すべてがバラバラに!? 宇宙終焉のシナリオ「ビッグリップ」とは何か

すべてがバラバラに!? 宇宙終焉のシナリオ「ビッグリップ」とは何か

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2022/01/18
No image

世界的ベストセラー『エレガントな宇宙』著者ブライアン・グリーンによる新作『時間の終わりまで』から本文の一部を紹介するシリーズ第8回。

なぜ物質が生まれ、生命が誕生し、私たちが存在するのか。膨張を続ける「進化する宇宙」は、私たちをどこへ連れてゆくのか。時間の始まりであるビッグバンから、時間の終わりである宇宙の終焉までを壮大なスケールで描き出す本書から、今回は、宇宙終焉のシナリオのひとつ「ビッグリップ」の解説を取り上げます。

ビッグリップ

リンゴを真上に放り上げれば、たゆまず働く重力のために、リンゴの上向き速度はどんどん小さくなる。これは重力作用を説明するためによく使われる例だが、そこには宇宙論的に深い意味がある。

1920年代にエドウィン・ハッブルによる観測が行われて以来、われわれは宇宙空間が膨張していることを知っている。銀河たちは、互いに急速に遠ざかっているのだ。しかし、放り上げられたリンゴと同じく、それぞれの銀河が他のすべての銀河に及ぼす重力は、宇宙全体が飛び散る速度を遅くするように働くはずだ。宇宙空間は膨張しているが、その速度はだんだん小さくなっているに違いない。1990年代には、この予想を証明しようと、天文学者のふたつのチームが、その減速率を測定する仕事に取りかかった。

10年ほど研究を続けたのち、その結果が発表された──そして科学界を仰天させた。予想は間違いだったのだ。遠方の超新星は、宇宙のいたるところにある測定可能な強い光源だが、それらを地道に観測した結果、宇宙の膨張は減速していないことがわかったのである。

宇宙の膨張は加速している。そしてその加速は、最近になってギアを高いほうに入れ替えたというようなものではなかった。驚きのあまり椅子から転がり落ちた研究者たちの目の前に突きつけられたのは、宇宙は過去50億年にわたって、一貫して膨張の速度を上げてきたことを示す、天文学の観測結果だった。

No image

photo by gettyimages

膨張速度は減速しているはずだと多くの人が思い込んでいたのは、それが当たり前だと思っていたからだ。宇宙空間の膨張が加速しているなどというのは、リンゴをそっと放り上げれば、リンゴはわれわれの手を離れるなり、どんどん速度を上げて天に昇っていくというのと同じぐらい馬鹿げたことに思われたのだ。

もしもあなたがそんなおかしな出来事を目撃すれば、リンゴを上向きに加速するような、それまで見逃されていた隠れた力を探すだろう。それと同じく、宇宙膨張が加速しているという圧倒的な証拠がデータから引き出されると、研究者たちは床から起き上がり、何本ものチョークを握って原因を探しはじめた。

もっとも有力な説明は、第3章でインフレーション宇宙論の話をしたときに出会った、アインシュタインの一般相対性理論の中核となる重要な性質に訴えるものだ。

ニュートンとアインシュタインのどちらの重力理論でも、惑星や恒星のような物質の塊はおなじみの引力的重力を及ぼすが、アインシュタインのアプローチでは、重力の振る舞いのレパートリーが増える。もしも宇宙のある領域に物質が存在せず、その領域が均質なエネルギーに満たされていれば、重力は斥力になるのだった。

インフレーション理論では、エキゾチックな場(インフラトン場)がそのエネルギーを担い、強力な斥力がビッグバンをスタートさせたと考える。それは140億年ほども前の出来事だが、現在観測されている空間の加速膨張を説明するためにも、それと似たアプローチが使える。

暗黒エネルギー

もしも宇宙空間の全体が、インフラトンとはまた別のエネルギー場で均一に満たされているとすれば、銀河がお互いから急速に遠ざかる理由が説明できる(われわれはその新たなエネルギー場を、光を発しないことから「暗黒エネルギー」と呼んでいるが、「見えないエネルギー」という名前も同じぐらいふさわしい)。

物質が寄り集まってできている銀河は、引力的重力を及ぼし合い、銀河が飛び散る速度を小さくさせる。均一に広がる暗黒エネルギーは斥力的重力を及ぼして、銀河が飛び散る速度を大きくさせる。

天文学者が観測している加速膨張を説明するためには、暗黒エネルギーによる押し出しが、銀河同士が集団として引き合う力より大きくなければならない。その差は大きなものである必要はない。ビッグバンの時期に起こった激しい膨張に比べれば、今日の膨張は穏やかで、その程度の加速を説明するためには、ごくわずかな暗黒エネルギーがありさえすればよい。

実際、銀河が遠ざかる速度の増加分を生むために必要な暗黒エネルギーは、宇宙空間の典型的な体積1立方メートル中に、100ワットの電球を1個、5兆分の1秒だけ点灯させるエネルギーに等しい。とはいえ、宇宙空間には膨大な数の1立方メートルが含まれている。すべての1立方メートルからの寄与を足し上げれば、天文学者たちが測定した膨張の加速を生じさせるだけの外向きの力が得られるのだ。

No image

photo by gettyimages

暗黒エネルギーを支持する証拠には説得力があるが、あくまでも状況証拠でしかない。暗黒エネルギーを捕まえて、その特徴を直接的に調べる方法を見つけた者はいないのだ。それにもかかわらず、暗黒エネルギーはあまりにもうまく観測結果を説明するため、宇宙が加速膨張しているのはこのためだということになっている。

