
Appleは個人情報保護のため、iOS 14でサードパーティーがユーザーデータを追跡できないよう、ポリシー変更を行う予定です。この仕様変更が広告会社に与える影響はすさまじく、世界最大の広告企業であるFacebookは「Appleがインターネットを悪い方に変える」と新聞に全面広告を出すなど、激しい対立が生まれています。一見するとAppleがFacebookの優位に立つ事態にも見えますが、アナリストのEric Seufert氏は予想外の「コンテンツの囲い込み」が生じる可能性があると指摘しています。
The profound, unintended consequence of ATT: content fortresses | Mobile Dev Memo

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AppleはiOS 14でプライバシーポリシーを変更する計画であり、これまでApp Tracking Transparency(ATT)と呼ばれる機能の中でIDFAの共有は「オプトアウトで無効」とされていましたが、変更により「オプトインで有効」となる予定です。既存の広告システムはサードパーティーのデータを基にしたターゲット広告を利用しているため、iOS 14のポリシー変更でターゲット広告の大幅なパフォーマンス低下が予測されています。
世界最大の広告企業であるFacebookもポリシー変更の影響を受けると見られており、Appleの姿勢に強く反発しつつも「選択の余地はない」としています。

FacebookがAppleの広告トラッキングに関する仕様変更は受け入れる以外に「選択の余地はない」と語る - GIGAZINE
一方で、Appleはサードパーティーのデータを利用したユーザー追跡の廃止と合わせて、ファーストパーティーのデータの利用を推進しています。しかし、この姿勢がAppleの予想外の結果を招きかねないと指摘されています。
2021年2月4日、テクノロジープラットフォームのAppLovinがモバイルアプリの計測サービスを提供するAdjustを買収しました。この買収におけるAppLovinの目的は、ファーストパーティーデータを利用した広告のエコシステム構築だとみられています。Appleはユーザーの「追跡」が「複数の企業間でデータを共有すること」だと明示していることから、AppLovin/Adjustは複数の企業間でのデータ共有とならないよう、1つの企業としてデータの囲い込みを行う予定だとみられています。
このように、Appleの新しいプライバシーポリシーが、企業による「ファーストパーティーデータの囲い込み」を生み出すという動きは他にもみられます。
ソーシャルゲーム会社のZyngaは2020年第4四半期の決算報告で「クロスプラットフォームのプレイ」と「広告ネットワークの構築」という2つのイニシアチブを発表しました。これは自律的なエコシステムを構築し、エコシステムの中でファーストパーティーのデータを囲い込もうとする試みだとみられています。
Zyngaが自社のアドネットワークの元で運用されるゲームタイトルを公開し、それをAppleやGoogleが管理していないプラットフォームで配信した場合であれば、データはZyngaのアドネットワークが所有するため、Appleの規制は受けません。
Zyngaがこのような目的を実現できるかどうかは不明ですが、他にも同様の計画を立てる企業は多く存在し、「2021年には広告会社はゲーム会社になるだろう」という予測もあるほど。Appleによるポリシー変更後の世界で広告会社が収益を上げ続けるためには、ユーザーデータを外部に依存する事態を極力避けることが必要であり、「核となる広告インフラストラクチャ」と「コンテンツ」をペアにすることが求められるためです。

このような「コンテンツの要塞(ようさい)」を構築するために必要なものは、以下の通り。
1:ポートフォリオの管理
これはコンテンツの充実を指すもの。収益化に多様性を持たせることで、ユーザーの代替性からある程度の自然な成長と収益がもたらされます。バイラルになるコンテンツと収益性の高いコンテンツの両方があれば、バイラルになるコンテンツから収益性の高いコンテンツへユーザーが流れることが予測されます。ただし、これには慎重なコンテンツ設計が必要です。
2:広告技術の運用
たとえ利用するのがファーストパーティーのデータのみでも、広告ネットワークを構築するには専門家の知識とエンジニアのサポートが必要です。コンテンツを運用する企業が広告技術で失敗する時の原因は多くがリソース不足とのこと。
3:計画経済
中央権力によって指示されていない自律的なビジネスユニットで会社が構成される場合、中央集権的な広告インフラの構築は非常に難しくなります。クロスプラットフォームの場合、時に各コンテンツチームの利益を最優先しない決断が下されることは覚えておくべきです。
特にFacebookはコンテンツの相互作用を強化し、強力な保護が施されたコンテンツの要塞になる可能性があるとのこと。Facebookがサードパーティーコンテンツを自社アプリで公開し、それが収益化可能、かつファーストパーティーのデータを生成可能になれば、強固なデータの囲い込みが実現します。こうなると、Appleの目的とは真逆の結果が生み出される可能性があると指摘されています。