「カネやポストで揺さぶり」派閥幹部が総裁選間近に若手を一人ずつ呼び出してすること

「カネやポストで揺さぶり」派閥幹部が総裁選間近に若手を一人ずつ呼び出してすること

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2021/09/15

自民党総裁選は立候補者だけの戦いの場ではない。派閥に翻弄される若手議員の戦いの場でもある。前自民党議員で大正大学地域構想研究所准教授の大沼みずほ氏は「派閥幹部やベテラン政治家は、自分たちにとって有益な候補者を勝たせるため、表向きは、自主投票という看板を掲げても、派閥内の引き締めを強め、派閥というものの存在の大きさを改めて見せつめる総裁選となるだろう」という――。

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写真=iStock.com/takasuu※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

混迷の総裁選のウラ舞台でうごめいていること

自由民主党の総裁選が混戦模様となっている。

レースを見通す上で注目したいのは、自民党支持率が37%まで回復しており、最大野党の立憲民主党の5%よりはるかに高いということだ(朝日新聞世論調査:9月11、12日調査)。

8月下旬の横浜市長選で野党系候補が勝利し、「次の自民党総裁次第では、政権交代が起きる可能性もゼロではない」といった指摘はあるものの、世論調査の数字を見て、秋の衆議院選挙で、自民党は「大きくは負けないのではないか」という憶測も出始めた。大詰めを迎えた総裁選が今後どうなるのか。派閥の構図から読み解いてみよう。

1:宏池会と麻生派

総裁選で早いうちから立候補を表明していたのが岸田文雄元政調会長(64)だ。自民党内最古参の派閥・宏池会の長である。派閥のトップが総裁選に出ることもあり、派閥メンバーの46人からの支持は固い。

同派は、戦後の日本の成長を支えた池田勇人や大平正芳、宮澤喜一といった先人の首相たちを輩出しており、政策通が多い。強面政治家は少なく、ゆるやかな連帯感が特徴で、お公家集団などと揶揄(やゆ)されることもあるが、保守本流は自分たちであり、日本の戦後を作ってきたという誇りを持つ。

一方、麻生派に所属する新型コロナウイルス感染症ワクチン接種推進担当大臣・規制改革担当相である河野太郎氏(58)は、今回、派閥の領袖である麻生太郎会長(80)の全面的な支持は受けられず、麻生派は河野氏と岸田氏の二人を支持するという方針を固めた。麻生派の中にも甘利氏を中心として、岸田氏を推す人が少なからず存在する。

麻生氏は“部下”の河野氏より岸田氏推し?

麻生派が河野氏支持で一本化できない理由には、麻生派自体がいわば宏池会の分派であるという事情も関わっている。麻生氏と岸田氏の父親は当選同期であり、もともと岸田氏と麻生氏は昔から関係が深い。麻生氏は当初、宏池会に所属していたが、河野氏の父親である河野洋平氏が宏池会を出た時に一緒に宏池会から出ているという経緯がある。

麻生氏は現在、副総理兼財務大臣だ。河野氏が総理総裁になれば、そのポストを外される可能性が高い。もし、岸田氏が総理総裁になればその座にとどまる可能性もある。そうした自身のポジショニングも影響しているだろう。

今、国民の中で高い知名度と人気度を誇るのは、河野氏だろう。それに注目しているのが、自民党議員のほぼ半分を占めている当選回数1~3回までの比較的若い世代だ。彼らにとって、河野氏の知名度と発信力は、衆議院選挙を目前に控えた中、選挙の顔としての期待値が高まっている。

そのため、河野氏支持をするのは麻生派議員だけでなく、他派閥にも少なくない。小泉進次郎氏も明確に河野氏支持を表明した。派閥横断的に若手に支持を広げていく一方で、党員票とともにベテランをはじめとする中堅以上の議員をどれだけまとめられるかが勝敗の鍵となる。

今回不出馬を決めた菅義偉首相は河野氏支持を明確にしている。表向きは自主投票としているガネーシャの会(菅首相に近い自民党の当選4回以下の無派閥有志)だが、数人を除き、河野支持でまとまっているようだ。

