「自由に使える裏金を工面してくれるはず」 “悪魔の囁き”に耳を傾けてしまった青汁王子...脱税工作の知られざる“真相”

「自由に使える裏金を工面してくれるはず」 “悪魔の囁き”に耳を傾けてしまった青汁王子...脱税工作の知られざる“真相”

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/07/22

芸能人や会社経営者の脱税や所得隠しは度々世間を騒がせる。しかし、その詳細な手口が報じられることは決して多くない。彼ら彼女らはいったいどのように「税」を逃れてきたのだろうか。

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ここでは、ベテラン国税記者の田中周紀による『実録 脱税の手口』(文春新書)の一部を抜粋。フルーツ青汁の大ブレイクで注目を集める裏で行われていた脱税の手法について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

◆◆◆

架空広宣費計上で脱税を始めた15年9月期

すっきりフルーツ青汁の類稀なる大ブレイクにより、俄かにインターネット通販業界の“寵児”に躍り出た三崎氏。だが、新興ビジネスで短期間に急成長した経営者の誰もが直面するもう1つの問題=法人税額の激増に頭を抱えることになった。

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©iStock.com

メディア社(編集部注:三崎氏が経営していた株式会社メディアハーツ)が脱税の罪に問われた期間の法人所得は、15年9月期が約5490万円だったのに対し、17年9月期は実に約34億9718万円(16年9月期は後述する事情で脱税せず)。法人税(地方法人税含む)額も15年9月期の約1373万円に対し、17年9月期は約8億5363万円と激増し、三崎氏は困惑を隠せなかった。

フルーツ青汁がブレイクし始めた15年春のある日、三崎氏は個人的用途に使う資金を借りているU氏にこんな不満を漏らした。

「今年の業績がいくら好調でも、来年もそうとは限らない。まさかの時に備えてカネを残しておかないと、税金支払いに充てるカネを工面できなくなる。いくらメディア社の収益が増えたところで、この先何が起こるか分からないので、会社のカネも自分の好き勝手には使えず、Uさんへの借金返済も捗らない」

するとU氏は、三崎氏にある知恵を授けた。

「インターネット広告会社を経営している知人の加藤豪氏に頼めば、君が自由に使える裏金を工面してくれるはずだ」

まさに“悪魔の囁き”である。15年5月、U氏のアドバイスに従って加藤氏と連絡を取った三崎氏は、裏金作りへの協力を依頼。すると加藤氏はこんなプランを三崎氏に持ち掛けた。

「こちらが指定する会社の口座に広告宣伝費名目でメディア社が送金してくれれば、その10%相当額をこちらの取り分として差し引き、残る90%相当額を現金でキックバックする。それでよければ協力させてもらいます」

いくら自身が設立して代表取締役社長を務めるメディア社とはいえ、会社のカネを自分の好き放題に使うことは許されない。現状に不満を抱いていた三崎氏にとって、加藤氏の提案は“渡りに船”だった。

「分かりました。では、その方法でお願いします」

「承知した。メディア社が架空の広宣費を支払う相手先を探すので、少し待って欲しい」

このあと加藤氏は旧知の飯尾氏に声を掛けて、脱税工作に利用できる会社を提供してくれるよう依頼する。飯尾氏の了承を得て、加藤氏は三崎氏に結論を伝えた。

「メディア社の資金を消費税込みの広宣費に仮装して、飯尾さんが実質的に管理しているペーパー会社『サイバーマーケティング』の口座に送金してほしい。その金額の10%相当額をこちらの取り分として差し引いたあと、残る90%相当額を君に現金で渡す。サイバー社に架空発注された広宣費分の売り上げに課せられる法人税は、責任を持ってこちらで納めておく。これで了承してもらいたい」

もちろん三崎氏に異存はない。同氏が加藤氏と連絡をとってひと月も経たない15年5月中旬、加藤氏提案の脱税工作が動き出す。

脱税と正反対の経理処理をした16年9月期

三崎氏は15年5月以降も、合意内容に基づいて加藤氏に連絡を取り続けた。架空の広宣費を送金する口座として、加藤氏は飯尾氏のサイバー社のほか、自身が経営するA社の口座を指定。これを受けて三崎氏は、メディア社の経理を担当している派遣社員のN氏(49)=法人税法違反幇助の疑いで逮捕されるも不起訴処分=に送金額を指示して、仕入高と仮払消費税の名目でサイバー社とA社の口座に送金させた。当時のメディア社は広宣費の科目を使用しておらず、これに該当する費用を「仕入高」の科目で経理処理していたという。メディア社からの入金を確認した加藤氏は、その10%相当額を差し引いたあと、三崎氏かN氏に残る90%相当額を現金で手渡して還流させた。

