小野伸二よりシャビが上回った特殊能力。ゴールへの最適な針路を示す

小野伸二よりシャビが上回った特殊能力。ゴールへの最適な針路を示す

  • Sportiva
  • 更新日:2021/05/04

異能がサッカーを面白くする(14)~方向感覚編
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小野伸二が浦和レッズに入団した1998年といえば、バルセロナではシャビ・エルナンデスがトップチームの試合に出場し始めていた頃と一致する。ほぼ同じタイミングで昇格したカルレス・プジョル、ガブリとともに、バルサの下部組織(カンテラ)の優秀さを伝える広告塔としても利用されていた。

◆小野伸二が天才でなくなった日。 「あのケガで、僕はすべてを失った」

しかし当時、現地と日本を頻繁に往復していた筆者の目には、シャビより小野伸二のほうが光る存在に見えた。贔屓目なしに、フラットな目で見てそう思った。小野がバルサに移籍していたら、シャビに勝てるのではないか。大真面目にそう思ったものだ。

しかし、小野がその翌年のシドニー五輪予選フィリピン戦で大ケガを負い、大きなダメージを負うことになったのに対し、シャビは時間の経過とともにこちらの評価を上げていくのだった。

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バルセロナ、スペイン代表の中心選手として活躍したシャビ・エルナンデス

シャビは若い頃、ジョゼップ・グアルディオラの後継者のような言われ方をされていた。実際、グアルディオラが欠場した時、同じポジションでそのままプレーすることが多かった。グアルディオラやその前任者であるルイス・ミジャが付けていた背番号にちなんで「4番のポジション」と言われた4-3-3のアンカー、あるいは4-2-3-1の2(守備的MF)として、である。

しかし、シャビはグアルディオラにはなれなかった。広い視野を武器に、長短のパスを自在に扱うグアルディオラのような展開力を、シャビは備えていなかった。筆者の評価が上昇したのは、4-3-3のインサイドハーフにポジションを上げてからになる。

現地スペインの評論家は、シャビを「航海士のようなセンスの持ち主」と解説してくれた。「ピッチを大海原にたとえたとき、進むべき針路に間違いがない選手だ」と。

舵取りといえば、想起する言葉はボランチだ。クルマのハンドル操作とも言えるが、これも進むべき方向性を指す言葉だ。ポジション的にはインサイドハーフより1列下、先述の4番のポジションと似たような特性になる。しかしスペイン人評論家が言うシャビの才能は、もっと細かい操作術を指していた。

◆シャビは新しいスペインを象徴するプレイヤーだ>>

シャビが務めるインサイドハーフは、4番のポジションあるいは守備的MFよりポジションが1列高い。そのぶんだけ相手からのプレッシャーがきつくなることは言うまでもない。プレッシングの時代になればなおさらだ。シャビがデビューした頃は、まさにそうした時代だった。プレッシングの波は、加速度的に押し寄せていた。プレーする環境は厳しくなるばかりだった。

その高い位置でシャビは、ボランチ的な才能を発揮した。展開力に富む長いパスを蹴るというよりも、細かな針路、具体的かつ現実的な方向性を提示するという感じで、味方を道に迷わせるような真似はけっしてしなかった。

世の中には方向音痴な人が多くいる。地下鉄の駅の階段を上がり、地上出口に出た瞬間、右に行くべきか、左に行くべきか、スマホのマップと睨めっこしながら、フーフー言っている人をよく見かける。

シャビはさにあらず、だ。ためらうことなく一歩目を、サッと踏み出すことができる。当時日本で流行った娯楽に、巨大迷路というアトラクションがあったが、バルサにおけるシャビのプレーを見るたびに、次のような思いを巡らしたものだ。シャビをこの巨大迷路に迷い込ませれば、どれほどで脱出するだろうか。きっと、何分もかからないに違いない、と。

いまこの瞬間、どっちに進めば有効か。ピッチをスタンドの上階から俯瞰すれば、右か左か、それとも真ん中かが一目瞭然になる。右に出した方が有効であるのに、左に出してしまう選手には落胆させられるが、シャビにはそんなことが一切ない。すべてのボールタッチに間違いがない。巨大迷路には、なかなか抜け出せない人に、俯瞰で指示を送ることができる高い場所が用意されているものがある。スタンドの観衆が、選手にアドバイスを送るような感じだが、シャビにその声は要らない。

視野が広いと言うよりも、東西南北が頭の中に完璧にインプットされているコンパス内蔵の選手と言うべきか。電波をキャッチするアンテナを内蔵していると言うべきか、GPS内蔵と言うべきか......。

どんなにプレッシャーを浴びても、その特殊能力に乱れが生じることはない。右足のインサイドやアウトサイドを使い、身体をくるくる回転させながら的確な針路を、瞬間、瞬間で探る。ピッチのけっして低くない場所で、厳しいプレッシャーを浴びながら。

小野は確かに視野の広い好選手だったが、シャビのこの異能を見せつけられると、当初、シャビとの関係で小野に抱いていたプライオリティは低下を余儀なくされた。シャビには敵わないと認識を改めざるを得なかった。

しばらく前まで、日本には中盤に優秀な人材が集まる傾向があった。シャビは、日本人選手が目指すべき選手だとされてきた。しかし、シャビのような選手はどこにも見当たらない。足技はそれなりに上達したが、方向音痴ではないかと疑いたくなる中盤選手もよく見かける。

絶対音感の持ち主とは、脳内で音程を完璧に把握している人を指すが、シャビもそれに通じるプレーをする。まさに正確な音を奏でるようにプレーする。一挙手一投足に間違いのない選手。観戦者をこれほど心地よく安心させる選手も珍しい。シャビを越える選手は、いまのところ筆者には見当たらないのである。

杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

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