ホントに「グルテンアレルギー」?  専門医も警鐘、誤解だらけの“遅延型アレルギー検査”

ホントに「グルテンアレルギー」? 専門医も警鐘、誤解だらけの“遅延型アレルギー検査”

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  • 更新日:2021/10/14
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※写真はイメージです(GettyImages)

エビ・カニ、小麦──。なにがしかの食物アレルギーに、心当たりがある現代人は多いはずだ。けれど、その検査法を正しく理解しているだろうか? AERA 2021年10月18日号から。

【データ】さまざまな自覚症状のある男女5人で、IgE抗体検査を受けてみた結果は…?*  *  *

外食がめっきり減ったのは、コロナ禍のせいではない。「グルテンフリー」のせいだ。

大阪在住の40代夫婦はともに大阪育ちで、無類の「粉モノ」好きだった。中学生の娘を含む家族3人で、たびたびお好み焼き店めぐりをしていた。

だが、2年ほど前、妻が「遅延型食物アレルギー検査」の話を聞いてきた。友人がその検査で小麦などの穀物に含まれるタンパク質「グルテン」に陽性が出て、グルテンフリー生活を始めた。すると、「痩せて体調も良くなった」という。

その言葉に触発され、妻もその検査を受けると、グルテンに陽性が出た。小麦を控えてみたところ、疲れにくく、睡眠の質が向上したように感じた。そこで、家族全員の食事もグルテンフリーに切り替えたのだ。

小麦を含む食品は多い。当初はパンやパスタを避ける程度だったが、だんだん徹底してきた。外食は避けて自宅での食事ばかりになり、とんかつやムニエル、シチューやカレーのルウ、醤油など調味料まで、グルテンフリーを徹底して貫くようになった。

今ではお好み焼きも米粉使用だ。やっぱり「粉モノ」が恋しいし、地味にお金もかかる。「何より、子どもの栄養や食育が心配」と夫は言う。

あの時受けた検査で妻は、リンゴやモモ、キウイなどの果物にも陽性反応が出ていた。

「いつ果物もやめようと言い出すのでは、と戦々恐々としています」(夫)

■よく食べるものが陽性

食物アレルギーとは、ある特定の食物を口にしたり触れたり吸い込んだりした時に、それらに含まれるタンパク質に「免疫」が過剰に反応、体にさまざまな症状が起こる疾患のことだ。

摂取後すぐ、遅くとも2時間以内に症状が出る「即時型」と、数時間以上経ってから症状が出る「遅発型」がある。食物アレルギーの大半は即時型で、一般に食物アレルギーというと、即時型を指す。9割の人に蕁麻疹(じんましん)やかゆみなど皮膚症状が見られるほか、ゼイゼイした呼吸(喘鳴)や咳、腹痛、下痢、嘔吐、充血やまぶたの腫れなどが典型的だ。

では、冒頭の男性の妻が受けたアレルギー検査の「遅延型」とは一体なにか?

「“遅延型”という食物アレルギーはありません」

小児アレルギー領域を専門とする国立病院機構相模原病院臨床研究センターの佐藤さくら医師は、こう否定する。

通常、食物アレルギーは、即時型も非即時型も採血でIgE抗体の値を測定する特異的IgE抗体検査(以下、IgE抗体検査)で調べる。

だが、「遅延型食物アレルギー検査」はIgG抗体の値を調べる。前者は健康保険適用だが、IgG抗体は非適用の自由診療で、200項目近い内容で5万円前後の価格設定が多い。

IgG抗体は、食べ物の摂取量に比例しているので、よく食べる食品は数値が高くなる。つまり、食物アレルギーのない人にも存在し、全く症状がなくても高確率で陽性になってしまう。

「IgG抗体検査で原因食品は診断できず、この結果で食べ物を除去すると食物アレルギーの原因ではない食べ物まで除去することとなり、健康被害を招く恐れがあります」(佐藤医師)

グルテンに異常な免疫反応が生じるセリアック病や、IgE抗体検査や食物経口負荷試験で確認された小麦アレルギーなど、グルテンフリーが必要な人もいる。だが、例えば、セリアック病は北欧系に見られる遺伝性の病気だ。日本の患者数は諸説あるものの、人口の0.05%程度に過ぎない。

