新型WRX開発者の顔が「ほっこりしていた」わけ

新型WRX開発者の顔が「ほっこりしていた」わけ

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2021/11/25
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袖ヶ浦フォレストレースウェイで「WRX S4」を試乗した(写真:SUBARU)

2021年後半に日本に導入されるスバル「WRX S4」を、ユーザーの手に届く前にサーキットで思う存分走らせる機会を得た。当然のことながら、モノとしては秀作であった。

長らく改良を加えてきた旧世代の車体から、SGP(スバルグローバルプラットフォーム)へと刷新。パワートレインは、アメリカ市場で熟成されてきた2.4リッター水平対向エンジンをベースとして変速機などに新しい技術が盛り込まれ、さらにアメリカ向けのSTIコンプリートカー「S209」用を応用したダンロップとの共同開発タイヤを採用する。

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走る前にスペックを見ただけでも、走りの良さは十分に予想できたし、実際に走らせてみれば、そうした“走りの革命”のインパクトは大きなものだった。

しかし、それ以上に試乗現場で強く印象に残ったのが、新型WRX S4の開発に携わったエンジニアやデザイナーの皆さんの“ほっこりした表情”だった。

その裏には、“やり遂げた”という清々しさと、次世代スバル車の開発に向けて“どこを目指すべきなのか、ゆっくり考えてみたい”という思いが重なり合っているように感じた。

まずは、新型WRX S4の走りについて詳しく紹介する。

「GT-H EX」「STI Sport R」の2モデル

舞台は、袖ケ浦フォレストレースウェイ(千葉県袖ケ浦市)。筆者にとっては今回の試乗の数カ月前に、新型「BRZ」とトヨタ「GR86」を豪雨の中で比較した場所である。

この日の空は厚い雲に覆われていたが、路面はドライで気温は24度だった。

試乗車は、WRX S4が「GT-H EX」と「STI Sport R EX」という2台と、「レヴォーグ」に追加された「STI Sport R EX」。

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新型「WRX S4」(手前)のほか、比較試乗のために現行車(奥)も用意された(筆者撮影)

いずれもナンバー取得前だったため、プロトタイプという触れ込みだったが、実際には“ほぼ量産車”といえる状態だ。また、比較試乗用として、現行世代の「WRX S4 STI Sport」も用意されていた。

商品説明についてスバルから事前に提示された動画を見ていたが、試乗会場ではレヴォーグの開発責任者も兼務する、スバル商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャー(PGM)の五島賢(ごしまさとし)氏が、全体ブリーフィングの際、新型WRX S4開発に向けての熱い思いを語ってくれた。

レヴォーグと同様、「お客様の心の導火線に火をつける」という決め台詞をベースに、30年の歴史を継承するWRXにレヴォーグでの「超・革新」を融合。ついには「極・革新」なる新たな五島語(ごしまご)が披露された。

さらには「CVT(変速装置:リニアトロニック)の逆襲」という触れ込みが加わり、こちらとしても走る前からワクワク感が高まった。

まずは、WRX S4 GT-H EXに乗った。

サスペンションもエンジンもすべてが“綺麗”

ピットロードを出て、第1コーナーですぐに「これは相当違うな」という印象を持つ。なにせ、コーナーにスッと入り、キリっと旋回し、さらにすっきりコーナーを出る。走り味がとても“綺麗”なのだ。

レヴォーグも、現行型となる2代目は初代に対してコーナーの旋回性が高まっているが、新型WRX S4は2代目レヴォーグに比べて、“より綺麗に曲がる”のである。

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コーナリングで”綺麗さ”が光る(写真:SUBARU)

試乗後、エンジニアに話を聞くと、「100種類以上のサスセッティングを試し、新型WRXの資質を素直に表現することを追求した」と開発の経緯を振り返ってくれた。

“綺麗な走り”はパワートレインでも感じられる。水平対向4気筒エンジンは、排気量が2.0リッターの「FA20型」から、2.4リッター化した「FA24型」となった。

最大出力は300psから275ps、最大トルクは400Nmから375Nmへと若干減少しているが、ターボチャージャーの各種電子制御によって、アクセルON時の吹け上がりが遅れる、いわゆるターボラグが解消されている。

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STIオプション装着車の2.4リッター水平対向エンジン(写真:筆者撮影)

適宜にシフトアップ/ダウンする「CVTの逆襲」も、たしかに凄かった。技術的な詳細についてはスバルのホームページを参照いただくとして、「CVTの逆襲」は体感としては“鋭い”というより、車体やサスペンションと同じく“綺麗”であり、そこに“心地よさ”が加わるのだ。