2Aの思惑「60歳手前の河野氏が総裁になると世代交代が一気に進む」

2:細田派と高市早苗氏、安倍元首相の思惑

では、高市早苗氏(60)はどうか。かつて細田派に所属していたが、大臣を経験した後、無派閥になった。安倍晋三元総理大臣(66)は同じ元細田派で政治信条が近いということもあり、高市氏を支援すると発表。推薦人に必要な20人の確保も安倍氏の支持表明により、保守団結の会の高鳥修一氏などを中心とする人たちから固められている。ただし、他派閥への広がりは限定的と見られる。

安倍氏はなぜ高市氏を推したのか。それは「政治信条が近い」だけではない思惑がある。安倍氏は、石破茂氏(64)か河野氏のいずれかが総理になることを避けたいと考えていた。理由は2つ。ひとつ目は、石破氏が前々回の総裁選挙以降、党内野党のように安倍氏を批判し続けたことで、両氏の関係が悪化していたこと。ふたつ目は、60歳手前の河野氏だと世代交代が一気に進み、80歳の麻生氏とともに党内を60~70代のベテランで仕切ることができなくなる可能性があるからだ。

石破氏については、9月14日に正式に総裁選挙に不出馬を表明し総理の目はなくなった。不出馬により、安倍氏は石破氏支持層が河野氏へ流れることを懸念し、より一層高市氏支援に力を入れるだろう。ここで、高市氏を応援することで、票を分散化し、河野氏が1回目の投票で過半数に達するのを避けなければならないと考えているはずだ。

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写真=iStock.com/takasuu※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

総裁選告示直前になって、高市氏の自民党層での支持率は石破氏を上回る勢いで伸びているとの報道もある。安倍氏とすればこの勢いで決選投票に持ち込ませ、岸田氏vs.河野氏となった際には、岸田氏支援を打ち出すのではないかと見られている。

「森友問題の再調査」を巡る岸田氏のテレビでの発言に安倍氏が激怒したため関係が悪化したと指摘する向きもあるが、安倍氏は誰が総理総裁になっても、自分が影響力を行使できる立場を維持することを最優先に考えているはずだ。

3:参議院自民党内派閥の動き

私が今回の総裁選で注視しているのは、参議院内の派閥の動きである。

参議院最大派閥は、細田派の清風会。108人中、36人と3分の1を占める。それに次いで、参議院平成研20人、参議院麻生派13人、参議院宏池会12人となっている。彼らのグループはそれぞれに結束力が強く、投票先を一致団結して決める傾向にある。

参議院議員にとっての選挙とは、2022年の夏に実施される参院選を指す。もし新しい総裁を担いでも、来夏までに国民の支持を失ったら意味がない。1人区を多く抱える参議院選挙区は、世論の“風”の影響を受けやすい。また、衆議院選挙と異なり、政権選択の選挙ではないため、批判票も多い。

来年の参議院選挙で負けて、衆議院と参議院の与野党が逆転する「ねじれ」となれば、法案は衆議院の3分の2ルールでしか成立できなくなり、政権の体力を大いに奪い、政権交代へとつながるリスクも生む。

そのため、参議院議員はより慎重に、その場しのぎでなく、中長期的に安定政権を築くことのできる候補者を見極めて投票するだろう。383票の議員票のうち、100人を超える自民党参議院を制するものが総裁選も制すると言っても過言ではない。

つまり、来夏の参議院選挙での勝利までの選挙戦が自民党にとって大きな勝負なのである。

必ず同じ昼飯メニューを食べる二階派は派閥で「同じ釜の飯を食う」

4:石破氏と二階派

石破氏は今回の総裁選の出馬を見送り、河野氏支援を打ち出した。このことは派閥の動きに大きな影響を与えた。出馬見送りのニュースが流れるや否や、もともと麻生派・細田派は自主投票としながらも、派閥として麻生派が「岸田氏か河野氏」、細田派が「岸田氏か高市氏」を支持することを表明し、3人の候補者のうち支持する候補者をそれぞれ2人とし、麻生派は岸田氏も堂々と支持しても問題ないことを示し、細田派は実質的に河野氏排除の動きを見せたのだ。