しかし、暗黒エネルギーの長期的な振る舞いとなると、よくわかっていない。そして、宇宙の未来を予測するためには、暗黒エネルギーの長期的振る舞いとして考えられる可能性を徹底的に検討することがきわめて重要になる。

あらゆる観測結果と矛盾しないもっともシンプルな可能性は、宇宙論的な時間スケールにわたって、暗黒エネルギーの値が変化しないというものだ。しかし、シンプルなのは良いことだが、だから真実だということにはならない。

暗黒エネルギーの数学的な記述を見ると、エネルギーが減少して加速膨張にブレーキをかける可能性もあれば、増大して加速膨張のアクセルを踏む可能性もあることがわかる。もっとも不吉なのは後者──斥力的重力がどんどん強くなる場合──だ。もしもそれが現実なら、われわれは、物理学者たちが「ビッグリップ」と呼ぶ、激烈な終末に向かって突き進んでいることになる。

分子や原子レベルでバラバラに

斥力的重力は徐々に強まり、いずれは物質をまとめているすべての力に勝利し、いっさいをバラバラに引きちぎるだろう。

あなたの身体がひとつにまとまっているのは、あなたを構成する原子と分子を結びつけている電磁力と、あなたの体内の原子に含まれる陽子と中性子とを結びつけている強い核力のおかげだ。

電磁力と核力は、現時点での膨張空間の斥力よりもはるかに強いため、あなたの身体はひとつにまとまっている。もしもあなたの横幅が広がりつつあるとしても、それは空間の膨張のせいではない。しかし、もしもその斥力がどんどん強くなり、あなたをひとつにまとめている電磁力と核力に打ち勝てば、あなたの体内の空間は膨張しはじめるだろう。あなたは膨らんで、最終的には、他のすべてのものと同じくバラバラに飛び散るだろう。

詳細は、斥力的重力がどんなペースで強まるかによるが、物理学者ロバート・コールドウェル、マーク・カミオンコウスキー、ネヴィン・ワインバーグが調べた代表的なケースでは、今から約200億年後には、斥力的重力のために銀河のクラスターはバラバラになり、それからさらに約10億年後には、天の川銀河を構成する星たちが花火のように飛び散り、それから約6000万年後には、地球をはじめとする太陽系の惑星が太陽から遠ざかり、それからさらに数ヵ月後には、分子間に作用する斥力的重力のために恒星と惑星がものすごい勢いで飛び散り、それから30分ほどで、原子を構成する粒子間に作用する斥力があまりにも強くなり、原子さえもバラバラに飛び散るだろう。

No image

photo by gettyimages

今のところ、宇宙の終末がどのようなものになるかは、空間と時間に関する未知の量子的性質にかかっている。数学的な厳密性のない大雑把な言い方をすれば、斥力的重力は、時空そのものの織りなす基本構造そのものをズタズタに引き裂くかもしれない。実在は爆発で始まり、ビッグバンから1000億年後に、ズタズタに引き裂かれて終わるかもしれない。

現時点での観測結果からすると、暗黒エネルギーが今後増大する可能性を考慮に入れなければならないが、しかし私は──そして私以外にも多くの物理学者たちが──その可能性はないだろうと考えている。

私はその方程式を調べてみたとき、なるほど数学的にはありうるが、自然でもなければ説得力もないと感じた。それは、この分野で何十年も研究してきた経験にもとづく感触であって、数学的な証明ではないから、間違っている可能性はもちろんある。それでも、その感触は楽観的な仮定を置く動機にはなる。

そこでここでは、暗黒エネルギーは今より大きくはならないという仮定のもと、宇宙の年表の旅を続けることにしよう。階段をそれほど上らないうちに、われわれは次の転回点となる出来事に出会うことになる。

(つづく)

(翻訳:青木 薫

*本記事は『時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙』の一部を抜粋したものです

*この記事のつづき〈光の速度を超えて遠ざかる銀河──これから宇宙で起こること〉は、1月19日公開予定です。

ブライアン・グリーンによる新作『時間の終わりまで』から本文の一部を紹介するシリーズ。これまでの公開記事はこちらから

【『時間の終わりまで』読みどころシリーズ】 https://gendai.ismedia.jp/search?fulltext=『時間の終わりまで』読みどころ&media=bb

◀︎前回〈50億年後に待ち受ける太陽と地球の運命──膨らむ太陽から地球は逃げ切れるか〉https://gendai.ismedia.jp/articles/-/91186

時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙

No image

著:ブライアン グリーン 訳:青木 薫

世界的ベストセラー『エレガントな宇宙』著者の最新作

なぜ物質が生まれ、生命が誕生し、私たちが存在するのか?

進化する宇宙は私たちをどこへ連れてゆくのか?

ビッグバンから時空の終焉までを壮大なスケールで描き出す!

この進化する宇宙の中で、ほんの束の間、まったく絶妙な瞬間に存在する私たち人間を基点に、時間の始まりであるビッグバンから、時間の終わりであるこの宇宙の終焉までを、現代物理学の知見をもとに、「存在とは何か」という根源的な問いから描き出す。第一級のポピュラーサイエンス!

書籍詳細はこちら■Amazonはこちら

[試し読み]『時間の終わりまで』——物質、生命、心と進化する宇宙

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加