夏の最後に食べるべき絶品「冷がけそば」‟3選”――「茹で麺」使用の昭和レトロに感じる哀愁の正体とは

夏の最後に食べるべき絶品「冷がけそば」‟3選”――「茹で麺」使用の昭和レトロに感じる哀愁の正体とは

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/09/15

大衆そば・立ち食いそば屋の「冷がけそば」をよく食べる。しかし、今年はコロナ禍であまり遠出することもできなかった。しかし、どうしても食べたくなる「冷がけそば」がある。しかも茹で麺使用の昭和レトロな一品である。これを食べないと夏を越したきぶんになれないわけである。

【写真】亀有「鈴しげ」の冷しにんじん天そば(430円)、稲城「なかむら」の冷し天ぷらそば(430円)、蒲田「みよし庵」の冷し天ぷらそば(350円)には三者三様の魅力がある

「冷がけそば」について少しお話ししたい。

原点は江戸の職人が考案した「ぶっかけそば」

「冷がけそば」とは、「もり・ざる系」とは違い、普通のどんぶりや平皿に冷たく〆たそばを入れ、冷たいつゆをぶっかけたものである。天ぷら、たぬき、きつね、大根おろしやカイワレ、なめこ、納豆などをのせたりする。わさびを薬味につけることも多い。

江戸時代、元禄年間(1688~1704)、忙しなく働く江戸の職人たちが「ぶっかけそば」を考案したとされている。この「ぶっかけそば」から「かけそば」と「冷がけそば」が誕生したといわれている。

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江戸時代から存在していた「冷がけそば」とは? ©️iStock.com

江戸時代には、福井の「越前おろしそば」がすでに誕生していた。「冷がけそば」のルーツといってもいいだろう。山形や信州などでも山菜やきのこの「冷がけそば」が日常的に食べられていたはずである。

昭和初期の頃には、岐阜の「更科」では「冷したぬきそば」を提供していたという。きつねとたぬきがのった太いそばに甘辛いつゆがかかったもので、今でも大人気のメニューである。文京区本郷にある「増田屋」では昭和13年に「冷したぬきそば」を販売していたという。

その後、暖簾会系や街そば屋系などでも、「冷しおろしそば」、「冷しなめこそば」、「冷し納豆そば」などが広まった。もりつゆを後からかけるタイプである。

そして、高度経済成長以降、大衆そば・立ち食いそば屋などで、売上げが落ちる夏の間、茹で麺を使った「冷したぬきそば」や「冷し天ぷらそば」などが考案され一気に人気となった。初めからつゆがかけられており、そのつゆはもりつゆより若干返しが弱めで出汁が利いた口当たりがよいタイプが多い。

今では生麺使用の「冷がけそば」が主流となっており、神田などに数店ある「かめや」の「冷し天玉そば」や「小諸そば」の「二枚冷したぬきそば」などが人気となっている。

一方、今まで「冷がけそば」を置いていなかった老舗系や手打ち系のそば屋でも、最近では「トマトのジュレを使った冷がけそば」など創作的な一品を提供する店も増えている。

「冷がけそば」は「もり・ざる系」、「かけそば系」とは異なる新たな人気メニューのジャンルとなっている。

さて、茹で麺を使った昭和レトロの東京の大衆そば・立ち食いそば屋の絶品「冷がけそば」を紹介しよう。

亀有「鈴しげ」の冷し天ぷらそばは脳裏から離れない上質な味

「鈴しげ」は常磐線亀有駅改札の北側ロータリーから東方向へ進んだ、❝両さん❞で有名な亀有公園のすぐ前に立地している。創業は昭和50年。店はL字型でカウンターに丸椅子が並ぶ。店は明るく、たいへん綺麗である。店内はお客さんとの間をビニールで遮蔽し、エタノールを設置するなどのコロナ対策をしっかりと行って、休業することなく営業を続けているそうだ。

ここは以前、天ぷらの名店として紹介したことがあったのだが、その天ぷらをのせた「冷し天ぷらそば」は抜群の旨さといってよい。その味が常に脳裏から離れない。そんな印象である。

天ぷらはかき揚げ、玉ねぎ天、春菊天、ごぼう天、にんじん天、げそ天、あじ天、いか天、時にはおかひじき天、モロヘイヤ天などが並ぶ。どれも繊細かつからっと揚げられていて、揚げ姿が美しい。そしてその天ぷらを冷しでいただく。「冷し春菊天そば」(450円)、「冷しにんじん天そば」(450円)などがおすすめである。

「冷し春菊天そば」を注文すると、そばを湯通しし丁寧に水洗いして冷水にさらして、よく冷したどんぶりにそばと冷し用のつゆをかけて、春菊天を載せて登場する。春菊天は細長く刻んだかき揚げスタイル。にんじん天も細めに切ったかき揚げ風にまとめている。いずれも程よい大きさで、ほぐれ具合がなかなかよい。油切れもよく、冷たいつゆにひたして食べるとまたこれが旨い。そばは近隣の製麺所の茹で麺だが、コシもあり、冷しで食べるのにマッチしている。