メディア社の15年9月期の税務申告で、三崎氏はサイバー社などに対する架空の仕入高を計上するとともに、この仕入高分を14年10月から15年9月までの架空の課税仕入れとして計上した。この脱税工作によって、同社の15年9月期の所得額は本来より約4389万円少ない約1100万円となり、法人税額は約1119万円少ない約196万円、地方法人税額は約49万円少ない約8万6000円に抑えられた。メディア社は14年10月から15年9月までの消費税約274万円と地方消費税約73万円も免れ、同期の脱税総額は約1515万円に上った。

ところが翌16年9月期になると、メディア社を取り巻く事情が一変する。三崎氏は16年1月頃から、香港証券取引所の新興企業向け市場である香港GEM市場に同社を上場させようと計画。同市場の上場基準を満たす利益を形式上確保するため、16年2月下旬以降はサイバー社などに対する架空広宣費の支出を停止した。

また、香港GEM市場の上場に向けた準備を進める過程で、上場のサポート業務を行うX社から休眠会社「スカーリ」を紹介されたメディア社は、実際に同社に発生して16年9月期に計上する必要があった広宣費と仮払消費税の一部を、スカーリに立替払いさせた。その上で、この広宣費と仮払消費税の一部の計上を、翌期の17年9月期に繰り延べることで(広宣費の支払い相手はスカーリ)、16年9月期の損金(経費)額を圧縮した。これはメディア社の所得を増やす方向での経理処理で、前期の脱税工作とは正反対の行為だ。

だが、メディア社とスカーリとの間で発生したトラブルがその後深刻化したため、三崎氏はメディア社の香港GEM市場上場を断念する。上場基準を満たす目的で帳簿上の利益額を確保しておく必要がなくなったため、メディア社が新年度入りした16年10月以降、同氏は自由に使える資金を手元に確保する狙いから脱税工作の再開を目論んだ。

架空広宣費の計上先を増やした17年9月期

脱税工作再開に向けて、三崎氏は16年10月末頃から加藤氏と再び連絡を取り合う。すっきりフルーツ青汁の大ブレイクで、メディア社の業績は、2年前とは比べ物にならないレベルにまで拡大。15年9月期と同じ程度の架空広宣費を計上したところで、圧縮できる所得はたかが知れている。加藤氏と、同氏から相談を受けた飯尾氏は思案した。

「架空広宣費の計上額を大幅に増額しないと、メディア社の納税額はかなり巨額になる。一方で、メディア社の架空広宣費を増額させると、事業実体がある程度存在するA社に利益が生じてしまう。今回は架空広宣費の計上先にA社を使わず、飯尾が実質管理している事業実体のないペーパー会社を利用して、架空広宣費の計上先数を増やそう」

そこで加藤氏は三崎氏と連絡を取り、新たな架空広宣費の計上先を伝えた。

「今回は架空広宣費の計上先を変更する。サイバー社は使うが、A社はもう使わない。飯尾さんが実質管理している『トレース』と『イーストウエスト』を新たに使うので、その口座に送金してほしい」

これを受けて三崎氏は、経理担当のN氏に送金額を指示し、サイバー社などに対する広宣費と仮払消費税の名目で各社の口座に送金させた上で、その90%相当額を加藤氏から現金で受け取った。

ところで前述した通り、メディア社は香港GEM市場に上場を目指す過程で、実際に発生した広宣費と仮払消費税の一部について、休眠状態のスカーリに立替払いさせ、計上時期も本来の16年9月期から17年9月期に先延ばしする計画を立てていた。そこで三崎氏はN氏に指示して16年11月と12月、スカーリに立替払いさせていた金額に、同社に対する報酬相当額を足し合わせて、広宣費の名目で同社の口座に送金した。本来ならこれは16年9月期に計上すべきものだったが、三崎氏は17年9月期に計上することで、同期の所得をさらに圧縮した。

こうしてメディア社の17年9月期決算には、サイバー社など飯尾氏関係の3社と、スカーリに対する前期分の広宣費がそれぞれ計上され、所得額は本来より約4億6947万円少ない約30億2771万円に圧縮された。法人税額は約1億2319万円少ない約6億9447万円、地方法人税額は約542万円少ない約3055万円。また、これら架空の広宣費を16年10月から17年9月までの課税仕入れとして計上し、相手先に支払う消費税額が増えたことで、メディア社は納めるべき消費税約2949万円と地方消費税約795万円も併せて免れ、この結果、同期の脱税総額は約1億6605万円に上った。

