元テレ東名物P・佐久間宣行、退社の真意を明かす 「管理職になるタイミングだった」

元テレ東名物P・佐久間宣行、退社の真意を明かす 「管理職になるタイミングだった」

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  • 更新日:2021/04/08
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佐久間宣行(さくま・のぶゆき)/1975年、福島県生まれ。99年、テレビ東京入社。「ゴッドタン」「あちこちオードリー」といった人気番組を手掛ける。3月に退社しフリーに(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)

斬新な発想を武器に、我が道を行く。そんな“テレ東らしさ”を体現してきたプロデューサー・佐久間宣行さんが3月末日をもって同局を退社。AERA 2021年4月12日号で現在の胸中を語った。

【写真】佐久間さんが手掛けた人気番組はこちら

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――<テレ東名物P佐久間氏 3月退社>

3月1日、「ゴッドタン」や「あちこちオードリー」など、テレビ東京の人気番組を手掛ける名物プロデューサー・佐久間宣行(45)の退社が報じられた。ヤフートピックスにも取り上げられたそのニュースは、瞬く間にSNS上を駆け巡った。

いや、あれはちょっと信じられなかったです。ただサラリーマンが会社を辞めるってだけの話ですからね(笑)。

■出世で現場が遠くなる

辞めることを決断した理由は二つあります。ここ数年、外部からお仕事のオファーをたくさんいただくようになったんですが、テレビ東京には「自社の番組に直結しないコンテンツは作ってはいけない」というルールがあり、お断りした案件がたくさんあったんですね。もちろん、ダメという会社の言い分も理解できるので、ではどうしていこうか?と1年ほど前から会社と話し合ってきました。

もう一つは、ちょうど管理職になるタイミングだったこと。会社のラインに乗って出世すると、当然ながら自分のことだけに時間を使えなくなります。部下の番組のクオリティーやコンプライアンスをチェックする仕事に追われ、収録現場に行くことさえできなくなってしまう。

それで自分のなかで出した結論が「フリーの立場で、今後も担当番組の演出をやらせてもらいたい」というものでした。会社組織から出て行く人間がそのまま番組を継続することが周りにどう影響するのか心配だったんですが、会長からも「佐久間が続けて担当したほうがテレビ東京にメリットあるしね」と言っていただけて。すごくありがたかったですね。

――佐久間は2年前、会社員でありながらラジオ番組「オールナイトニッポン0」のパーソナリティーに抜擢され、現在も毎週水曜深夜にレギュラー出演中だ。他の曜日にファーストサマーウイカやCreepy Nutsといった旬の面々が居並ぶなか、まったく引けを取らないほど絶大な支持を集めている。今年1月に開催された配信イベントの視聴チケットは、1万7千枚以上の売り上げを記録。佐久間の活動はすでにテレビマンの枠に収まるものではなくなっていた。

たまたま僕はテレビ局員としては変わったキャリアを歩んできたと思います。「ゴッドタン」の企画でいえば、芸人さんが自作した歌を本気で披露する「マジ歌選手権」のライブを武道館で開催してみたり、文字通りキスを我慢するだけの企画「キス我慢選手権」の劇場版を撮ったり。「ウレロ☆」というシチュエーションコメディーのシリーズでは、舞台版の演出もしました。あとは、子ども番組の「ピラメキーノ」から生まれたオンナラブリーというユニットのCDを出して20万枚以上のセールスを記録したこともありましたね。

■決断の真意が伝わる

近しい間柄の芸人たちからは、退社を報告した際にこんな言葉を掛けられたという。

みなさん驚きつつも、「うちらの番組は担当するんでしょ?」「テレビ東京以外の仕事もお願いします」みたいな感じでした。辞めることをイジられはするけど、「辞めなきゃよかったのに」とは誰からも言われなくて。今まで通り現場に居続けるためにこの決断をしたことが、ちゃんと伝わったんだろうなと思っています。印象に残っている言葉は、劇団ひとりの「これでやっと色々できるね」。映画を撮るとか、ストーリーのある仕事をしていったほうがいいと数年前から彼は言ってくれていたんです。

――22年間所属したテレビ東京を離れた今、改めて思う“テレ東らしさ”とは?