二階氏は、「党役員人事改革」の旗印を掲げた岸田氏を応援することはない。二階派の山本拓氏は元妻の高市氏で動いており、そのほかにも数人は“離脱”する可能性はあるが、直近に開かれた二階氏と石破氏、二階氏と菅総理の会談などの流れを見ると、たとえ表向きは自主投票となっても、実際には、河野氏支持でまとまるのではないのではないかと私は見ている。

岸田氏の宏池会は、派閥内での昼食はいくつか種類のある弁当から選ぶ方式だが、二階派は同じメニューのものを食べる。「同じ釜の飯を食う」関係を構築し、鉄の結束と言われている。コロナ禍前は、夜の会合が終わると必ずみんなが同じところに集まって、意見交換してから解散した。他派閥の若手も積極的に飲み会などに誘うなど、とにかく結束と面倒見がいい。

落選議員に二階氏が聞いた「いま何が必要か、金かポストか両方か」

前自民参院議員である私には、今でも忘れられない言葉がある。2019年夏に落選直後、挨拶に行くと二階幹事長にこう言われて驚いた。

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自民党竹下派のセミナーであいさつする二階俊博幹事長=2020年10月30日、東京都港区(写真=時事通信フォト)

「いま何が必要か、金か、ポストか、両方か」

選挙に落ちればたちまち無収入になり、肩書も「前議員」となる。しかし、「ただの人」となっても、例えば「自民党幹事長補佐」といった肩書(ポスト)つきの名刺があれば、地元では効力を発揮するだろう。私は丁重にお金もポストもお断りしたが、落選後に他派閥から二階派に入った先輩もいる。大臣ポストが欲しくて二階派に行き、実際に大臣になった先輩方もいた。

こうした面倒見のよさが、勢力拡大につながった。二階派が“草刈り場”になることはないだろう。必ず派としてまとまって行動をし、その強さを改めて発揮するに違いない。

総裁選はこれまでは、派閥の長が出て争うという形が多かった。しかし、今回は派閥の長は、岸田氏のみ。派閥の機能は小選挙区制の導入により低下しているが、決してなくならない。岸田氏が前々回の総裁選で出馬しなかったのは、宏池会に属した者として、2000年の「加藤の乱」(加藤氏、山崎拓氏らが森喜朗首相の退陣を求めた倒閣運動。未遂に終わった)の結末の恐ろしさをよく知っているからだ。「出るからには勝ちにいかなければならない」。そうした言葉を繰り返している。

派閥幹部は若手を一人ずつ呼びだし、金やポストをチラつかせる

ベテラン議員がなぜあの有象無象うごめく永田町で生き残れたのか。権力維持への執念は、若手議員の選挙に当選したいという執念とそれ以上のものがある。

総裁選が間近になると派閥幹部は若手議員を一人ずつ呼びだし、金やポストをチラつかせ、揺さぶりをかけていく。自民党の当選3回以下の議員たちが立ち上げた「党風一新の会」メンバーも会を重ねるごとに出席者が少なくなっていると聞く。派閥幹部から「あんなものには出るな」という締め付けが始まるからだ。

総裁選が始まると、ホテルなどの一室を借りて毎晩のように議員たちが集まり、情勢を分析する。コロナ禍において、今回はどうなるかわからないが、陣営に来なくなった若手がいれば、それは派閥から切り崩されて脱落していったと見ていい。

総裁選は候補者たちだけでなく、派閥に翻弄される若手議員の戦いの場でもある。人が3人集まれば、派閥ができる。派閥は決してこれからもなくならないし、総裁選というここ一番でその力を見せつけるに違いない。

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大沼 みずほ(おおぬま・みずほ)
大正大学地域構想研究所准教授
NHK報道記者、外務省専門調査員、内閣府上席政策調査員などを経て、参議院議員。元厚生労働大臣政務官、元自民党副幹事長。現在、大正大学地域構想研究所准教授
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大沼 みずほ

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