罵声・悪態・誹謗中傷...ドサ回り営業の悲しい現実【連載:TAIGA晩成】

罵声・悪態・誹謗中傷...ドサ回り営業の悲しい現実【連載:TAIGA晩成】

  • WANI BOOKS NewsCrunch
  • 更新日:2022/08/06
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サラリーマンのストレスのはけ口に・・・

芸人としての“育ちの良し悪し”があるとしたら、俺はかなり悪いほうだと思う。大手事務所で育った芸人は大会でスカウトされたり、ライブで実績を残していたり、誰もが一目を置く才能を持っていることがほとんどだ。

彼らは事務所の主催ライブで腕を磨き、地方営業、学園祭などの仕事も定期的にまわってくる。そしてテレビに出て、あっという間に売れてゆく。まさに王道中の王道だろう。

一方、俺はショーパブから芸の道に入り、弱小事務所から芸人人生をスタート。大手事務所が断るような場末の飲み屋、屋形船の宴会、常連によるソープランド貸し切りパーティー、Hなコンパニオンがいる宴会、謎の柄の悪い企業のパーティーなど、営業の依頼があったらどんな現場にも足を運んだ。

もちろん、主戦場だったショーパブにだってタチの悪い客はいる。ネタの最中に「つまんねーぞ!」「似てねー」「いつ笑わせてくれんのー?」とヤジを飛ばされるなんて日常茶飯事。今となってはとても恥ずかしい話だが、「じゃあテメーがやってみろ!」と客席に向けて怒鳴ったこともある。

営業に慣れてくるとわかることだが、こわもてで“そっち系”の仕事だろうなという人は、逆にマナーは良かったりするから不思議なものだ。普段ストレスを抱えてるようなサラリーマンのほうが厄介だった。

客席に降りてパフォーマンスをする俺の手を、強い力で引っ張ったり、握手した手にキスしてくるおっさんもいた。

「お前は売れないよ~」「68点!」と勝手に点数つけてくる客もいた。完全に無視されることもザラだった。

ショーが終わったら気を取り直して客席を回る。記念撮影などファンサービスの一環で、おひねりをもらえることもある。さっきまでヤジを飛ばしていた客の元にも行くわけだが、こういうタイプの客はちょっとビビって大人しくなってるか、もしくはショーの途中で酔っ払って寝ているかの2パターンだ。

「つまんねーぞバカ!」と言われながら、おしぼりを投げつけられたこともあったな。おしぼりが顔にあたってキレそうになったが、他のお客さんが引いてしまうのでグッと堪えてネタを続けた。あのときの悔しさは今でも忘れられない。

濡れた1000円札をドライヤーで乾かし・・・

しまった。こんなことを書いてたら、どんどん嫌な記憶が蘇ってきた。地方のキャバクラ営業では、酔っ払った客がショータイム中にテキーラを持ってきて、何度も一気させられたこともある。

断ると場はシラケるし、呼んでくれたお店の人の手前あるので、断ることはしない。ヘラヘラ笑ってテキーラをあおる俺の様子は、エリート芸人からしたら、まさに汚れ芸人の立ち振る舞いだが、一気すればチップが貰えた。だから俺は断ることはできない。

もう飲めないと言うと「飲めないなら頭からかぶれ!」と、グラス満タンの焼酎を頭からかけられたこともある。屈辱的だったし、腹も立ったが、酒をかけられた迷惑料として、いつもより多めにチップをもらった。思い出しただけで涙が出てくる。

だが、どれだけ屈辱的な仕打ちを受けた相手から貰ったとしても、チップはチップだ。手にしたお札を見ると、少しだけ救われた気がした。

酒で濡れてるものもあれば、綺麗に結んであるもの、割り箸に挟んでポケットに入れられてるもの、ステージを終えた俺の手元にはいろんなチップがある。

楽屋に帰ってから一枚一枚数えて、金額を確認して財布にしまう。濡れてるお札はドライヤーで乾かす。たくさんチップもらった先輩が、若手に2000円ずつ分けてくれることもあった。

若い頃はチップ貯金をしていた。泡銭みたいなものだからと、家の引き出しに放り込んでいて。最高で40万くらい貯まっただろうか。結局30代半ばくらいで金に困って使い果たしてしまったのだが。 売れてない若手芸人は、とにかく金がない。手っ取り早く金を貰うことを優先するのは当たり前だ。

屈辱的な仕打ちの代わりにギャラをもらえる飲み会は他にもあった。

いわゆる「タニマチ」と言われるパトロン的なお金持ちの集まる飲み会や、パーティーでネタをやって、散々バカにされて貰う帰りのタクシー代だ。

俺をとてもよくかわいがってくれた木戸さん(過去話参照)のような、愛を持って本当に応援してくれてる人のタクシー代とは意味合いが違う。

ギャラ飲みとの決別

芸人をやっていると、芸人同士のつながりや飲み屋で知り合った社長のつながりで、お金持ちの社長の飲み会に誘われる機会がある。飲み会帰りにはタクシー代と称して2~3万を渡されるのだ。一時期話題になったキャバ嬢のギャラ飲みみたいなものだ。

飲み会の現場に着くと、何をやっているかわからないけど羽振りの良さそうな社長が真ん中にいて、両脇にキャバ嬢かグラビアアイドルだろうか、きれいな女性が座っている。俺たちはその前でネタやるのだ。

社長や、その取り巻きの人たちに「つまんねーな」「いつ笑わせてくれんだよ」「お前は一生売れねーな」と言われ、「面白かったらとっくに売れてますから〜」と愛想笑いをする。

コンビニなどのアルバイトで日給1万を稼ぐというのはなかなかしんどいが、その飲み会に行けば、タダ酒が飲めて数時間盛り上げるだけで2~3万のタクシー代がもらえる。

若いときは飲み会に誘われるたびラッキーだと思っていた。芸人とはなんて恵まれた仕事なんだと思った。だが歳を取れば取るほど、飲み会後の疲労が取れなくなっていく。なんて惨めな金の貰い方なんだろう、とさえ思うようになっていた。

深夜に家に帰って、台所の蛇口から直接水を飲む。そして小さくため息をつく。テーブルに置かれたお車代と書かれた封筒がやけに汚らしく見えた。中にいくら入ってるか知らないが、無駄に使い切ってやろうと思った。

そんなある日のギャラ飲みでのこと。飲み会の最中にトイレで用を足した俺は、鏡に映る自分の顔を見た。俺は鏡の中の自分に問いかけた。

「一生懸命作ったネタや人格否定されて、金をもらってうれしいか?」

飲み会が終わり、いつものように社長が「ホラッ、お疲れ」と言ってお金を渡そうとしてきたが、「こんな面白くない芸人にお金を渡すのもったいないですよ! まだ終電があるんで電車で帰ります! ごちそうさまでした!」と笑顔で言った。俺はなんだか晴々しい気分だった。

その日を境に、俺はギャラ飲みをスッパリやめた。俺は36歳になっていた。

(構成:キンマサタカ)

TAIGA

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