活況の「海運」の課題...博多港が示す「港湾民営化」のメリット

活況の「海運」の課題...博多港が示す「港湾民営化」のメリット

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  • 更新日:2022/01/15
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世界中で海運の玄関である港の競争力が競われるようになり、日本でもビジネスチャンスが広がっています。港の施設そのものの運営は、民間が行うことで高い効率や収益性を追求することが可能になってきました。今後、日本はどのように港湾ビジネスを拡大すべきでしょうか、渡瀬裕哉氏が著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)で明らかにします。

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活況を呈する海運業界で問題提起されたこと

■世界経済との結節点、港湾運営の民営化が未来を拓く

空港とならんで、世界からの人や物が日本に入る玄関口となるのが港湾です。食物の輸出入工業製品を製造するための原材料輸入など、多くの物資の移動は海運に依存しています。原材料の調達から製造、販売、消費までの一連の流れはサプライチェーンと呼ばれますが、その大元の調達部分と製品の輸出を支える重要な産業が海運業です。

海運の動向は、経済的な指標のひとつでもあります。今、この瞬間にも世界中の海で多くの船が物資を運んでいます。一国の領域の中で貨物輸送を行う船を内航船、国際航海を行う船を外航船と言い、外航船は大きく2つに分かれます。特定の航路で港間をつなぐ定期船と、積み荷の都合で発着地や寄港地の決まる不定期船です。

不定期船のうち、生鮮品や原油・石油製品、LNG(液化天然ガス)などを運ぶ特別な船を除き、大多数を占めるのが穀物や資源を運ぶ船で、こうした船の船賃は荷動きや気象条件によって変動します。そこで、その変動状況が世界経済の動向を知るための参考となる先行指標とされているのです。

英ロンドンのバルチック海運取引所が発表している不定期船運賃の総合指数「Baltic Dry Index(BDI:バルチック海運指数)」の動きは、世界経済の動向に2か月先行するとも言われています。株価との連動性も高く、2015年から2016年にかけてバルチック海運指数が過去最低を更新したときは、世界同時株安が起こっていました。逆に、運ぶものがどんどん増えて指数が上がっていくと、世界で交易が活発になり、景気が上向きになってきていることが伺えます。

2019年からの新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は海運の動向にも一部影響しましたが、2021年に入ってからは回復を見せ、6月には11年ぶりの高値を記録する活況を呈しています。

こうした海運を支えるのは、世界中の船乗りの人たちです。国際連合の専門機関、IMO(国際海事機関)は、毎年6月25日を「船員の日(Day of the Seafarer)」に制定しています。世界中の船乗りたちが、国際的な海上交易や世界経済、市民社会に貢献していることを認識しようという日です。2021年6月25日は、特にIMOやインターカーゴ(国際乾貨物船主協会)の声明で船員の交代問題が提起されました。

コロナ禍で各国政府が対応に苦慮する中、世界の海を渡航する船員たちは、政府の施策によって港での上陸や交代ができず長期間の海上生活を余儀なくされながら、一般の人たちの生活に欠かせない食糧や燃料、医薬品の輸送を行ってきたからです。

日本で唯一のコンセッション方式の博多港

船乗りの人たちの帰る場所が港です。港町というと荒っぽいイメージもありますが、最近は事情が変わってきています。世界中で港の競争力が競われるようになり、日本でもビジネスチャンスが広がっているのです。

港の機能には、船が安全に停泊して貨物の積み下ろしを行うこと、燃料や水を補給すること、船員の交代や休息を行うことのほか、貨物が他の地域に向けて配送される運送集積地としての役割があります。近年では外国からのクルーズ船の発着にともない、出入国管理や観光拠点としての機能も注目されています。多様な受け入れに対応できる能力の高い港には、人・モノ・金・情報が集まります。これを活用しない手はありません。

人やモノの移動の終着点や起点となるだけでなく、港を経由してさらに他の国や地域に広がっていく中継地点となる港は「国際ハブ港湾」と呼ばれます。アジア圏では香港やシンガポール、釜山の需要が高く、多くの航路が交わる港となっています。コンテナの取り扱い数ランキングでは、上海や深圳、寧波など中国の港が軒並み上位を占め、トップ10位に入っているのはドバイくらいです。日本は京浜東京港、横浜港が辛うじて50位以内に入り、次いで名古屋港となっています。

港湾の整備には、喫水の深い大型船の接岸と停泊を可能とするなど、莫大な設備投資が必要です。一方で、港の施設そのものの運営は、民間が行うことで高い効率や収益性を追求することが可能になりました。空の玄関口である空港と同様のコンセッション方式です。

現在、日本の港湾で唯一コンセッション方式を採用しているのは、福岡市の博多港です。空路で福岡を訪れる際、着陸アプローチで博多湾が一望できます。沿岸部には鎌倉時代の元寇の遺跡が数多く残されている景勝地でもあり、日本と外国との関わりを最前線で担ってきた歴史を持つ場所でもあります。

