
まとまった資産があっても老後不安に悩まされる人は少なくない(写真:イメージマート)
値上げラッシュに先の見えない年金制度、ささやかれる増税計画と、あらゆる角度からあおられ続ける老後のお金の不安。だがその不安に駆られるまま、間違った方法で老後資金のやりくりをしている人は少なくない。専門家のアドバイスのもと、何が正解なのか、解説していこう。
【表】老後の必要経費はいくら? リフォームや介護、葬儀でかかるお金の概算
都内在住の主婦・Aさん(62才)は、人生の後半戦にさしかかったいま、頭を抱えている。
「夫が定年を迎えた後の生活が不安で、どうにかお金を増やそうとやりくりしてきました。ある日お友達に誘われて、とある企業が行う資産運用のセミナーに行ったんです。すると、たった5年で1000万円近くも増えたという人が何人もいて“こんな方法があったのね”と驚き、すすめられた商品ですぐに夫の退職金の全額2000万円での運用を始めました。
ところがしばらくして、その企業が経営破綻したと報じられたんです。どうやら、その投資商品はマルチまがいのものだったらしく……夫にバレたら絶対に離婚だし、これから先、いったいどう過ごせばいいんでしょうか」
「老後資金2000万円問題」がいまだに私たちの将来に不安の影を落としている中、こうした老後資金の失敗は後を絶たない。不安に突き動かされて、せっかく大切に貯めてきたお金を間違った使い方で失い、後悔している人は決して少数派ではない。
『定年後』の著者で、楠木ライフ&キャリア研究所代表の楠木新さんはその理由について「老後不安の根本的な原因は“資金の不足”ではない」と指摘する。
「老後不安が生じるのは、自身の資産の管理が不充分だからです。ここ数年の財産の増減はどうなっているのか、収支(収入-支出)の大まかな状況が把握できていないので不安になっているのです。その結果、安定した財産があるのに焦って投資などを始めて失敗し、お金を失うことになってしまう人も少なくありません。
逆に言えば、きちんと自らの財産の状況を把握できている人は、貯蓄や収入の額にかかわらず老後の不安が少なく、間違った老後資金の使い方をすることもないのです」
生活費は年金と労働収入で賄い、まとまった出費は貯蓄から
事実、金融広報中央委員会の調査では、60~70代の貯蓄額の中央値は約1200万円、持ち家がある世帯であれば約970万円。厚生労働省の中央労働委員会のデータでは、退職金の平均額は約1872万9000円で、年金や労働収入と合わせれば、贅沢はできなくとも、ごく一般的な生活を送るのには不足のない金額になるとわかる。
総務省の家計調査でも、定年後の生活費は現役時代の6~7割に減るとされており、75才以降は医療費の自己負担が原則1割になることからみても、早ければ60代後半からは生活費を心配しすぎる必要はなくなるはず。
理想は「生活費は年金と労働収入でまかない、それ以外のまとまった出費は貯蓄を取り崩してやりくりする」こと。
相続・終活コンサルタントで行政書士の明石久美さんは、葬儀代も年々減少傾向にあると話す。
「葬儀の規模は年々縮小しつつあります。2021年度の平均総額は約110万円と、2年前と比べて約74万円も安くなっています。これは、コロナ禍で家族葬や直葬が増えた影響です」
「葬儀代くらいは残して死にたい」と少なくない金額を通帳に残したまま旅立とうとする人は多いが、減少傾向にある葬儀代のほか、お布施や納骨、遺品整理などの費用も合わせて総合的に考え、必要な分だけをしっかり残すのが正解といえる。
※女性セブン2023年11月30日・12月7日号
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