領域)も遺伝子の一部とみなされてもよいはずだが、それらはゲノムのデータベースなどで遺伝子と記載されている領域には含まれないのが普通である。

RNAとDNAのちがい

ここでまず、先にふれたRNAについて簡単に説明しておこう。RNAはリボ核酸の略称で、DNAの親類の高分子である(前述のようにDNAはデオキシリボ核酸の略称。DNAとRNAをまとめて核酸とよぶ)。

化学的には、ヌクレオチド内の糖(リボース)において2'位置の炭素についていた水素が、RNAでは水酸基(-OH)に置換されているところが異なる(逆にRNAのリボースの酸素がとれて〈デオキシの意味〉、DNAになるとも言える。図「DNAとRNAの構造ユニット」参照)。

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DNAとRNAの構造ユニット

つまり、正確にはDNAの構成単位はデオキシリボヌクレオチドであり、RNAの単位こそが(リボ)ヌクレオチドである。また、生体内で用いられている塩基はDNAと同じく4種類であるものの、構造上の要請でチミン(T)のかわりにウラシル(U)が用いられているところにも注意がいる。

RNAはDNAと異なり、水酸基の部分で加水分解を受けやすく、化学的には比較的不安定である。長いRNA同士で相補的な二本鎖構造をとることは、一時的にはあっても、安定してとることはない(ある種のウイルスは二本鎖RNAゲノムをもつが、短い断片に分かれている)。

ちなみにRNAのとる二重らせん構造は、DNAの標準構造であるB型ではなく、むしろB型より短くコンパクトで塩基対が傾いているA型構造に近いと言われている。したがって、RNAはDNAのように核内で遺伝情報を安定して保持する用途には向いていない。

DNAの塩基配列をどう「読む」のか

通常、DNAからRNAを通して、タンパク質へと一方向的に遺伝情報が伝えられることを「セントラルドグマ」という。その基本は1957年にクリックによって提唱された。DNA→RNA→タンパク質という情報の流れは分子生物学の基本であり、例外があるとはいっても、基本的には地球上のすべての生物に対してあてはまるといっても良いものである。

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セントラルドグマ。遺伝情報は左から右へ進む illustration by gettyimages

では、生物はどのようにして、DNAの塩基配列を「読む」のかについてである。A、T、G、Cの4種類の塩基はそれぞれ異なる立体構造をもっている。それらは二重らせんの内側に位置しているので、ちょっと区別が難しそうだが、二重らせんの溝の部分には、塩基対の一部が露出している。生体内でこれを認識する主役はタンパク質である。

タンパク質には決まった形(立体構造)があり、簡単にいうと、ある決まった塩基の並びが鍵穴のような役割を果たし、これにぴったり合うタンパク質の構造が鍵の役割を果たすことになる。いろいろな鍵穴に対応する塩基配列に対して、それぞれを認識する鍵となるDNA結合タンパク質が存在する。

特に転写制御にかかわるDNAタンパク質を転写因子とよび、鍵として用いられるほど正確な三次元立体構造をもっていることを覚えておいてほしい。

RNAのさまざまな「例外」

RNAの構造について説明した折に、RNAはDNAのように核内で遺伝情報を安定して保持する用途には向いていないということを述べた。むしろ、その不安定性から、タンパク質のように、化学反応を触媒することができる。この酵素活性をもつRNAのことをリボザイムとよぶ。

つまり、RNAはその性能を度外視すれば、DNAの役割とタンパク質の役割を兼務できるわけで、そのためおよそ40億年前と推定される最初期の生命現象(情報の維持とこれに基づく化学反応)は、RNA分子によって一手に担われていたのではないかというRNAワールド仮説が提唱されている。

この仮説の当否はともかく、RNAは私たちの細胞においても、多岐にわたって活躍していることが最近知られるようになってきた。

「RNAからRNAを通して、タンパク質へと一方向的に伝えられる」セントラルドグマの基本は1957年にクリックによって提唱されたが、当時このような大げさな名前をつけたのは、なんらかの原因でタンパク質(形質)レベルの情報が変化しても、その変化はもとの核酸には伝わらないことを強調したかったためらしい。

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セントラルドグマを提唱したフランシス・H・C・クリック photo by gettyimages

これは、ある意味では進化におけるラマルクのような考え方、すなわち個々の個体が生存中に得た形質(獲得形質)が子孫に遺伝するという考え方、を否定していることになる。

ただし、少なくともDNA→RNA→タンパク質と図式化されたセントラル・ドグマには、後に様々な例外が発見されることになる。もっとも重要なものは、RNAの情報をもとにDNAを合成する逆転写酵素の発見である。

さらに、若干例外的な現象ではあるが、エピジェネティクスという現象によって、いわゆる獲得形質が遺伝することもあることが最近知られるようになった。

これらのことは、生命科学においてはすべての概念に例外が存在する可能性があり、何事も教条的・原理主義的にとらえられるべきではないことを示しているのかもしれない。

このさまざまな可能性を秘めたRNAについて、もう少し詳しのぞいてみたいところだが、その前にこうした遺伝情報を保持している“小部屋”である「細胞」から見ていきたい。今日のクローンや万能細胞などの研究に通じ、その意義を理解することで、より深く理解できるようになるだろう。

新しいゲノムの教科書――DNAから探る最新・生命科学入門

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