巨象・日立製作所の「1兆円買収」は、過去の大失敗の「二の舞」になる...のか? 現状と課題

巨象・日立製作所の「1兆円買収」は、過去の大失敗の「二の舞」になる...のか? 現状と課題

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/07
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日立製作所が約1兆円を投じて、米国のソフトウェア企業を買収する。同社には「選択と集中」を掲げ、大型買収を行ったものの失敗に終わった過去がある。今回の買収についても、金額の高さを指摘する声が出ており、同社の株価は下落している。しかしながら、今回の「選択と集中」については、方向性自体に間違いはない。最大の課題は、このソフトウェア技術をいかに自社の顧客基盤につなげられるかという実務戦略だろう。

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〔PHOTO〕Gettyimages

どんな企業を買うのか

日立製作所は2021年3月31日、米国のソフトウェア企業グローバルロジックを96億ドル(負債返済込み)で買収すると発表した。同社は米国シリコンバレー(カリフォルニア州サンノゼ)に本社を構える2000年創業の新興企業で、企業のデジタル化を支援するソフトウェア技術に強みを持つ。現場に設置した各種センサーからデータを集め、AI(人工知能)で処理して最適なオペレーションを実現したり、経営陣に有益な情報を提供するといったソリューション(解決策)を提供できる。

近年、AIやIoT(モノのインターネット)など技術革新が進んだことから、あらゆる部品をリアルタイムでネット接続する環境が容易に構築できるようになった。このため製造業の分野においても、単に製品を顧客に納入するだけという従来型ビジネスから脱却し、納入した製品からデータを収集し、AIを使って分析を行ったり、場合によっては顧客企業のオペレーションを請け負うといったサービス業に近い形態へのシフトが進んでいる。

この動きは、製造業の概念を一変させるインパクトを持っており、当該分野で先行できた企業は、新時代のリーダーになれる一方、出遅れた企業は厳しい環境に追い込まれる可能性が高い。製造業のAI化については、独シーメンスなど欧米企業が先行しており、日本勢は完全に出遅れていた。その中で唯一日立だけが、本格的な取り組みを行っており、日本メーカーの中ではかなり先行している。

同社は、産業のデジタル化を前提に、(1)情報システム、(2)エネルギー、(3)産業インフラ、(4)エレベータ、(5)自動車、という5分野への「選択と集中」を進めている。いずれの分野においても、企業のデジタル化を支援するためには、製品を納入するだけにとどまらず、センサーを用いた情報収集やソフトウェアによる分析、メンテナンス支援など各種サービスを組み合わせることが重要であり、そのためには強固なソフトウェア基盤が必要となる。

大型買収に失敗した過去

理想を言えば、こうしたソフトウェア基盤は、すべて自社で開発するか、もしくはスタートアップ段階でベンチャー企業に出資するのが望ましかったが、自社開発にもベンチャー投資にも固有のリスクやノウハウがあり、日本メーカーはあまり得意としてこなかった。

一方、グローバルロジックは、新興企業とは言え、すでに世界14カ国に展開しており(2021年の売上高は1300億円になる見込み)、当該分野において十分な実績を持つ。つまり、日立はすでに実績のある企業を買収し、自社のプラットフォームに取り込むという現実的な選択を行ったわけだが、買収価格については高すぎるのとの声も聞こえてくる。

確かに1兆円の金額は絶対値として高く、良好な財務基盤を持つ日立でも、財務体質の悪化が懸念される。また日立については、以前、「選択と集中」を掲げ大型買収を実施したものの、事実上、失敗に終わったという過去があり、これも懸念材料の一つだ。

同社は2003年に約20億5000万ドルを投じて米IBMのHDD(ハードディスクドライブ)部門を買収した。同社にとって最大の買収案件だったが、同部門は5期連続の営業赤字に陥るなど苦戦が続き、結局は、2011年に米ウエスタン・デジタルに売却した。売却額は約43億ドルなので、見かけ上は利益が出たが、買収後の追加投資などを考えると、実質的には失敗と考えてよい。

前回の二の舞になるのではないかとの意見もあるだろうが、前回とは異なり、今回の「選択と集中」は、大きな方向性として間違っていない。

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〔PHOTO〕iStock

「選択と集中」は誤りなのか

当時の日立は、今と同じように「選択と集中」を掲げており、2003年に発表した中期経営計画では、ストレージ(ハードディスクなど)、バイオメディカル、都市再生事業を注力事業としていた。IBMのHDD部門買収はその目玉案件とされ、メディアも「日立の英断」「日本の技術が世界へ」といった形で、日立の戦略を絶賛していた。

世論は日立の思い切った戦略に酔いしれていたが、一方で市場の一部からは買収を不安視する声が出ていたのも事実である。ハードディスクは、1990年代までは高い付加価値を持つ製品だったが、2000年代は高度IT化社会へのシフトが進み、パソコンやサーバーはコモディティ化すると言われていた。実際、市場はその通りに展開し、ハードディスクはただの消耗品になってしまった。

もともとHDDはIBMが開発したものであり、2003年当時も主要技術のほとんどはIBMが握っている状況だった。HDDのビジネスを創業した会社が売却を決断したということは、将来の収益見通しが下がったことと表裏一体である。つまり当時の日立の選択と集中は、残念ながら誤った見通しに基づくものだったと言わざるを得ない。

日立の失敗から、国内では「選択と集中」は誤った戦略であるとの認識が広がったが、それは日本だけで通用するガラパゴスな概念である。

グローバル市場は、分野の細分化と高度化が進んでおり、いわゆる「何でも屋」が通用するような時代ではなくなっている。昭和から平成初期までは、総花的な事業展開が許された牧歌的な時代であり、その感覚を引きずっているビジネスパーソンも多いが、今の市場環境はまったく異なる。つまり、高いリスクを取ってでも、選択と集中を実施しなければ生き残れないほど、競争環境が激化しているのだ。

グローバル人材の確保が必要

日立もこうした状況はよく理解しているはずであり、それ故に製造業のAI化に向けて「選択と集中」を進めてきた。今回の「選択と集中」は、大きな流れとしては間違っておらず、基本戦略としては正しい。

今回、日立が抱えたリスクというのは、基本戦略を間違う、あるいは大きな方向性を見誤るといったことではなく、買収案件を現実の収益につなげられるのかという戦術的リスクといってよい。その意味では、今回の買収は金額こそ大きいが、HDDの買収案件と比較すればリスクのコントロールはしやすいだろう。

だからといって、今回の買収によって日立がすぐに当該分野で成長軌道に乗れるのかというとそうではない。同社にとって最大の課題は海外の顧客基盤の薄さである。

日立全体としての海外比率はまだ5割しかなく、重点分野のひとつであるITシステムについては7割が国内向けとなっている。今回、買収したグローバルロジックは海外に多くの顧客を持っているが、あくまで同社が持つ付加価値はソフトウェアの技術力であって、営業力や顧客基盤そのものではない。

日立としては、グローバルロジックが持つ技術を自社のインフラに確実に取り込むとともに、その技術を生かし、グローバルに通用するソリューションをできるだけ早く構築する必要がある。当然のことながら、この業界には、先行するシーメンスや、会社全体としては苦境に陥っているものの、やはり強い技術を持つ米GE(ゼネラル・エレクトリック)といった強豪がひしめいている。

こうした企業に打ち勝つためには、相当な営業力が必要であり、グローバルに通用する人材の確保も同時並行で進めていく必要があるだろう。

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