DH制はリリーフ陣の負担を軽減!?︎ブルペンマネジメントに見るセ・パの差

DH制はリリーフ陣の負担を軽減!?︎ブルペンマネジメントに見るセ・パの差

  • Sportiva
  • 更新日:2021/02/22

特集『セ・パの実力格差を多角的に考える』
第12回 リリーフマネジメント術

DH制の導入によって、投手の負担が軽減される──。これはセ・リーグへの導入を提案した巨人が主張したことだが、はたしてどれほど軽くなるものなのか。当然、試合で打席に立たない、となればケガの危険がなくなり、打撃練習の必要もなくなり、ピッチングに集中できることはファンにもわかるだろう。

【写真】セ・パの実力格差を多角的に考える

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昨シーズン、チーム最多の54試合に登板した中日・祖父江大輔

一方でセ・リーグの他球団からは、DHが入ると切れ目のない打線になり、かえって投手の負担は重くなるという反論もあったというが、じつのところはどうなのか──。現役時代にセの巨人からパの西武に移籍し、投手として両リーグの野球を経験した鹿取義隆氏に聞く。

「まずピッチャーの負担に関しては、もうキャンプから違ってくる。パ・リーグは投内連係とか、チームプレーの練習が終わったらもう投げるだけ。それがセ・リーグの場合、投げる前に走塁、バント、バスター、バッティングもやらなきゃいけない。試合というより練習から、投げること以外に時間を取られる。それがセ・リーグのピッチャーの負担だと思います」

単に試合で打席に立つ、立たないではなく、長い時間をかけての準備段階から違いがある。その点、パ・リーグのほうが負担は軽いと言えるわけだ。では逆に、打線にDHが入って9人攻撃になり、息を抜けなくなる、ということはあったのだろうか。

「それはたしかにあって、僕自身もまったく気が抜けなくて苦しかった。巨人の時は『9番ピッチャー、そこまでいけば何とかなる』って思えていたから。もちろんそこで安心しちゃいけないんだけど、そう思って投げるのと、まだまだ続くのか......と思って投げるのは違うから。嫌でした、最初の頃は(笑)。しかも、パ・リーグのバッターは全員、振りまくってくるからね」

一概には言えないが、DH制が負担を重くする部分もありそうだ。なおかつ、巨人でリリーフ中心に11年間、投げ続けてきた鹿取氏は、それ以前から「セ・リーグは緻密な野球、パ・リーグは豪快な野球」と言われていたとおり、いざ対戦するとバッターのスイングに違いを感じたという。

「まさに豪快と感じたね。僕が入った頃の西武は監督が森(祇晶)さんで、1番が出たら2番はバントという野球だったけど、他チームのバッターは試合の序盤、中盤だったらどんどん振ってくる。もう、自分のタイミングでガンガン振るし、バントするのはまず1点勝負の終盤だけ。これがパ・リーグの野球なんだ、と実感しましたよ」

個々のバッターが積極的に振ってくる。それがパ・リーグ野球の特性なのだとすれば、各バッターへの攻め方も変わってくるのだろうか。

「初球から勝負に変わったね。バッターがいきなり振る可能性があるので、あそこに投げて、ここに投げて、じゃなくて、一球目から勝負球を投げていかなきゃいけなくなった。もちろん速いボールを投げるのがいちばんいいんだけど、僕はそこまでスピートがなかったら、ウイニングショットで一球勝負みたいな感じにしていかないと打ち取れなかったです」

もっとも、そのように対策を講じたり、攻め方を変えたりすることは、投手としての成長、技術向上につながるはず。そこでDH制に立ち返ると、切れ目のない打線で投手の負担が重くなる、ということは、見方を変えれば投手が育つ環境と言えないだろうか。

「育つ環境に関しては、また別の話になるんだけど、僕はパ・リーグのほうが断然いいと思う。極端な例で言うと、先発でルーキーが投げた場合。3回までに5点取られたら、セ・リーグでは打順が回ってきたら代打を出されて交替ですよね。それではキャリアを積めなくなる。

◆ラミレスは断言「セ・リーグにDH制は必要ない」>>

その点、パ・リーグの場合は、『もう、今日は任せたよ。どんどん行ってこい』で、3回5失点だったのが6回5失点で終わる可能性もある。ということで、キャリアを積める。最初の打席で打たれたバッターを次の打席で三振取るとか。そうやって数多くイニングを消化していくことで成長していける。それがDH制のパ・リーグのよさだと思うんです」

ルーキー、若い投手がキャリアを積みやすい環境。言い換えれば、パ・リーグは先発投手が長いイニングを投げやすい。反対にセ・リーグの場合、試合展開によっては5回を待たずに投手の打順で代打を送り、続投可能な先発も早めに降板させないといけないときがある。そこは監督の腕の見せどころで、投手交代の妙はセ・リーグ野球の魅力のひとつと言われる。

現に、DH制導入に反対するセ・リーグ球団からは、投手交代の妙が減るということが反対理由のひとつに挙げられていた。つまり反対派は、DH制では投手の負担が重くなり、観戦する側の面白味も失われる、と主張しているも同然なのだ。

