深夜にお色気ドラマ乱発、一方で純愛回帰も TV局が対照的な戦略を進める事情

深夜にお色気ドラマ乱発、一方で純愛回帰も TV局が対照的な戦略を進める事情

  • NEWSポストセブン
  • 更新日:2022/08/06
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『復讐の未亡人』に主演する松本若菜

夏ドラマが始まり、多くの作品が放送されているが、深夜枠のドラマにいつもとは違う“異変”が見られるという。お色気要素のあるドラマが増えているのだ。その一方で、純愛回帰の流れも進んでいるという。いったいどういうことか? テレビ局の狙いについてコラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが分析する。

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6日スタートの『個人差あります』(東海テレビ・フジテレビ系)でようやくすべての夏ドラマがそろいますが、全体を見て気づかされたのは、深夜帯にベッドシーンを前面に押し出した作品が3本も放送されていること。今年に入ってここまでは、キスシーンこそあっても、それを繰り返して見せ場にするようなお色気系ドラマはなかっただけに変化を感じさせられます。

その3作とは、強盗犯と謎のセレブ妻が北海道を目指して逃避行する『雪女と蟹を食う』(テレビ東京系)、コンプレックスを抱える美術講師が風俗嬢に本気の恋をする『ロマンス暴風域』(MBS・TBS系)、夫を自殺で失った妻が勤務先に潜入して復讐を重ねる『復讐の未亡人』(テレビ東京系)。いずれも主人公の物語を進める上で、ベッドシーンが重要な役割を果たしています。

ところが深夜帯のドラマには、もう1つの流れがありました。それは「昭和の純愛に回帰」というお色気とは真逆のコンセプト。実際、今夏は『消しゴムをくれた女子を好きになった。』(日本テレビ系)と『みなと商事ランドリー』(テレビ東京系)の2作が放送されています。

お色気と純愛。深夜帯のドラマに両極端な傾向が表われている理由を掘り下げていきましょう。

配信との相性がいいお色気ドラマ

まず前提として書いておきたいのは、近年では「深夜帯ですらベッドシーンを前面に押し出した作品がほとんどない」こと。BPOの設立以降、特に女性の裸を映した作品がゴールデン・プライム帯からほとんどなくなり、さらにコンプライアンスが求められるようになったことで、徐々に深夜帯からも減っていきました。ちなみに現在ゴールデン・プライム帯では『テッパチ!』(フジテレビ系)が毎週イケメンの半裸シーンを放送して賛否を集めていますが、露出としては「これが精一杯」という分かりやすい事例でしょう。

ではなぜ今夏は3作も放送されているのか。その理由として最も大きいのは、配信視聴数を上げるため。現在テレビ局は視聴率をベースにした放送収入の落ち込みをカバーすべく、「配信関連の収入をどう増やしていくか」を進めているところです。

配信である以上、放送時間の早い遅いは関係なく、深夜帯にとってはゴールデン・プライム帯と同列でヒットを狙えるチャンス。むしろ深夜帯はゴールデン・プライム帯より表現の幅が広いため、「配信再生数を上げること」「自社系列の動画配信サービスにおける有料会員数アップにつなげること」を期待されているのです。

もともと配信では、お色気を前面に出した作品は再生数を稼げるコンテンツの1つでした。だからこそ「深夜帯なら放送できるギリギリの表現まで攻めたドラマを作り、配信での収入を得ていこう」という戦略を採っているのでしょう。

ちなみに冒頭にあげた3作は、いずれも漫画の実写ドラマ化。漫画もネット上ではドラマ以上にお色気を前面に押し出した作品の人気が高く、だからこそドラマのプロデューサーたちはその中でより配信数が稼げそうな漫画を選ぼうとしているのです。

実は『ロマンス暴風域』を放送したドラマ枠『ドラマイズム』では、昨年も『サレタガワのブルー』『凜子さんはシてみたい』というベッドシーンを前面に押し出した漫画を実写化していました。同枠は今後も年1~2作ペースでお色気を前面に押し出した作品を放送し、配信視聴を積極的に狙っていくのではないでしょうか。

昭和の純愛は10~50代を幅広く狙える

一方の純愛も、「ファンの熱が高いため、リピート視聴やクチコミを誘いやすく、配信回数を伸ばせる」という点で深夜帯の新たな定番ジャンルになりつつあります。

ちなみに『消しゴムをくれた女子を好きになった。』は、実話をベースにした13年にわたる片想いを描く純度の高いラブストーリー。さらに『みなと商事ランドリー』は、もはや純愛を代表するジャンルになったBLであり、「『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)のヒットを踏襲したい」という願いがうかがえます。

どちらも純度の高さは昭和時代のラブストーリーを彷彿させるものがあり、その意味で恋愛ドラマのメイン視聴者層である10~30代だけでなく、40~50代も狙えるところも強みの1つ。ネットの普及で「人と出会いやすく、別れやすい」「趣味や仲間との時間を楽しみやすい」時代になって、一途に思い続ける純愛がファンタジーに近いものに変わり、だからこそ「ドラマの世界で楽しみたい」と思うものになったのではないでしょうか。

純愛とお色気の両極ではなく、その間にある普通のラブストーリーは、「メインテーマとしてはほとんど扱われない」というのが現状。たとえば「ラブストーリー枠」とも言われるTBSの火曜ドラマは今夏『ユニコーンに乗って』を放送していますが、こちらはテーマの大半が仕事であり、恋愛要素は2~3割程度に留まるというバランスで構成されています。

とはいえ、冒頭にあげたお色気系の3作も、突き詰めれば1人を思う純愛のようなテイストもあり、やはり視聴者は求めていて作り手たちはそれに応えようとしているのかもしれません。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

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