民間企業の人事経験者から見た日本学術会議の会員任命問題

民間企業の人事経験者から見た日本学術会議の会員任命問題

  • アゴラ
  • 更新日:2020/10/19

1日に公表された日本学術会議(以下、同会議)の会員人事で、同会議の推薦リストから6名が除外されるという異例の事態が起きた。筆者がこれに関して本欄に投稿したところ、長島昭久議員が拙論についてツイートをなさったこともあってか、望外な数のご賛同を賜わった。

【必読!】今回の日本学術会議問題をめぐっては、これまでのところ、高橋克己さん、池田信夫さん、篠田英朗さん(発見順!)の「アゴラ」三連弾が非常に優れた論考だと思います。いずれも、大変勉強になりました。いずれも、説明責任を果たすべき政府の理論武装にも役立つのではないかと思います。 https://t.co/AhfeN9XuU2
— 長島昭久 Akihisa NAGASHIMA, MP (@nagashima21)
October 5, 2020
from Twitter

以来半月経つが、議論はますます過熱している。論点は二つのようで、一つは「6名の除外理由を説明せよ」というもの、他は「日本会議は必要か」との論だ。一部の野党やオールドメディアは、政府が除外理由を説明せず、話を同会議の存廃にすり替えている、と本件のモリカケ化を画策する。

後者に係る同会議の性格やこれまでの成果、主要な会員の振舞いなどは、どちらかといえばネガティブな情報がネットメディアを主体に陸続と掘り起こされているし、同会議がいずれ行革の俎上の乗ると思われるので、本稿では「除外理由の説明」が不要であるとの立場から論を立ててみたい。

筆者は前稿で次のように書いた。

-(同会議の)先の推薦要綱には、同会議の内規第6条の規定に基づき「会員としてふさわしい『優れた研究又は業績がある科学者』の推薦をお願いいたします」とある。が、総理は6名をそうはお考えにならなかったということだ。-

-そもそも人事の理由など「訊ねる」(問い質す)などということは、社会人として「はしたなく非常識」と筆者は思う。いくら訊いたところで言うはずないし、また言うべきことでもない。-

総理の対応を批判するメディアや野党の論の多くは、要すれば「同会議が推薦した『優れた研究又は業績がある科学者』を、任命権があるとはいえ、総理如きが除外するのはけしからん。6名が政府の政策に反対する意見の持ち主だからではないか」というもののようだ。

批判する側がそのような主張をするだろうことは、筆者ももちろん判っていた。だからこそ、推薦要綱から「会員としてふさわしい『優れた研究又は業績がある科学者』」と、わざわざ「会員としてふさわしい」の部分までを引用した。ここがカギになると思ったからだ。

同会議の会員に推薦される方々だから、きっと「優れた研究又は業績がある科学者」ではあるのだろう。が、だからといって、そのような研究や業績、そしてその科学者自身が、同会議の「会員としてふさわしい」かどうかは、かなりの程度で別の問題ではなかろうかと筆者は思う。

私事にわたるが、筆者は某メーカーで平成の初めから丸5年ほど人事の仕事をしたことがある。本社で一括採用する主に学卒の社員と管理職の、採用、異動、教育、人事考課、昇格や全社の組織などを扱う課長職で、決裁ラインは課長の上は部長、担当役員、そして社長だった。

毎年春に行う学卒の採用数は事務系、技術系合わせて50名ほど。技術系は桜も蕾の頃、全国の国公立大などの懇意な教授と就職主任教授を訪ねて推薦を請いに、先輩社員がいた研究室などを回る。一方の事務系は自由応募だから、同じ採用とはいえ技術系とは全く手法が異なる。

30年も前の、しかも時はバブル全盛の売り手市場だったので、今とは全く様相が違うかも知れぬが、次のような手順を踏んだ。他社の同職に聞いても、やり方はどこも大同小異だった。

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写真AC:編集部

就職情報誌に掲載し、面接希望の葉書を募る。日に数十通戻到来する葉書から一次面接する者を大学名で選び、課員が電話で来社を要請、来社した学生と課員が会う。その日のうちに課長面接に進む学生の外は、「次に進んでもらう場合は何時何時までに電話します」とだけ伝え、お引き取り願う。

ほぼ採用と決めた上での役員や社長の面接は別だが、部長面接までは課長までと同じ手順だ。何を言いたいかといえば、課長面接や部長面接に呼ばない学生に対しては、単に連絡をしないだけであって、次に進めない理由など言わないし、学生側もそれを阿吽の呼吸で心得ている。

問い合わせを受けたとしても、「残念ながらご縁がなかった。きっと貴方にもっとふさわしい会社があります。どうか気を落とさずに頑張ってください」としか言いようがない。

ビジネス用語に「スキルセット」と「マインドセット」がある。前者は企業人の立場毎に必要とされる知識や技術を指し、後者はこれと対照的な個々の思考の様式などを指す。同会議の推薦要綱にある「会員としてふさわしい『優れた研究又は業績がある科学者』」の二重括弧部はまさに前者だろう。

一方「マインドセット」には、抽象的な経験や先入観などで形成される思考様式に加え、人柄や価値観や信念や相性などがある。採用する側には、学生のマインドセットは尊重するとしても、それが自社にふさわしいか否かを判断する自由があり、学生側にも社風などから企業を選ぶ自由がある。

選挙のある政治家やオリンピック代表の選手選考のように目に見える結果による訳でもなく、また入学試験のように点数で判断する訳でもない企業の採用選考の場合には、言葉では説明し難いこの「マインドセット」の要素が常に付いて回る。

同会議が法律で「内閣総理大臣の所轄」とされ、会員が「特別職の国家公務員」である以上、任命責任のある総理は「法に基づいて適切に対応した結果」と述べる他なく、蓮舫流にいえば「それ以上でも、それ以下でもない」。除外理由を問われても、人事のことは言えない、と突っぱねれば良い。

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余計な説明をした日には、そこを突かれるに決まっている。その意味で記者に「政府の方針と違う考えの持ち主だからか」との趣旨を問われ、「それはありません」と答えたのは余計だし、「99人分のリストしか見ていない」と明かす必要もない。ノーコメントとすべきだが、菅総理のことだから計算づくかも知れぬ。

いずれにせよ、会員の推薦でなく国民の選挙で選ばれた総理大臣には、国民の生命と安全を守る責任がある。少々ダッシュが効き過ぎている気がしないでもないが、菅総理にはこのまま信念をもって政治を進めて欲しい。

高橋 克己

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