三田紀房「『ドラゴン桜2』の作画は外注」業界仰天、ヒット漫画家の非常識な成功法則

三田紀房「『ドラゴン桜2』の作画は外注」業界仰天、ヒット漫画家の非常識な成功法則

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2021/05/02

日曜劇場「ドラゴン桜」(TBS系)が好調なスタートを切った。前作から15年の時を経て、続編漫画『ドラゴン桜2』が描かれたが、実は作画が“外注”であることをご存じか。漫画家が描かないなんて……という人もいるかもしれないが、そこには作者ならではの斬新な狙いがあった。セブン‐イレブン限定書籍『ドラゴン桜 人はなぜ学び、何を学ぶのか』(プレジデント社)刊行に際し、三田氏が語る創作舞台裏とは──。(第3回/全3回)

漫画の仕事は「チームビルディング」

長らく漫画家を生業(なりわい)としてきた私は、時折、仕事へのスタンスが少々独特だといわれる。本人としては、特に変わったことをしてやろうという気概も趣味もないのだけれど。

変わっているというのは例えば、漫画の仕事をハナからチームプレーだと考えているところ。

一般には漫画の仕事とは、漫画家という「先生」の意思を実現するために、アシスタントらが手足になって動くといったイメージが根強くあるようだ。

私の場合はたしかに違う。アシスタント、編集者、そして『ドラゴン桜2』の東大生チームのようなブレーンになってくれる人たちと、ひとつのチームをつくってプロジェクトを進めているとの意識が強い。

だから私が日頃、漫画の仕事をしていて心を砕くことといえば、もっぱらチームビルディングである。チームが全体として最も効率よく力を発揮できるスケジューリング、労働環境、精神状況、モチベーションを整えることを、いつも考えている。

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提供=コルク漫画『ドラゴン桜2』は作画を外注したことでも話題になった - 提供=コルク

作品には東大生の若者のプランをそのまま採用

自分が思い描く通りの表現を実現するために、周囲を使うという発想もない。その証左として『ドラゴン桜2』であれば、チームの一員たる若き東大生たちが練(ね)ってきてくれた意見にはたいてい賛同し、そのまま採用する。もちろん検証は経るが、彼らの言った通りをどんどん作品に反映させていく。

それはそうだ。最も現場に近い、というか当事者そのものの現役東大生が、「こうだ」と言っている。そこに疑問を挟む余地などない。チームの一員として信頼しているのだから、その提案を尊重するのも当然だ。

歳を重ねるほど若者の言葉に耳を傾けられなくなるという話もあるが、それは若者を同じチームの一員と見做(みな)していないからではないのか。自分のほうが知力や経験に優れているのだからと、知らず上下関係で人を見ているのだろう。

そんなときは、いったん客観的に考えてみたほうがいい。自分の優位性はいかほどのものか。いや、本当に優位なのか? そもそも同じチームの一員ならば、役割の違いこそあれ、上下の関係など成り立つのか? と。

少なくとも『ドラゴン桜2』の制作においては、現場のナマの感覚を有している東大生のほうが優位だし、彼らの言うことこそ絶対的に正しいという判断は揺るがない。

漫画制作の進め方に「こだわり」がない

また、これも人から指摘されて気づいたのだが、漫画制作の進め方について「こだわり」がないのも特徴的なようだ。

例えば今回のコロナ禍(か)が訪れたとき、私はかなり早い段階から、チーム全体をリモート勤務に切り替えた。

以前なら職場にアシスタントがやって来て、寄せ合わせたデスクに向かって漫画を描いていくのが通常だった。企画の打ち合わせも当然のごとく皆で一室に集まってしていたのだが、それらをすぐにやめて、フルリモートにした。

現在は漫画制作の現場もかなりデジタル化が進んでいるから、切り替えはやろうと思えば技術的に可能なのだ。

私としては、最優先課題は何かを考え、当たり前のことを当たり前にやっただけである。

我々にとって一番のリスクは何か? 新型コロナに感染してしまい、作品を世に出すことができなくなることだ。では、感染のリスクを極力抑えるにはどうするか。人と接触しないこと。仕事場に集まるということ自体がリスクなのだから、ここはリモートにするしかない。シンプルな結論である。