次に、レヴォーグ STI Sport R EXに乗った。通常モデルの1.8リッターに対して、WRX S4と同様の2.4リッターエンジンを搭載したモデルだ。

第1印象は、WRX S4 GT-H EXと比べて、フロントタイヤからドライバーへのフィードバックが少し強い。

コーナーではレヴォーグらしくよく曲がるのだが、ドライブモードによる「キャラ変」が通常レヴォーグと比べると、豪快さの演出度合いという観点で強く感じる。

また、通常モデルよりもパワフルになったことで、セダンとハッチバックによる車体本来のリア剛性の差を明確に感じるのでないかと思う。

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新たに追加される「レヴォーグ STI Sport R EX」(写真:SUBARU)

3台目は、WRX STI Sport R EXだ。先に乗った2台を参考として、走りの方向性が“かなり読めていた”ので、1周目でドライブモードセレクトをもっともスポーティーな「S#」にして、ハイペースでコース全域を攻めてみた。

ベースにあるのはGT-H EXと同じ“綺麗さ”なのだが、そこに“適度に楽しめる豪快さ”が顔をのぞかせる。“適度”と感じたのは、鋭意開発中の新型WRX STIとの差別化を考慮していることが間違いないからだ。つまり、STI用に“もっと上にとってある領域”があるということである。

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さらにスポーティーな「WRX STI Sport R EX」(写真:SUBARU)

最後に先代WRX S4 STI Sportsに乗ると、新型と比べてたしかにドライバー操作とクルマの動きにタイムラグを感じたが、これはこれで“先読みしながら操る楽しさ”であり、新型に対して“パフォーマンスが劣る”という表現は当てはまらないと思った。

「ほっこりした顔」の背景にある自信

試乗後の意見交換では、デザイナーはスバルファンの間で賛否両論ある、ボディのタイヤハウスに施したスポーツサイドガーニッシュに関する質問を想定していたようで、実際の部材をテーブルの上に置き、空気の剥離を抑制する表面処理や、フロントエアアウトレット等による走りに直結する空力効果を力説した。

また、エクステリアデザインは、2017年の東京モーターショーに出展した「VIZIV PERFORMANCE CONCEPT」が「カッコいい」と評判となり、そのアグレッシブさをできるだけそのままユーザーに届けるべく作り上げたと説明された。デザイナーとして、“やれることはすべてやった”と語る。

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「VIZIV PERFORMANCE CONCEPT」(写真:SUBARU)

インテリアについては、車体やパワートレイン等を共有するレヴォーグとの共通性が多い。しかし、筆者は「今、私はWRX S4に乗っている、という世界観が車内で優先して、レヴォーグに似ているといったネガティブなイメージはない」との感想を持ち、デザイナーに伝えたところ、大きく頷いていた。

車両開発統括部のエンジニアは、「CVTの逆襲」のためのハードウェアの新設や改良、そしてエンジンとの制御マッチングについて、「人の感じる気持ちよさを徹底的につきつめた」として自信に満ちた表情を見せた。

そのほか、STI商品開発部関係者からは、オプション設定の各種パーツを目の前にして、“よりアグレッシブな見た目”と“よりしなやかな走り”への実現を説明してくれた。

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「レヴォーグ」の開発も手掛けた商品企画本部の五島賢氏。東京オリンピックの聖火ランナーも務めた(筆者撮影)

WRXというクルマは、クルマの作り手として“ユーザーの顔が見える商品”であり、同時に“極めたい方向性が立てやすい商品”でもあるため、クルマ好き、そしてスバル好きでスバルに入社した開発者たちにとって、やりがいがある楽しい仕事だという共通認識がある。

一方で、“これからのスバル”について話を向けると「これからはいろいろ大変だ」という声が多いのだが、「なにが」「いつから」「どう大変か」という点では、まだ意識の統一には至っていない印象がある。

盤石の今こそ“これからのスバル”を描け!

2022年にトヨタと共同開発車であるEVの「ソルテラ」が市場導入されるとしても、EV化されたWRXの姿や、アイサイトXがさらに進化した完全自動運転のスバル車の姿を、今回のWRX S4開発関係者が描ける状況ではない。彼らの言葉を聞きながら、そう感じた。

ただし、見方を180度変えると、EVシフトや完全自動運転などを進めるほかの日系メーカーと比べ、スバルはモデル数が少なく商品性が尖っているため、メーカーとユーザーがブランド価値を共有しやすい環境にあるといえる。

商品としても、今回のS4を皮切りとする新型WRXによって、全モデルがスバルグローバルプラットフォーム採用の同じ世代となり、エクステリアデザインもSUV系、セダン系、ワゴン系、そして2ドアスポーツ系でスバルの新世代観を共有するステージに立った。

スバルの歴史上、商品ラインナップとしても、またブランド戦略としても、これほど充実した時期は過去になかったと思う。このように、スバルとしての足元がしっかり固まった今だからこそ、社員が一丸となって“これからのスバル”について真剣な議論ができるはずだ。大いなる期待を持って、これからのスバルを見守っていきたい。

(桃田 健史:ジャーナリスト)

桃田 健史

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