では、パ・リーグでプレーしてきた野球人の目に、セ・リーグならではの投手起用、継投策はどう映っているのか。そこで、鹿取氏とも同時代に西武の遊撃手としてプレーし、のちに西武監督を務めた田辺徳雄氏に話を聞く。セ・パ交流戦ではDHなしで戦うケースがあるわけだが、どう対処していたのだろう。

「やっぱり、ピッチャーが打順に入っている時の交代のタイミングは難しいですね。自分はパ・リーグで長くやっていただけに、けっこう悩みどころでした。イニングの前に、いろんなシチュエーションを考えながら入るしかなかったです」

田辺氏は実感を込めて振り返ってくれた。たとえば、主力の先発投手が1点もしくは2点ビハインドで迎えた試合中盤。DHが入っていれば、交代を考えることはあまりないだろう。しかしDHなしであれば、投手の打順で代打を送るか否か、決断を迫られる。

「そういう時は当然、"先発を降ろして代打"という頭でいるんですが、慣れていないと、先の先を考えることが多くなってしまうんです。いつも四苦八苦でしたよ」

交流戦は"短期"の戦いではあるが、ポストシーズンの短期決戦とは違う。スパッと代えるわけにはいかない時もあるから難しいという。続投か、交代か、決断は簡単ではない。そういう意味では、リリーフ投手を用意するブルペンのマネジメントも、普段とは変わってきそうだ。

「ブルペンについては、セ・リーグでは当たり前に行なっているような準備が、パ・リーグではそうじゃない、ということもあったかと思います。その点では、リリーフのピッチャーがストレスを感じるところはあったでしょうね」

ストレスは負担を意味する。実際問題、DHなしの交流戦、パ・リーグのブルペンの投手たちにはどのようなストレスがかかるのか。ここで、現役時代はロッテのエースとして活躍し、引退後に日本ハムの投手コーチを務めた黒木知宏氏に話を聞く。

「僕がコーチだった時、DHなしの交流戦でいちばん感じたのは、セ・リーグの野球は打順も点差も考えなきゃいけない、ということです。たとえば、主力ピッチャーが先発だったら、ビハインドでも頑張らせて投げさせます。その時、味方に点数が入ったら代えるか代えないか、という判断を逐一やらなきゃいけないんです」

ビハインドの場合、先発が続投するか否かで用意するピッチャーが変わる。あるいは先発が降板したあと、点数が入る、入らない、どちらかによって、肩をつくる人数も変わってくる。結局、ブルペンの全投手が1回は肩をつくるケースが増え、つくっても登板機会がなくなる投手もいる。セ・リーグの場合、その蓄積が投手の負担になっているのでは、と黒木氏は指摘する。

「ベンチとのやり取り、点差、先発の状態を見ながら......と考えていくと、野球がすごく深くなっていって大変な作業をしなきゃいけないというのがセ・リーグです。その点、パ・リーグはそれがない。イニングの頭に交代するか、先発が弱ってきているから誰を差し込むかを考えればいいだけなので。ブルペンの運営の仕方も、ピッチャーに負担をかけない」

DH制によって投手の負担が軽減されるというのは、とくにリリーフ投手に当てはまることなのかもしれない。シーズンが終盤になるにつれて、セ・リーグのリリーフ投手たちのほうが、疲労度が高まっていくのでは? と思えてくる。

「だから、使いたくても使えないから、昨年の巨人であったように、野手を投げさせたりもするわけですよ。でも、それはちゃんと準備しているわけです、チームを守るために。これは野球の違いなので、セ・リーグはそれでやらなきゃいけないということが決まっています。ただ俯瞰して見た時に、パ・リーグと比べてセ・リーグは大変だなと感じます」

登板は1イニング、あるいは打者1人だとしても、そのためにブルペンで何十球か投げる。マウンドに上がるための準備、その蓄積の違いが、「近年、セ・パの差となって少しずつ現れているのでは......」と黒木氏は考えている。

一方、コーチ経験も豊富な鹿取氏はどう見ているのだろう。リリーフ投手の負担に差はあるのだろうか。

「僕はそれほど負担の違いはないと思う。ストレスがかかるのはリリーフの宿命だから。ただ、負担があると考えるのなら、コーチがリリーフのローテーションを組めばいい。もちろん、すでにそういう方針で運営してきたチームはあるし、3連投はしないとか、何らかのルールをつくってあげればいいと思う」

では、もしもセ・リーグにDHが導入された場合、ブルペンのマネジメントが大きく変わることはあるのだろうか。

「変わるでしょう。ただ、急には変わらないと思うし、パ・リーグのように先発を引っ張らないと思う。3回で5点取られたら、監督は代えたくなりますよ。なぜなら、打線に力がないから。DHでちゃんと打てるバッターが用意されていないので、逆転できるだけの力がないということ。50年近くDH制を続けてきたパ・リーグと同じことを、すぐにはできないと思う」

セ・リーグの野球は、70年あまり変わらずに続いてきた。新しい制度が定着するまでにはかなりの時間がかかりそうだ。今後何十年も、セ・パの差はついたままなのだろうか。

「そこはパ・リーグの実績があるだけに、真似することはできる。パ・リーグが先にやっていることはすべてできるはずなので、早い段階で差が埋まる可能性はあると思います」

DH制導入によって、投手の負担が軽減される可能性は見えた。そして導入を決めたならば、セ・リーグはパ・リーグから数多く学ぶ必要がある。

高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

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