大切なのは、目的をはっきりさせることだろう。何が最優先で、大切なことなのか。見極めれば、おのずとやるべきことは定まる。

『ドラゴン桜2』の作画は外注…

そうした考えを突き詰めた結果でもあるが、私は『ドラゴン桜2』では、作画を外注することにした。

漫画家が絵を描くのを外部に発注するなんて! と驚かれたりもするが、私からすればさほどのことではない。

漫画を生み出すために私がするべきことの核は何か。よくよく考えてみれば、それはネームづくりである。ストーリーを考え、場面を設定し、人物の行動や感情の流れを決めてコマ割りをしていく。それを指定し、紙面に落とし込んだものが、ネームと呼ばれるもの。これをつくることこそ、漫画家としての私の最優先課題であると気づいた。

ならば絵を仕上げるという作業は、外部の作画チームに投げてもいいと判断した。もちろんそのシステムをスタートさせるにあたっては、入念な打ち合わせと指導を積み重ねたうえではあるが。

どんな仕事であれ人の手に委(ゆだ)ねるとなれば、100パーセント満足する結果を得るのはなかなか難しい。作画に対しても、100パーセント満足かといわれれば、そうでない部分もある。だがそれでいい。もちろん作品として世に出せるだけの一定の水準はクリアしているのだ。ならばまずは市場に投入して、反響を見ながらブラッシュアップさせていけばいいのである。

こうした方法が漫画家としてどれほど異色なのかはよくわからないが、私はひとりの仕事をする人間として、どうしたらよりよく自分の仕事をまっとうできるだろうかということは、真剣に考え続けてきたつもりだ。

「気になったらすぐ動け」

ここまでに述べたこと以外に、仕事人として心がけていることがあるとすれば、

「気になったらすぐ動け」

ということだろうか。

「鉄は熱いうちに打て」ということわざがあるように、何か興味を持てるものが心の中にあるのなら、気持ちが熱いうちに必ずアウトプットしていくべきだ。一瞬でも躊躇(ためら)っていたら、もったいない。

よく見かけるのは、「ある程度のレベルになったら」「メドが付き次第」などと、自分で自分にブレーキをかけてしまうこと。それではいつまで経っても何も起こりやしない。

自分にとっておもしろいと思えたなら、出来や仕上がり具合はどうあれ、とにかくまとまったパッケージにして吐き出してしまう。そうしないと、モヤモヤが自分の中にどんどん溜まって、暴発したり何らかの病のもとになったりとよからぬことになってしまう。

世の中は「言った者勝ち」

動き出すことをどうしてもためらってしまう人がいるなら、こうしてみるのもいい。まずは今日、家族や友人や同僚に対して、ちょっとだけビッグマウスになってみる。出まかせでもいいから、「オレはこう思う」「こういうことをしてみるつもりだ」と、大口を叩いてみるのだ。

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写真=iStock.com/AaronAmat※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AaronAmat

とりあえず口にしてみると、その事柄は自分の意識にはっきりと立ち現れる。頭の中で存在感が大きくなって、じゃあできるところから実行に移してみるかという気持ちにもなりやすい。

そもそも世の中は、「言った者勝ち」という側面がけっこうある。

例えばテスラ社などを率いる、かのイーロン・マスク。彼がすごいのは、「思いつきレベルじゃないの?」というようなことでも、どんどん公言して実行してしまうところにある。

21世紀型の成功スタイル

いつも彼のプラン通りに事が運んでいるようには見えないが、次々に派手なことをぶち上げるので失敗は目立たなくなる。たくさんのことを手がけるので時にヒットが出て、その結果がすべてを覆い尽くす。

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三田紀房『ドラゴン桜 人はなぜ学び、何を学ぶのか』(プレジデント社)

これだけ話題を提供してくれれば、周囲の注目や期待はどんどん高まる。

彼を見ていると、何でもまずは口にすることによって自分を鼓舞(こぶ)しているところもあるんじゃないかと思わせる。ああ、これが21世紀型の成功スタイルなのか、そう思わせる力強さがある。

思いついたら口にして、やってみる。このシンプルさこそきっと、これからの時代の成功に直結する行動原理なのだ。

桜木建二に訊(き)いたって、おそらくまったく同じ答えが返ってくるんじゃないだろうか。

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三田 紀房(みた・のりふさ)
漫画家
1958年、岩手県生まれ。漫画家。明治大学政治経済学部卒業後、大手百貨店勤務などを経て、30歳のとき講談社ちばてつや賞一般部門入選で漫画家デビュー。社会現象を巻き起こした東大合格請負漫画『ドラゴン桜』(講談社)で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。代表作にはほかに『クロカン』『砂の栄冠』『インベスターZ』『エンゼルバンク』『アルキメデスの大戦』『ドラゴン桜2』などがある。
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三田 紀房

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