福岡市のウォーターフロント開発計画は、現在まで物流よりも観光を主な目的として構想されています。クルーズ船の発着と出入国管理、国際会議や展示会などのビジネスイベントを行える公共施設(MICE)の設置を主軸に、こうした施設の運営を民間委託することによって港を観光資源として位置付ける方向性を強化しています。福岡空港との距離の近さから、航空便とクルーズ旅行を組み合わせたフライト&クルーズも視野に、10年計画で現在も開発が進められています。

博多港は、日本の中でも東アジアの各国に近いという地の利があります。近年、博多港へのクルーズ船の寄港は右肩上がりで増加しています。平成25年(2013)に38件だった寄港は、以後の5年で300件を超えるようになりました。施設容量といったハード面の不足から寄港や国際会議開催を断ることも多く、年間500億円の損失があると報告されています。コロナ禍以前、船を使った人の交流とその需要は、大きく進んできました。アフター・コロナでは再び大いに期待できる投資分野です。

空港も同様ですが、日本は港湾のような国際競争力のある大規模なインフラの整備をもっと進める必要があります。政府の財源だけで莫大な予算を割くことは難しいですから、民間が大きく投資して、運営で利益を上げていくことが重要です。その過程で蓄積されたノウハウは、最終的に企業の国際競争力につながっていきます。

福岡で始まっている港湾ターミナルやMICEの管理の民間委託は、大規模インフラの運営ノウハウ蓄積の第一歩です。施設運営で商業的な利益を生み出せるようにしたり、利用者の使い勝手を良くして満足度の高いサービスを提供することは、港湾が備えている基本的な機能に大きな付加価値を与えることになります。

しがらみを断ち切る政権交代の重要性

こうした民間委託に反対する人たちも大勢います。

政治の世界には、しがらみがあります。しがらみというと、利権や既得権益を想像する人も多いと思いますが、その背景となっているのは、その時点までの様々な経緯の積み重ねです。しがらみを漢字にすると「柵」です。流れを堰き止めるという意味から転じて、身を束縛するものという意味を持っています。

しっかりした政権であればあるほど、長年の蓄積によって拘束力が強くなるものです。コンセッション方式の導入で公共施設の運営権を民間委託しようとしても、これまでの運営方法を守ろうとする抵抗勢力が多いので、まず法案化するのが難しいのです。

では野党がしっかりすればいいのかというと、野党の中にも与党と異口同音に反対する人たちが大勢います。民主党への政権交代では、一旦それまで継続されてきた経緯が途切れたことと同時に、政権交代の勢いと混乱の間隙を縫うようにして、民営化が実現しました。民主党政権について批判的な声は今でも大きく、政権運営への評価には厳しいものがあります。

しかしながら、政権運営ではなく政権交代そのものには、しがらみをズバッと断ち切る力があります。政権交代が定期的に起きることは、日本に新しい流れを生む、淀んでいたものを動かす点で、重要な意味があるのです。

もっと政治の現場に近いところに焦点を当てると、しがらみを構成するひとつに各省庁と政治家の人間関係や、前任者からの方針の踏襲といった過去の経緯があります。政権交代で省庁に乗り込んだ人には、省庁側から「これまでは、こういう経緯でやってきました」と言われても、「前任者のことは知りませんよ」と言える強みがあるのです。

国防や外交という国家の存立に重要な事柄では、あまりにも連続性を欠けば国際的な信用に関わることは民主党政権で経験済みですが、それ以外のことで極度に変化を怖がるのは、「羹に懲りて膾を吹く」そのものです。

従来、行政が運営してきたものを民間に委託するときには、必ず困難がともないます。右のような政治的な事情によって、リスク負担の議論が冷静に行えないこともあります。コンセッション方式の導入の目的は、経営や設備投資を含め行政にはできないことを民間にお願いすることです。その結果、利用者へのより良いサービスや収益が生まれます。とは言っても、懐疑的な人もまだまだ多いでしょう。

ひとつ提案できるのは、比較してみようということです。2019年末から続いたコロナ禍によって、経済は一時停止の状況となりました。では、これが明けた後はどうでしょうか。実際に世界経済は動き始めています。

博多港のように民間企業の力を活かす方法を導入した場所と、そうでない場所を具体的に比較して、良い方を採用すればいいのです。そのときに重要なのは、どちらも粉飾や都合の悪いことを隠せない、情報の透明性と公正な評価基準です。

明快な基準にもとづいて、誰もが自分の目で両方を確かめられることで、より良い方法を選択し、必要な工夫を提案できること。福岡市の港湾コンセッションの取り組みは、そうした比較対象となり得る先行事例が海外事例ではなく日本国内にようやく生まれたという、日本の未来につながる最先端をいく大事なものなのです。

渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト
早稲田大学招聘研究員

渡瀬 裕哉

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