三崎氏はこうして捻出した裏金をメディア社社長室の金庫に現金で保管し、株式や暗号資産への投資や、個人的な借入金の返済などに充てていた。

18年3月、三崎氏は東京・原宿にアンテナショップ「FABIUS cafe」を開店し、利用者の生の声を聞く場を設けた。とはいうものの、インターネット通販で大成功を収めた同氏の“主戦場”はやはり、インスタグラムやツイッターなどのSNSを利用したインターネット上での情報発信だ。ツイッターでは海外での豪遊や競走馬の落札などセレブぶりを見せつけるだけでなく、森友学園事件に絡む佐川宣寿・国税庁長官(当時)の処遇を厳しく批判。ツイッターのフォロワー数は約5万人に達した。

民放のバラエティ番組やニュース番組も、わずか2年間でメディア社の売上高を19倍に押し上げた三崎氏を「若きイケメン創業社長」と持て囃し、頻繁に登場させた。同氏も民放側のお手軽で型通りの要望に気軽に応え、自身のイメージアップに十二分に活用した。

「公文書偽造するやつが長官の国税局に、そんな偉そうなこといわれたくない」

絶好調の業績を背景に著名人の仲間入りを果たした三崎氏だったが、その人生は突如として暗転する。18年8月、三崎氏は自身のSNS上で「東京国税局(課税第2部資料調査第1課)から調査の連絡を受けた」と公表した。関係者によると、料調は飯尾氏の関係先の税務調査でメディア社の所得隠しの実態を把握、実地調査(関連先に乗り込んで行う調査)に乗り出したという。三崎氏は同月29日、国税局の姿勢をツイッターでこう非難している。

「国税局は人の命さえも課税材料にするのか? 祖父母の体調が悪く、仕送りをしていたことで『祖父母の体調が悪いようだけど、認めなければ調査にいく、体調が悪化するかもしれないな』と脅された 当然、前期と予定納税あわせて20億円は税金を納めている 全部記録済み」

「そもそも公文書偽造するやつが長官の国税局に、そんな偉そうなこといわれたくない まずは自分のところの佐川長官の責任をとらせるべき 国税局長官は公文書偽造しても許され、企業は人の命まで言及される 数十億納税して、この仕打ちはやってられない 若い優秀な人が海外に逃げる意味を考えるべき」(原文ママ)

国税当局を非難してから4カ月後の18年12月30日、三崎氏は「Good Bye JAPAN」と題するツイートで、「転出」にチェック印を入れた「住民異動届」の写真をアップした。その翌日には地中海の小国、マルタ共和国に向かう旅客機内での自撮り写真をアップ。さらに19年2月12日の逮捕の5日前には、マルタ共和国に移住したとツイートした。こうした三崎氏の一連の行動について、国税関係者が解説する。

「脱税には当たらない」とする都合のいい解釈

「マルタは海外から移り住む投資家や企業に著しく低い税率を適用するタックスヘイブン(租税回避地)で、キャピタルゲイン(売買益)に対する課税もありません。暗号資産取引関連の法整備も進んでおり、最大手取引所のバイナンスやOKEⅹが拠点を移す暗号資産先進国でもある。1月1日時点で住民票が日本国内にあると地方税の納税義務が発生するため、マルタへの本格的な移住を検討していた三崎氏は、18年末までに住民票を消除しておこうと考えたのでしょう」

マルタを拠点に、年末年始をイタリアなど欧州で過ごした三崎氏は19年1月20日に帰国。2月6日のツイートでは、即決価格8億8000万円でインターネット・オークションに出品された、名器ストラディヴァリウスとされるヴァイオリンの落札に強い意欲を示すものの、その6日後には、法人税法違反などの疑いで東京地検特捜部に逮捕された。

三崎氏はこの時、「脱税はしておらず、自分は絶対に捕まらない」と確信していた。その理由は、加藤氏から「メディア社がサイバーマーケティングなどに架空発注した広宣費分の売り上げに課せられる法人税は、こちらで責任を持って納める」と言われていたからだ。三崎氏は「本来ならメディア社側で納税すべきなのかも知れないが、納税自体は行われているのだから、脱税には当たらない」と本気で考えていた。もちろん、仮に加藤氏側が法人税を納めていたとしても、三崎氏が脱税に問われることは言うまでもない。

ところが、事実は全く異なっていた。19年1月30日、東京国税局査察部の強制調査を受けた三崎氏は、査察官から「メディア社が架空広宣費を計上した飯尾と加藤の会社は、メディア社からの架空広宣費分の売り上げに課せられる法人税など納めていない」と告げられて驚愕する。

架空の業務委託費(外注費、この場合は広宣費)の大半を還流させる手法は、脱税工作の中でも最も基本的なもの。これが「脱税に当たらない」と考えること自体、三崎氏の税金に対する理解力の乏しさの証明とも言える。それでも同氏はなお「キックバックは加藤氏に提案されてやったことで、飯尾氏の会社が広宣費分の売り上げに課せられる法人税を納めていないことは聞かされていないから、脱税には当たらない」と考えていた。

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(田中 周紀/文春新書)

田中 周紀

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