最近ではリスキリングやリカレント教育が話題ですが、あなたには何か学んでみたいことはありますか?『ただの主婦が東大目指してみた』(フォレスト出版)は、昼寝ばかりしていたズボラ専業主婦の著者・ただっちさんが、夫の言葉をきっかけに東大を目指す姿を描いたノンフィクションの受験奮闘記です。「ただの主婦」は一体なぜ「東大主婦」を目指すことになったのか―。笑いあり涙ありのエピソードを厳選してお届けします。
※本記事はただっち著の書籍『ただの主婦が東大目指してみた』から一部抜粋・編集しました。
【前回】専業主婦だけど家事をがんばらない! 私が今からやりたいことは...
かっこいいから東大、という理由 5月某日
まだ夫の許可はないけれど、家事をがんばらないとして、その時間で何をしよう?
もう夢いっぱいの10代でもないし、行き当たりばったりでは、到底良い結果は得られない気がする。それに新しいことをはじめて新しい自分になりたいけども、ちゃんと死守したいこともある。
それは、できるだけ夫と長い時間を過ごして、子どもを産んで、お母さんをやること。そんな当たり前で、素朴な夢を捨ててまで追いかけたい夢なんてない。それは大前提だ。その前提を踏まえて、私はどうしたらいいのかな?
今まで生きてきた感じでなんとなくわかるけど、ちょっとした「うっかり」が大迷惑につながる仕事は絶対ダメだ。医療関係はもちろん、書類やデータを扱う仕事もダメそうだ。あまりにも不注意が多すぎるからチームワークを要する仕事は、自分がつらい思いをするだけじゃなく、他人にも超絶大迷惑だ。
そうなるとやっぱり、今のようにフリーランスとして、1人で黙々と絵や漫画、文章を描く仕事が向いてると思うし、何時間作業したって苦にならない。なんとなく流れでやってた仕事だけど、私には「天職」なのかもしれない。
でも、正直絵の才能があるわけでもなく、特別センスがあるわけでもなく、専門的な知識もない。今イラストや漫画の仕事があるのは、どう考えても運が良かっただけなんだ。だから、この強運の流れが終わってしまったら、仕事がなくなってしまうだろう。
「平凡」な私が、ものをつくる仕事をしながら生きていくためには、どうしたらいいのかな? 美大や専門学校に行って、絵の技術を高めるといいかな?
......いや、絵が上手なんて山ほどいるんだよ。理論を学んだからって、単純に"絵〟で勝負できるほどの能力は私には、ない。
クリエイティブな世界で生きていきたければ、とがって、とがって、唯一無二の存在になるのが手っ取り早い。自分にしかない属性を重ねて、重ねて、オンリーワンになればいい。その人にしか生み出せない、特別な何かをつくれる人間になれば、頭一つ抜けられるんだ。
きっとそう。そんな〝とんがり〟を得るには、何をすればいいのだろう?
あっ、そうだ。東大......。
たとえば、東大とかに進学して、学問の道を究めてやれば、すっごいとがってくるんじゃない? ゆるい感じの絵や漫画、文章が書けて、しかも東大卒の、なんかの学問の博士。
うわぁ、かっこいいじゃない。
なんかよくわからないけど、博士だったら、誰かの何かの役に立つものが生み出せそうだし。
我ながらナイスアイデア!
壮大な夢か、あるいは赤面ものの妄想か 5月某日
さっそく東大について調べてみた。
私が東大生になる方法は、3つある。学部入試、学部編入、大学院入試の3つだ。
この中で一番難易度が高いのは、間違いなく学部入試だ。高校レベルの内容だとはいえ、8教目も勉強しなくちゃいけない。間違いなく学部入試だ。編入や大学院の入試だと、科目は少なくて済むけど英語や第二外国語、専門科目、論文や研究計画書づくりにプレゼン、口頭試門......。
大学院だと、早くてあと3カ月で院試(8月に実施)があるみたい。
3カ月かぁ......でもなぁ、専門知識がゼロの状態だから、ちょっと厳しくないか?
しかも東大の学部入試を通さず晴れて「東大生」になれたとしても「学歴ロンダ」とか揶揄されるんだろうな。まぁ、学部入試の難易度が異次元レベルに高いから、仕方ないんだけど。
ところで、私は何の研究者になりたいのかな? 東大に入学して、とがりたいっていうのも理由の1つだけど、どうせ究めるなら、誰かを幸せにするような研究がしたいな。
ぐるぐると考えを巡らせていると、ふわっと心療内科の先生の顔が頭に浮かんだ。
心療内科に行って自分の「皮膚むしり」が自分のせいではないって知って、ものすごく楽になった。何十年も縛られていた苦しみや罪悪感から解放された。
先生は私の「幸福度」に貢献したといっても過言ではない。薬を処方してくれたり、夫に話をつけてくれたり、そんな具体的なことをしてくれたわけではない。なのに、ものすごく大きな影響だ。
......きっと、人間の幸福度を決める大きな要因は、「脳」の使い方なんだ。考え方1つで、「心」の状態がこうも大きく変わるんだもの。私も先生みたいに、自分の考え方のせいで苦しんでいる人のために、何かをしたい。
ああ、見つけたぞ、私の夢。
考え方のクセや、外的要因のせいで心が雁字搦めになっていて、しんどい思いをしたり、自分の人生を楽しめていない人をラクにするような研究をして、自分の描く漫画やイラスト、文章でわかりやすく、たくさんの人に広めたい!
研究者になるには、東大で基礎から勉強をして、博士号を取るのが一番だろう。時間はものすごくかかるけど、やっぱり学部からやり直して基礎を築こう。
そして、いろんな人との出会いを大切にして、全部全部、自分の人生の糧にするんだ。
大学受験用の予備校で働いていた経験もあるから、理論的には合格までの筋道が立てられるし、どう勉強すればいいのかもわかる。ああ、すべてがきれいにつながった!
やっと本気でやりたいことが見つかって、ずっとかかっていた霧がカラッと晴れて、人生動きはじめた感じがする......!
ピタッとブロックがはまったような感覚。ああ、ドーパミンがどくどく分泌されてる。
なんだかもう、じっとしてられないくらいワクワクしてる。
よし、私は東大へ行くぞ。夢を根こそぎ掴んでやるぞ。
ただの主婦の生活は、今日でおしまいだ。
600万円の自分磨き 5月某日
さて、ここからが問題だ。学部は4年、修士は2年、博士は3〜5年。
最短で卒業できても、学費その他もろもろ込みで約600万円かかってしまう。
自分磨き代としては、あまりにも高すぎる。ちょっとそこらのカルチャースクールに行く感覚ではないし、博士号を取得したからといって確実に将来の稼ぎにつながるものではない。
もちろん、合格しなくちゃ何もはじまらないけど、夢に向かって歩みだすって時点で、夫の許可を得るべきだ。
この時点ですでに5月。もし来年から東大生になりたいのなら、もう時間がない!
その日、夫が帰宅してすぐさま私のこの「ナイスアイデア」を伝えることにした。
扉を開けて、玄関に入ってきた瞬間、すぐに言った。

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