学会が緊急声明!子どもの「急性肝炎」増加の実態

学会が緊急声明!子どもの「急性肝炎」増加の実態

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/05/13
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緊急の声明を出した日本小児肝臓研究会ホームページ。いったい何が起きているのか

複数の国で小児の重症急性肝炎が報告され、医療関係者は騒然となっている。

WHO(世界保健機関)は4月22日、ヨーロッパの11カ国とアメリカで、生後1カ月から16歳までの子どもの、少なくとも169人が「原因不明の急性肝炎」を発症し、1人が亡くなったことを報告。5月3日時点では、約320人が報告されている。

日本でも厚生労働省が7人の子ども(16歳以下)が、原因不明の急性肝炎で入院していることを明らかにした(5日5日時点)。

10日に国立感染症研究所が公表した内容によると、7人のうち3人が男性で、4人が女性。5人はすでに退院し、肝移植を受ける必要があったケースや亡くなったケースはないとした。

2団体が緊急の声明を発表

これを受け、13日、日本小児肝臓研究会と日本小児栄養消化器肝臓学会も連名で、「小児の原因不明の急性肝炎について」というタイトルのステートメント(声明)を緊急発表した。

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(出所)日本小児肝臓研究会ホームページ日本小児栄養消化器肝臓学会ホームページ

今回のWHOや国内の報告を、小児の肝臓病に詳しい専門家はどう捉えているのか。

「最初にイギリスで報告された後、ヨーロッパの別の国やアメリカなどから次々と報告が上がってきました。小児の急性肝炎はまれな病気であることを踏まえると、(169人という数字は)多いという印象です」

こう話すのは、今回、ステートメントを発表した日本小児肝臓研究会運営委員長の虫明(むしあけ)聡太郎医師(近畿大学奈良病院小児科教授)だ。20年以上にわたって子どもの肝臓器移植や診療に関わっている。

虫明医師は一方で、国内の報告に関してはこうも語る。

「報告されている7人は、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)やALT(アラニントランスアミナーゼ)という肝機能をみる検査で、数字が標準値より上がっていて(500 IU/L)、かつA型からE型の肝炎ウイルスの関与が否定されているケース。実は、それだけでは情報が十分ではありません。海外で報告されているケースと同じなのか、しっかりと検証していく必要があります」

これは海外で確認されている169人についても同様で、全員が同じ原因で発症しているのか、注意深く見ていかなければならないという。

子どもにみられる急性肝炎の原因は…

肝臓は、さまざまな栄養の代謝にかかわったり、脂溶性の物質を解毒したり、脂肪の分解を助ける胆汁の消化を助けたりする、まさに”肝心かなめの臓器”だ。

その肝臓に何らかのダメージが加わり、炎症が起こった状態が肝炎で、成人では原因はアルコールとウイルスによるものがほとんど。残りは自己免疫疾患や薬の副作用によって起こる。ウイルス性肝炎の多くは、肝炎ウイルス(A型~E型)によるものだ。

一方、子どもにみられる急性肝炎は代謝疾患や自己免疫性が悪化したもの(急性増悪)と、サイトメガロウイルスやEBウイルスなどの感染によるものが半数ほどで、実は、「残りの半数ほどは、原因がわからない急性肝炎」(虫明医師)だという。

今回問題になった重症急性肝炎では、報告された子どもたちは腹痛や下痢、嘔吐、黄疸、肝機能の上昇などの症状を訴えている。だが、今回に限らず、ほかの急性肝炎でも同じ症状が見られるそうだ。

また、報告数の約1割にあたる17人に肝移植が必要だったという。これについても、「小児の急性肝炎の場合は、急に重症化して肝移植が行われることもあります。そのため、今回のケースに限らず、肝移植を想定して、移植の環境が整っている医療機関で診たり、連携を取ったりすることが望まれている」(虫明医師)という。

今回の件で注目されているのは、169人のうち74人にアデノウイルスという病原体が陽性だったという点だろう。国立感染症研究所の報告によると、日本でも7人のうち1人がPCR検査でアデノウイルス陽性と判明している。

