有名日本画家なのに超格安...作家・黒川博行のネットオークション裏話

有名日本画家なのに超格安...作家・黒川博行のネットオークション裏話

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  • 更新日:2021/01/14
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黒川博行・作家 (c)朝日新聞社

ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、ネットオークションで落とした美術品について。

*  *  *

ひと月ほど前の『出たとこ勝負』で、よめはんの日本画の贋作(がんさく)がネットオークションで落札された話を書いたが、それに関連して──。

わたしは取材のため、ネットオークションの“日本画”を見ていたが、そこに某女性画家(芸大のころからのよめはんの友だちで、わたしもよく知っている)の風炉先屏風(ふろさきびょうぶ)──茶室で使われる二つ折りの小さい屏風。道具畳の向こうに立てられ、亭主の点前と道具を引き立てる──が出品されているのを知った。屏風には桜と萩が描かれ、扇面(せんめん)の日本画四点──牡丹(ぼたん)・水仙・朝顔・薄(すすき)──が貼られている。印章、落款、共シールを含む拡大画像が多くあったので、すぐに真作だと分かった。

わたしはよめはんを呼んで画像を見せた。

「これ、○○ちゃんの作品やろ」

「ほんまや……」よめはんは驚いた。

「どうする。このままにしとくか」

「でも、気の毒やわ」

屏風の出品価格は某画家の評価額(風炉先屏風なら二百万円から三百万円)の五十分の一だった。あまりに安い。某画家は学生のころから五十年も花を描いてきて、その技量は日本有数だとわたしは思っている。「なんで、こんなとこに出たんかな。それも、この値段で」「たぶん、持ち主が亡くなったんや。値打ちの分からん遺族が画商をとおさずに売りに出したんやろ」「○○ちゃんにいおうか。オークションに出てるって」「そらあかん。○○ちゃんが怒る」

そう、画家は自分が描いたどの作品を誰が所有しているか、逐一知っている。理由はどうあれ、その所有者がネットオークションに出品したと知ったら、いい気はしないし、そもそも付け値が安すぎる。そのため贋作と思われたのか、入札はなかった。

「ピヨコちゃんが落としてよ。そしたらオークションから消えるから」

「分かった。入札する」

そんなわけで風炉先屏風を落札した。とどいた屏風はみごとな出来栄えで、桜の花びらの一枚一枚から朝顔の瑞々しい花弁(垂らし込みの技法がすばらしい)まで、その構成と精緻(せいち)な筆使いは神経がゆきとどいている。

「さすがに○○ちゃんや。この屏風はおれの寝床の枕もとに立てとこ」「あほなこといいな。マキが齧(かじ)るやろ」

放し飼いにしているオカメインコのマキはなんでも齧る。仕事部屋の胡蝶蘭(こちょうらん)の花芽は全滅した。

風炉先屏風はいま、よめはんの寝室に立てられている──。

わたしがネットオークションで落とした美術品はもうひとつだけあって、それは二十年ほど前だった。そのころ染付(そめつけ)の碗(わん)や皿を蒐(あつ)めていたため、“骨董”のサイトを見ていたら某日本画家(現存作家)の扇子が出品されていた。砂子の金地に岩絵具で枝垂れ藤を描いた扇面には落款、印章があり、絵は垢(あか)抜けている。よめはんも画像を見て真作だと意見が一致したから、十人あまりの入札があったが、がんばって落札した。八千円弱だったと思う。

とどいた白檀(びゃくだん)の扇子の絵は想像以上にみごとなもので、裏には墨文字の為書きがあった。画家が踊りの家元に贈ったのだろう、《為 六世○○××》とあり、六世家元はわたしも名前を聞いたことがある著名な人物だった。それにしても家元はいけない。亡くなってもいないのに、知人の画家から贈られた、為書きまである扇子を処分するのはいかがなものか。その画家はいま、日本最高の評価額なのに。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

※週刊朝日  2021年1月22日号

黒川博行

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