そのつゆはまず昆布の出汁がじわっと、そしてかつお出汁が追いかけるように利いたタイプで上質な味である。返しは濃すぎることはなく、甘みも少ない奥行きの深いつゆである。とにかく、気が付けば食べ終わっているという感じである。「鈴しげ」では、「冷がけそば」は一年中食べることができる。うれしい限りである。

飾らない大衆そばの傑作「なかむら」の「冷し天ぷらそば」

「なかむら」はJR南武線稲城長沼駅改札を出たすぐの北側の駅前広場で営業している、ぽつんと一軒の立ち食いそば屋だ。「なかむら」では5月の終わり頃から9月末あたりまで、夏の人気メニュー「冷し天ぷらそば」(430円)が登場する。これを食べないと夏を迎えられないし、もう一度食べないと夏を越せないくらい、印象深いメニューである。

今年は9月に入ってうかがったのだが、店はコロナ対策のビニールの仕切りが設置されていて、入店人数も制限されていた。若女将にきいたところ、コロナで1ヵ月半休業したそうで、創業以来の出来事だったという。

こちらの天ぷらは1種類。たまねぎとにんじんをやや大きめのざく切りにしてかき揚げにしたタイプで、からっと揚がっている。その姿が美しい。

「冷し天ぷらそば」を注文すると、近隣の製麺所の茹で麺を湯通しして、水にさらしてどんぶりに入れる。それに綺麗な琥珀色の冷し用のつゆをかけまわし、天ぷらをのせ、ねぎをのせ、その上に細く刻んだ海苔をかけ、最後に白胡麻をふりかけて完成する。

まず、つゆをひとくち。薄口醤油を使った透き通ったタイプで、きりっと返しが利いて、出汁も十分感じられるつゆである。いつも飲み干してしまうつゆだ。そして、天ぷらを食べると玉ねぎの甘味、ごま油の香りが口いっぱいに広がる。そばはゆで麺だが、十分コシもあり、つゆ・天ぷらとのバランスがすこぶるよい。じんわりと旨さが伝わってくる。そしてまた食べに来たくなる味である。華美なものが何一つない。飾らない質素な味だが傑作的な作品だといつも感心する。「冷がけうどん」で食べてもうまいに違いない。書いていても食べたくなるそんな味だ。

蒲田「みよし庵」の「冷し天ぷらそば」は下町価格で気取りなし

「みよし庵」はJR蒲田駅西口を出て、すぐ北側のドン・キホーテの前にある。パチンコ屋などが立ち並ぶ路地の入口近く。

「みよし庵」は昭和51年創業。近隣の商店主などの常連客で賑わっている。店は白を基調にした内装で、縦長で左右にカウンターがある。密になることは少なく、駅前だが静かで緩やかな時間が流れている。お店はコロナで休業することもなく、淡々と営業を続けているそうだ。

「みよし庵」の特徴はなんといっても低価格である。2019年の消費増税後でも「天ぷらそば」(300円)、「かけそば」(220円)と昭和の時代のお値段である。

夏になるといつも注文するのが「冷し天ぷらそば」(350円)である。ガラスの器に、冷たく〆たそばに冷たいつゆをかけてくれる。麺は近隣の製麺所の細めの茹で麺で、コシもなかなかある。「天ぷら」はかき揚げで平たく以前よりも大きくなったように思う。衣がやや多めのタイプで、いったんつゆに通して提供してくれる。つゆは濃すぎることはなく、ぐいぐいと飲める味。ガラスの器を横からみるとなかなか涼し気な一杯である。「冷し天ぷらそば」は一年中食べることができるのだが、やはり夏に食べたい器と味である。

昭和生まれの人間にとって、茹で麺使用の「冷がけそば」には哀愁を感じずにはいられないわけである。

「冷がけそば」は近年、新たなメニューがたくさん登場し人気となっている。皆様のそれぞれの好みの「冷がけそば」を是非とも堪能し、行く夏を惜しんでもらいたいと思う次第である。

最後に余談だが、「本家しぶそば」が9月13日に閉店した。最終日には別れを惜しむしぶそばファンが大勢訪れたそうだ。必ずや再開を果たしてもらいたいと思う。「しぶくま君、よろしくね。『箱根そば』のやっこさんも応援しているし、安部礼司君も応援しているぞ。かーなーらーずーねー」

写真=坂崎仁紀

INFORMATION

鈴しげ
住所:東京都葛飾区亀有5-44-5
営業時間:6:00~20:00
定休日:火

INFORMATION

なかむら
住所:東京都稲城市東長沼536
営業時間:7:00~18:00
定休日:日

INFORMATION

みよし庵
住所:東京都大田区西蒲田7-2-6
営業時間:月〜金 5:30〜19:45
土祝  5:30〜18:45
定休日:日

(坂崎 仁紀)

坂崎 仁紀

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