「ワイヤリング(配線)」がキーワード「未来の働き方」を体現する先駆者【後編】

「ワイヤリング(配線)」がキーワード「未来の働き方」を体現する先駆者【後編】

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2022/05/14
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今回の取材での問題意識は、「組織」と「個」をつなぐ、「ワイヤリング(配線)」の存在だ。「組織」と「個」のお互いがそれぞれにもつ価値観を軸にワイヤリングする時代がくるのではないか、という仮説を立てた。

「個」の力を結集し、新しい価値創造へつなげたいと、企業は画一的なハイスペック人材の採用から、多様的な「個」を求めるダイバーシティ採用へ変化し、「個性」を事業戦略に生かそうと奔走している。だが、「個性」が十分に発揮されている企業は多くはない。

個人として「個性」を模索する、組織として「個性との関係性」を模索する。際立った「個性」をもった人がどのように組織や社会とつながるか、世界で活躍する4人に聞くなかで、多様な答えが見えてくるのではないか。

哲学や理念は身体性でも伝える シャネルの神髄とは
東風上尚江 5.cinq.代表

スタッフさえも知らない「ラボラトリー」と呼ばれる場所が仏高級ブランド、シャネルにはある。創始者であるココ・シャネルが最初につくったリップケースや、図案、オートクチュールの生地など、クリエイションにかかわったすべてがアーカイブされている「シャネル博物館」のような場所だ。

木目調の図書館のようなこの部屋は、ラボの館長が管理し、限られた人しか利用できないという。その部屋に立ち寄っては、創始者の哲学を確かめていた人物が2人いる。1971年のココ・シャネルの死後、低迷していたシャネルを現代的なセンスで見事によみがえらせた、モード界の帝王カール・ラガーフェルド。ココ・シャネル本人が採用したという「メイク界の神」、ドミニク・モンクルトワだ。

「シャネルっぽさ、シャネルの世界観というものに正解はないと思う」。ドミニクが引退するまで、メイク関連のみならず、彼の手足、そして、目・耳となり、インスピレーションを与え続けた日本人女性、東風上尚江は言う。

東風上は、ロサンゼルスでメイクを学び、帰国した後、日本ロレアルに入社し、インターナショナルメイクアップアーティストとして活動。その後、シャネル パリ本社からヘッドハンティングされ、ドミニクの右腕、エグゼクティブメイクアップアーティストとして活動を開始した。

「シャネルの世界観はココ・シャネルしかもっていない。だから、シャネルらしさを探し続ける作業こそがアイデンティティ。毎回、オリジンに戻り、シャネルの原体験をもとに、皆で議論していくことで、その答えに近づいていくことができる」(東風上)

東風上がシャネルの独特な文化に驚いたのは、入社直後からだ。入社後、1カ月間にわたり、フランスでのトレーニング参加が求められた。パリ市内の名所を一望できるホテル・ド・クリオンに滞在し、マンツーマンでシャネルの世界観を理解するという優雅な研修だ。

社員には戦力になってもらいたいからこそ、じっくりと時間をかけ、シャネルの哲学、世界観に浸ってもらうという。結局、東風上は、1年くらいにわたり、集中してシャネルの精神を学び続ける機会を得た。

「シャネルは、世界観を浸透させるトレーニングを徹底していた。ココ・シャネルがどこで何をしたのかをたどる。例えば、シャネルにゆかりのあるフランスの高級避暑地、ドーヴィルという街全体を使ってのチームビルディング。街中の至る所にシャネルに関する質問が隠されており、ゲームを早く解いたチームが優勝する。コミュニケーションとシャネルの文化を体得しながらのトレーニングによって、抽象的だったシャネルの世界観をそれぞれが理解を深めていく」

哲学や理念。それらは、時代や場所を超え、「言葉」だけで伝え続けるのは決して容易ではない。だからこそ、身体・精神を伴ったかたちで時間をかけてBack to the basicする。創始者が見、抱いた感情や世界観がビビッドにつながるように。

3カ国5拠点暮らし 問う「どう生きるのか」
近藤ナオ CENTER創業者

「人はどう生きるのか。いま、私が知りたい問いです」

アフリカ・タンザニアで資本主義の枠組みのなかで、幸せに暮らしていける「場所」の創設を目的とした「エコビレッジ」プロジェクトをリードする近藤ナオはそう語る。

近藤は2021年まで、日本、オランダ、タンザニアの3カ国5カ所を拠点に移動しながら暮らしていた。手がけている事業は世界で12にのぼり、不動産・コリビング運営、NFTアーティストマネジメント、フードデリバリー、オーガニック酪農、食用カタツムリの養殖などと幅広い。

しかし、現在は、最もやりたいことをしているという。それが「人はどう生きるのか」という問いの模索であり、冒頭のタンザニア・タンガにあるエコビレッジ・プロジェクトだ。そこではある実験的な試みをしているという「現地の人たちとともに、なんのインフラもない土地に、現地の生活をベースにさまざまなエッセンスを加えた新しい暮らしを実践し、見てもらう。

例えば、バナナの木と共存する水洗トイレや、ソーラーパネルで充電したワイヤレス電動工具を利用した現地素材だけでつくる建築物などだ。そして、現地の人や僕を含む世界中の人々にとって、何が『ちょうどいい暮らし』なのかを考えるきっかけになったらと」

近藤は、大学在学時の20歳のときに友人と起業した設計事務所が成功。その後、2つ目の会社を起業、20代半ばにして上野駅前に複合施設を建築するという数百億円規模の仕事を任されるようになった。しかし、「建物をつくる」という従来の価値観に疑問を抱きはじめ、建物をつくらないまちづくりがしたいと、渋谷の街全体を大学に見立てる「シブヤ大学」や「まちの保育園」に参画してきた。

その後、オランダ、アフリカ、南米へと拠点を広げ、すべての家から10時間以内で、ほぼすべての国に行けるようにした。「社会のソリューションを考えるとき、友達の顔が浮かぶと浮かばないのでは大きな違いがあると思っていて。だから、世界にリーチしやすい環境に身を置き、体感レベルでリサーチしている」

現在、近藤のもとには、開発途上国を中心に世界中から事業のプレゼンをしに来る起業家が後を絶たない。近藤は基本、プレゼンしてきた人には「全員にお金を出す」と決めている(事業が成功するための宿題を毎回出し、8割以上は脱落してしまうそうなのだが)。それはまるで「善意型資本主義」とも言えるアプローチだ。

近藤が一貫してつくりたいのは、「拡張家族」に見える。ひとりの絶対的な権力に頼るのではなく、また、個の自己責任ですべてを担うという行きすぎた個人主義でもなく、「コミュニティ」規模の拡張家族に依存しながら生きていく──そんな新しい資本主義の姿。人に依存して生きていく社会、という新しい豊かさの定義だ。

近藤が問う「人はどのように生きるのか」から、「働き方、組織のあり方」が見えてくるかもしれない。「個人と組織」、それぞれ単一名詞のようにとらえられがちだ。しかし、当然そうではない。それぞれがもつ端子たる接続面は多様で、それは時を経て変容もしていく。だからこそ、いま、最も相応な「配線先」を探し、つないでいく。それにより、個と組織はともに立ち、つながれたラインから、さらに新しい回路が広がる。

「新しい時代のルネッサンス」は、このかけ合わせで無限に広がっていく、「可能性にあふれている」時代の到来ではないか。

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