もともと最下位の局なので、多少の失敗は許される。あとは予算がない分、企画が他局と被ったら負けるという意識。この「失敗に寛容」と「企画のオリジナリティー」がテレビ東京のクリエーティブのDNAでしょうね。ただ、これは30代後半より上の世代にとっての話かもしれない。今の若い世代の作り手にとっての“テレ東らしさ”は、「モヤモヤさまぁ~ず2」や「ゴッドタン」のような、音楽でいうとインディーズとメジャーの間にあるものじゃないかな。独自に作った曲がたまにヒットチャートに入ってくる、みたいな(笑)。

僕らの頃は今とは違って、もっと殺伐としていました。とにかく予算がなく、企画を通そうにも営業枠とアニメ枠でほとんど埋まっている。自社の制作枠なんて数枠しかない。ましてやお笑い番組は皆無でした。タレントのブッキングの仕方もわからなかったし、事務所の人もテレビ東京のことなんて誰も知らない状態でしたから。

■各局の番組配信サイト

――かつて在京キー局の“番外地”と言われたテレビ東京で、バラエティー分野をゼロから開拓してきた佐久間は、現在のテレビの苦境の原因をこう分析する。

テレビ全体が厳しい状況に陥っている一番大きな原因は、各局がそれぞれの番組配信サイトを持ったことだと思います。ユーザーの可処分時間を動画コンテンツとテレビが取り合うなか、早い段階で各局が連帯できなかったために、ユーザーにとって「テレビ=不便なもの」になってしまった。コンテンツを作る力、とくにドラマとバラエティーに関しては、テレビは今なお高い能力を持っていますが、各局が足並みを揃(そろ)えられなかったことで影響力を失ってしまったのかな、と。

――佐久間にとってテレビ東京での最後の1年は、コロナ禍での最初の1年でもあった。多くの番組が総集編や過去回を放送していた時期に、佐久間の番組では感染対策を徹底しながらいち早く通常に近い形での放送を再開した。

つくづく感じたのは、エンターテインメント、とくに笑いというものは、本当に社会がどん底に沈んだ時には役に立たないということ。どん底では食べ物やインフラ、医療、政治のほうが絶対に大事。だけど、それだけでは人は生きていけないんで。その立ち上がるタイミング、一歩踏み出さなければいけない時に、笑いが力になる。そういう意識で準備していました。

新型コロナではみんなが等しく日常を奪われたから、変わらない笑いとか、変わらない日常を取り戻させてくれるようなものを届けたかったんです。で、そこから半年、1年が経ち、新型コロナが収束しないままいろんな問題も噴出している時期には、変わらないものだけではなく、変わった価値観もちゃんと反映した笑いというものも必要になってくると思う。今はちょうどその過渡期ですね。

■全部塗り替える新芸人

たまに、お笑いの決定的な新世代って何なんだろうなと考える時があって。霜降り明星とか第7世代も含めて、今の芸人さんはみんなちょっと懐かしい部分も持っていて、だからこそ売れているんだろうと思うんです。でも、少しも懐かしさがなく、全部を塗り替えるような新しい芸人さんが出てきてほしい気持ちもあります。売れ方も、賞レース以外にもっと色々あっていいと思う。

――そこに風穴を開ける準備も着々と進行中だ。

今後はテレ東の担当番組と並行して、アプリや動画配信サービスで新しい形のお笑い番組を作りたいと思っていて、具体的に話を進めているところです。イベントや舞台の演出もやりたいと思っています。

失敗もすると思うんですけど、僕の信条として、「数字がいい時に偉ぶらないから、数字が悪い時に怒らないでね」というのがあって(笑)。ぜひ温かい目で見守っていただけたらうれしいです。(文中敬称略)

(構成/編集部・藤井直樹)

※AERA 2021年4月12日号より抜粋

藤井直樹

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