■IgE抗体検査が指標

昭和大学医学部教授の今井孝成医師もこう指摘する。

「IgG抗体検査の結果や自己判断でグルテンフリーを行うのは、成人が嗜好でやるならかまいませんが、広めるのは賛成しかねます。成長期の子どもにやらせるのはもってのほかです」

ネットで遅延型食物アレルギーを検索すると、この検査を行う医療機関が多数ヒットする。「食べて数時間~数日経ってから症状が表れる」「気づきにくい」「さまざまな不調の原因」といった説明が並ぶ。子どもの発達障害や不妊に関わるかもしれないという医療機関まである。

米国や欧州のアレルギー学会をはじめ、日本小児アレルギー学会では、IgG抗体の食物アレルギーへの診断的有用性を公式に否定している。日本アレルギー学会も「診断法として推奨しない」と学会ホームページに明示している。

さて、食物アレルギーが疑われる場合は、問診と前述のIgE抗体検査で診断する。

IgE抗体検査には、疑いが強いアレルギーの原因物質を自由に選んで定量的に検査する方法(保険適用でできる項目は13項目まで)と、決まったアレルギー物質が数十個のパッケージになっていて半定量的に検査する方法がある。

「IgE抗体検査でもアレルギー症状の原因ではないものまで陽性と出る可能性がよくあり、パッケージ型での検査は、大まかな方向性を知るのには役立つかもしれません。しかし、正確に調べたいなら、問診で医師が必要と判断したものを選んで調べる定量性の高い検査がおすすめです。いずれも、検査で陽性=原因物質というわけではないことを理解しておくことが大切です」(今井医師)

そして、IgE抗体検査もあくまで入り口に過ぎず、確定診断の根拠とはならない。

「原因と疑う食物で明らかな全身症状などが起こる上に、IgE抗体検査が陽性」といった場合を除き、アレルギーが疑われる食べ物を実際に食べて症状を観察する「食物経口負荷試験」を経て、原因物質を確定することになる。経口負荷試験は9歳未満、1年に2回までが保険適用だ。だが、実施する医療機関は限られ、小児ですら受けられていないケースが多い。保険適用とならない成人の食物アレルギーにはほぼ行われていないのが実情だ。

「小児で食物経口負荷試験を受けられない、または成人で食物アレルギーを疑うという場合は、IgE抗体検査の結果から、制限や除去すべき食べ物を指導してくれる医師を受診するといいでしょう」(今井医師)

食物アレルギーを含めて、自分にどんなアレルギーや傾向があるかは非常に気になる。

AERA編集部では、花粉症があったり、ある種の食物アレルギーを疑っていたり、カニやエビがダメだったり、といったさまざまな自覚症状のある男女5人で、まずはパッケージ型のIgE抗体検査を受けてみた。

皮膚科専門医で日本大学医学部附属板橋病院の葉山惟大医師もやはり、「ある程度のあたりはつけられるが、定量的な検査や問診をしないとわからない」と前置きしたうえで、データから類推できることを解説してくれた。

5人中4人が「ハウスダスト」「ダニ」で陽性だが、4人はそれぞれ自覚症状があった。葉山医師は、「都会に住んでいる人にありがちな検査結果」という。

「日本人の約4割が、ハウスダストに陽性になります。が、5や6といった数値は高いですね」

ハウスダストや、犬や猫のフケには、空気清浄機が有効なこともある。

葉山医師は、6だった男性(44)についてこう指摘した。男性はアトピー性皮膚炎がある。

「アトピー性皮膚炎があると、全体的にIgEの値が高く出る傾向があり、疑陽性の場合もあります。おそらくハウスダストとダニは『本物』でしょう。マラセチア(カビ)も高いので、汗によるアレルギーが出やすいかもしれません。まずは皮膚炎の治療を優先するのがよいと思います。他の方も気になることがあれば、アレルギー科を受診してください」

(ライター・羽根田真智、編集部・小長光哲郎、井上有紀子)

※AERA 2021年10月18日号より抜粋

羽根田真智,小長光哲郎,井上有紀子

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