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これから中国にやってくる「個人破産」申請者急増の時代

これから中国にやってくる「個人破産」申請者急増の時代

  • JBpress
  • 更新日:2021/07/23
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深圳の夜景。この巨大経済都市で浮かぶ者もいればそうでない者もいる(写真:REX/アフロ)

昨日(7月19日)、香港に隣接する中国広東省の経済特区・深圳で、「中国で初めて」というケースが起こった。35歳の梁氏が、裁判所から「個人破産申請裁定書」を受け取ったのだ。

今年3月1日、中国で初めて深圳で、「深圳経済特区個人破産条例」が施行された。そこにはこう記されている。

<深圳経済特区に居住し、深圳の社会保険に続けて満3年加入している市民で、経営や生活上の返済能力が喪失した者、もしくは資金不足ですべてを返済できなくなった者は、人民法院(裁判所)に破産を申請することができる。それらは破産清算、再編、和解の申請を含む>

この新たな規定が適用され、梁氏は晴れて、中国の「個人破産者第1号」に認定されたのだ。

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利息は免除、そのかわり必要最低限の収入以外は全て債務返済に

梁氏は2018年、ブルートゥース・イヤホン関連の会社を興した。だが昨年からの新型コロナウイルスの影響もあって、銀行への債務がかさみ、返済不能に陥った。負債総額は75万元(約1275万円)。銀行の預金は、3万6120元(約61万4000円)しか残っていない。あとは4719元(約8万円)の住宅積立金だ。

梁氏は現在、ある会社でエンジニアとして働いていて、毎月の収入は、約2万元(約34万円)。不動産も車も所有していない。

梁氏は、3月から「深圳経済特区個人破産条例」が施行されたことを知った。そこで3月10日、深圳市中級人民法院に出向いて、破産申請を行ったというわけだ。

結局、裁判所の裁定はこうだ。梁氏と夫人は、毎月の基本的な生活に必要な7700元(約13万1000円)を除いて、収入をすべて借金の元本返済にあて、3年以内に完済すること。その代わり、あらゆる利息は免除する。

梁氏は地元記者に、こう述べた。

「破産申請前、多い時で、1日7~8時間も債権者から電話がかかってきていた。そのため精神的なプレッシャーは、尋常でないものがあった。だがいまは、きちんと働いて、借金を返していくことだけを考えればよくなった」

まるで「困った人は個人破産を」と呼びかけるような大々的な報道

この条例の制定は、「4中全会」(2019年10月28日~31日に開かれた中国共産党第19期中央委員会第4回全体会議)で、「社会主義市場経済体制を速やかに改善し、健全な破産制度を作る」とした方針に沿ったものだ。すでに同様の法律がある台湾と香港を参考にしたと思われる。

昨日から中国では、この「梁氏のケース」を大々的に報じている。まるで、「困った人は梁氏のように破産申請をしましょう」と呼びかけているかのようだ。それだけ破産者が急増中だということだ。

そもそも破産条例を制定したのは、「4中全会」も示唆しているように、中国では不健全なことが続発しているからだ。

監視社会で「夜逃げ」が減少、かわりに増えた「自殺」

例えば、私が北京に住んでいた10年前にも、事実上の破産に陥る経営者はゴマンといた。その場合、よくあるケースは、ある日忽然と消える。いわゆる夜逃げである。その際、借りている部屋の台所用具や便器、シャワー器具まで、カネになりそうなものはすべて取り外して持ち去るため、家主たちは頭を悩ませていた。

彼らはどこへ逃げるかと言えば、大まかに分けて二つである。一つは自分の生まれ育った故郷の村。もう一つは、他の大都市である。中国は日本の26倍もの国土があるので、北京で夜逃げした人が、四川省成都で知らぬ顔して生きていくなどということが、普通に起こっていた。

ということは、その逆もある。北京へ突然やって来た中国人の中には、「この人何だか訳ありっぽいな」と思う人士もいた。少し親しくなると、自分の「暗い過去」をさりげなく語ってくれたりもした。

だがあれから10年経った現在は、アリババとテンセントのAIシステムによって「中国は一つ」になったので、中国国内にもはや逃げ場所はなくなった。中国は「夜逃げできない社会」になったのだ。

そこで最近増えているのが、自殺である。昔は「中国人は自殺しない」という俗説があったが、いまや自殺大国だ。

少し古いが、2007年に北京心理危機研究関与センターが出した「わが国の自殺状況及びその対策」という報告書によれば、中国では年間200万人が自殺未遂を起こし、28万7000人が自殺によって死亡しているという。自殺は中国で死因の第5位に数えられ、15歳~34歳までの死因ではトップだ。

現在では、統計は発表していないが、ものすごい数の自殺者を出している気がする。私の北京の知人の中にも、過去5年で自殺した経営者が2人いる。

最悪なのは、事業が破綻した経営者が、犯罪に走るケースである。横領、詐欺の類から傷害、殺人まで。これも発表された統計はないが、かなりの数に上っているものと思われる。

日々膨大な起業がなされ、一つまみの成功者と無数の敗残者が生まれる

李克強首相は一時期、「中国では日々、1万6000社もの会社が生まれている」と誇り、安倍晋三首相にも自慢げにこの話を吹聴していた。中国の市場経済は活性化していると言いたいわけだ。

だが私は、「その1万6000社は、その後どうなったの?」と突っ込みたくなったものだ。おそらくは、死屍累々であろう。

中国で起業数が一番多いのは深圳で、2019年には50万5127社も生まれた(個人事業主登録も含む)。私は2018年に深圳で、一攫千金を求めて蝟集する中国の若き起業家の卵たちの実態を取材したが、そこではおそらく世界で最も熾烈な弱肉強食の戦いが繰り広げられていた。3カ月経っても芽が出ない者は、容赦なく切り捨てられていくのだ。

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『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』(近藤大介著、講談社現代新書)

ある深圳の大物投資家は、「成功者は1万人に一人」と言っていた。「でもその一人が従業員1万人の会社を作れば全員救われる」という論理なのだそうだ。

今回の破産条例の制定は、こうした「敗残者」たちに初めて、救いの手を差し伸べたものだ。

だが、今月大学を卒業した中国の若者は、909万人! 昨年からのコロナ禍の影響が祟って、就職率は最悪だ。就職できないから親のスネを齧って起業するという若者も多く、そのうち少なからずが「敗残者」となっていく。

昨今話題の「寝そべり族」などは可愛いもので、その裏には多くの「破産族」が存在しているのである。

近藤 大介

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