アデノウイルスとはいわゆる風邪のウイルスで、のどの痛みや咳、鼻水などの呼吸器症状や胃腸炎のほか、流行性角膜炎という目の感染症を引き起こす。ごくありふれたウイルスだ。

アデノウイルスとの関連性は

アデノウイルスとの関連性について、虫明医師は次のように話す。

「アデノウイルスはA型などの肝炎ウイルスのように、肝臓に特異的に感染するウイルスではありません。急性肝炎の原因ウイルスをつぶさに調べれば、アデノウイルスによるケースが見つかることもありますが、そこまで強い結びつきはないといえます」

そして、あくまでも推測になると前置きしたうえで、アデノウイルスが肝炎を起こすしくみを次のように話す。

「可能性としては2つ。1つはアデノウイルス自体が肝臓に何らかのダメージを加えて、肝炎が発症したという考え方。もう1つは感染によって生じた免疫的な反応で、免疫細胞が肝臓にダメージを与えてしまうという考え方です。もちろん、今回のケースがどちらかなのか、あるいはまったく別のしくみで起こっているのかは、今のところわかっていません」

繰り返しになるが、そもそも、日本では以前から年間20例ほどの小児の重症の急性肝炎が生じている。その半数が原因不明だ。WHOで報告のあった重症急性肝炎と同じ原因かどうかを調べるためには、詳細な調査や研究を行う必要がある。

そこで、日本小児肝臓研究会と日本小児栄養消化器肝臓学会では、今回問題となっている原因不明の急性肝炎について、疑わしい症例について精査・治療をするべく準備を進めている。

「まずは、ASTやALTだけでなく、重症の急性肝炎でみられるビリルビンの値の上昇や血液凝固能の低下などの検査を行っていきたい。また、地域の小児科医が診察や検査などから急性肝炎の疑いがあるお子さんを診たときに、速やかに子どもの肝臓病に精通した医師に診てもらえるしくみも必要。今回は学会に所属している医師の名簿も作って公表することにしました」(虫明医師)

日本感染症研究所も、「2021年以降、B型肝炎・C型肝炎の報告数に増加傾向は見られない。それら以外のウイルス性肝炎の症例の報告数はわずかに増えているが、大半が成人であり、その起因ウイルスのほとんどはサイトメガロウイルスや EBウイルスであり、アデノウイルスの報告はない」と記載。またアデノウイルス自体も流行していないとしている。

新型コロナとの気になる関係

もう1つ、今回の件で指摘されているのが、「新型コロナウイルス対策」との関連だ。日本と欧米で起こっていることが同じであるかわからない今、「あくまでも私見」としたうえで、小児科医として虫明医師は次のように考える。

「この2年あまりの間、子どもたちは以前なら当たり前のように感染していた風邪のウイルスにあまりさらされることなく成育しました。それで自然に身に付くはずの免疫があまりついていないのではと想像されます。

今はどこにでも消毒用のアルコールがあり、誰も彼もがマスクをしている。少しでも熱があれば保育園に預けられない状況です。以前は、幼稚園に上がるころには一通りワクチン接種も済んで、風邪も一通りひいていた。そういうことが経験できなくなったことで、コロナ以外のウイルスが流行したらどうなるんだろうと心配はしていました」

本来得られるはずの獲得免疫が、感染対策の影響で得られにくくなっている。その結果として現れたのが今回の子どもの急性肝炎なのかは、現時点ではわからない。だが、あるウイルスが爆発的に増えれば、何かしらの感染症が広がり、その一部が重症の肝炎につながる可能性は否定できない。

現在、新型コロナ対策で行われている子どものマスク着用について、熱中症の危険性が指摘されていることなどを受け、見直しをすることが検討されている。虫明医師はこう述べる。

「今の社会状況がこうなってしまっている以上、一気に以前の状況に戻すのは不可能ですし、多くの人は受け入れないと思います。ただ、過度な衛生環境を保つことばかりが大事ではありません。今後は、子どもたちの集まる環境とか、学校などでも徐々に感染対策を緩和していく方向に行くしかないと思います」

(鈴木 理香子:フリーライター)

鈴木 理香子

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