『私人逮捕系YouTuber』の逮捕が相次いでいます。30歳の男ら2人は男性に覚醒剤を持ってくるようそそのかしたとして逮捕され、40歳の男は女性の名誉を傷つける動画を投稿した疑いがもたれています。事件に遭遇したときや、周囲から「犯人」と呼ばれる人物が逃走したとき、現行犯・準現行犯で一般人(私人)も逮捕が可能とされていますが、犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は「現行犯なのかどうか自体わかりづらい」と判別の難しさを指摘。また、駅など公共の場での撮影中に第三者が巻き込まれてけがをしてしまうような状況を懸念し、「駅の中での撮影は一切禁止にするとか、さらに取り締まりを厳しくしていく必要がある」と見解を述べました。(2023年11月21日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)
◎小川泰平:犯罪ジャーナリスト 元神奈川県警刑事 30年の勤務経験 第一線で数々の事件を解決
――「私人逮捕」とは何か、逮捕ができる=逮捕権があるのは、警察官や検察官だけではなく、一般人いわゆる私人も逮捕が可能ですと。どういう場合かというと、いわゆる事件に遭遇した現行犯。そして準現行犯(周囲から犯人と呼ばれる人物が逃走したとき)は、一般人でも逮捕ができるということなんです。ただ、素人が逮捕するって大変難しい行為なんじゃないかなと思うんですが。
小川泰平氏 そうですね、例えば自分の目の前で現に犯行が行われている、もしくは犯行が終わったところで現行犯逮捕するならいいんですが、今回の(動画の)ような場合は現行犯逮捕にはならない。
現行犯逮捕で一番多いのは痴漢です。被害女性が「痴漢です!」と言って、周りがサポートして捕まえる、そういった場合、あくまでも私人逮捕の逮捕者はその被害女性になるんですね。ですから今回のようにカメラを持って、現行犯の犯人を探す、なんていうのはなかなか難しい。あとは現行犯なのかどうなのか、っていうこと自体も、知識としてわからないものがいる。
例えば、『自分が盗まれた自転車を発見して、それに乗っている者がいた』、それを現行犯だと捕まえた人がいたとしても、それは現行犯ではないわけです。自分の盗まれた自転車に乗っているから現行犯だというんですが、それは厳密に言うと現行犯ではない。逮捕するなら、『緊急逮捕』しかできない、といったような事例もあって、なかなか現行犯が簡単というわけではないです。実際に私人逮捕は間違えれば、逮捕監禁罪(人を不法に逮捕監禁すること)が問われる行為でもあります。ですからユーチューバーの方が逮捕される可能性もある。
――煉獄コロアキと名乗る40歳の男は、女性の顔がわかる形で、チケット転売をしたなどと言いがかりをつける動画をYouTubeに投稿し、名誉を傷つけた疑いで逮捕されました。そして「ガッツch」の容疑者は、おとり捜査のような手口で、男性に覚醒剤を持ってくるようそそのかした覚醒剤取締法違反の疑いです。
小川泰平氏 そうですね。ガッツchの1人の容疑者は、おとり捜査のような、というより完全なおとり捜査です。「覚醒剤を持ってくるように」と話をしているところから、覚醒剤取締法の中の教唆容疑で逮捕されています。また、煉獄コロアキを名乗る容疑者は、警察が後で調べたらチケットを転売した事実もなければ、パパ活がどうのこうのっていう事実がないにもかかわらず、容疑を勝手につけて、女性の顔をYouTube的に言えば晒している。この女性はもう多大なる迷惑というか、いろんな方から「あんなことをあなたはやってたの」ってことを言われているわけです。動画は上がっていませんけれど拡散されて、この先のことを考えると、ただ単に名誉毀損だけではなくて、今後非常に大変な思いをしていくんだろうなというふうには感じています。
――立て続けに逮捕があったわけですけれども、これに関して小川さんはどう思われますか。
小川泰平氏 現在ある法律に当てはめていくしかないんです。ですから、私人逮捕系ユーチューバーだからといって必ず取り締まるとかじゃなくて、警察が何とか取り締まる法律はないかと考えて、今回駆使してやっとの法律なんです。ただ、これに近いような形で、モザイクをかけて動画を上げている人だと、取り締まるのが可能なのだろうか。また階段を転げる、この動画では階段に誰もいなかったけれど、駅の階段というのは、高齢者も子供さんもいてもし巻き込まれれば怪我をしてしまう。警察官は逮捕する際にも、いろいろ訓練をしたり想定してやっていますが、そういったところがないので、今回は容疑者側の者が階段を転げただけで終わりましたけど、第三者が巻き込まれてしまったらどうするのかとか考えると、駅の中での撮影は一切禁止するとかね、本来は禁止なんです、テレビ局がロケに行っても、駅の中とか空港の敷地はちゃんと許可を取ってます。そういったように、取り締まりを厳しくしていく必要があるのかなと思いました。
――ITジャーナリストの三上洋さんに聞きました。「YouTubeはこの一、二年は、世直し系動画が流行しています。たばこのポイ捨てを注意するとか、盗撮犯などを発見するとか、ボッタクリバーに突撃するとか、違法薬物の取引現場などを撮影する、といったものだそうです。三上さんは「YouTubeは過当競争、普通の動画では目立てず、過激なものに走った結果生まれたコンテンツで、悪人を成敗を見ている側も期待、応援をしてしまうということです。小川さんは自身もYouTube運営されていますが。
小川泰平氏 私は地道にやっていくのが一番と思っています。来月でYouTube始めて3年になるんですけども登録者がやっと10万人行きまして、ただよく言うバズった動画は一切ないんです。地道にやっていくのが一番かなと思ってやっています。収益上げたいとか、人気のチャンネルにしたいとなると、どうしても他の方がやっていない過激なことをして、見てくれる人が多いのかもわかんないですけど、そこで無理をしてしまうと、覚醒剤取引現場を自分で設定して、おとり捜査のようなことをやってしまう。実際に現行犯逮捕にならないのに、劇場の前で転売目的だろうって声をかけてやってしまう。そういったところが問題なのではないかなというふうに思います。
――YouTube側の対応も見ておきましょう。「煉獄コロアキ」アカウントは停止措置、動画も削除されています。「ガッツch」は動画が残ってるけれども、収益停止措置が取られたそうです。三上さんは、「そもそもYouTube側のチェックが甘いのが問題じゃないか」とも指摘しています。監視は、自動プログラムの後に人間のチェックが入るといいますが、人間のチェックが甘いのではということでした。
小川泰平氏 実際は、人間が見てチェックするとなると相当な人が必要になります。YouTubeってアメリカからやってるわけですけども、このYouTubeのルールと日本の法律があるわけですが、例えばテレビでは、強盗殺人とか、不同意性交という言葉は使うことはOKなんです。ただ、YouTubeはこれがあると広告はつきません。逆に、YouTubeでOKでも、テレビは駄目というものもあるんですけども、そういったことが、明らかにルールが開示されていないところもあるんです。なので非常に難しい。もっとルールを明確化してもらいたいというふうにも思っています。