乗客が知らないタクシードライバーのスゴい営業術...優良運転手を見極めるコツ

乗客が知らないタクシードライバーのスゴい営業術...優良運転手を見極めるコツ

  • Business Journal
  • 更新日:2021/02/23
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「gettyimages」より

「収入が4割落ちた」「時給にしたら500円、コンビニより低い」――こんな嘆きも聞こえてくるタクシー業界。飲食店と並んで不景気の影響をもろに受ける職種だが、それでもトップドライバーは普通のドライバーよりも年収の落ち込み方が低い。

緊急事態宣言が延長されている今も、平均売り上げで1日6万円(税込み、平均月収40万円前後)以上をキープする東京都内のトップドライバーに、その仕事術を聞いてみた。

稼ぐドライバーが無線を意識する理由

「タクシーで客を乗せる方法って、『流し』と『付け待ち』に大別されるよね。ただ、3つ目として無線を意識するのはすごく大事だよ。小さな会社や地方だと、短い距離だとわかっている無線を誰も取らないときがあるでしょ。でもね、積極的に無線を取るほど、無線係が『無線を意識してる』と認識するので、ピンポン(無線室からの直接指名)が多くなる。迎車料金がある上、回数が増えるんだ」

回数が増える=実車率が高くなるため、売り上げも上昇する。一例を挙げれば、C駅からD病院に向かった帰り、空車でC駅に戻ることは多々あるが、その帰りにC駅まで行きたい客をピンポンしてもらえると、たとえワンメーターでも非常に助かるのだ。

東京では、大手4社(日本交通、大和自動車、帝都自動車、国際自動車)を中心に無線客を大事にする会社が多く、無線配車のドライバーの助手席を見ると、乗務員証の上に「優良」と記されているケースがある。

「5年間無事故無違反=(交通事故および道路交通法違反がない。一般のゴールド免許と同じ)が条件となるから、客に安心感を持たれるんだ」

バスタ新宿や東京駅八重洲口など、都内には優良運転手のみが入れる乗り場も存在する。優良ドライバーのほとんどはハコ型のジャパンタクシーに乗っており、富裕層やミドル客が好んで乗車する。急いでいない限り、クラウンを避けてジャパンタクシーを選ぶ客も増えており、そのジャパンタクシーに優先的に乗れるのが優良乗務員だ。

スリースターの特権と“オバケ客”とは

加えて、東京の大手4社には上級乗務員が存在する。日本交通では「スリースター」と称されるが、Aさんが以前勤めていた際のスリースターの条件を教えてくれた。

「スリースターは売り上げに対する歩合率が最高である半面、帰庫時間に1分たりとも遅れない、休憩を十分に取る、客からの苦情が皆無、などの条件がある。ただ、たまに帰庫時間に遅れても、上司と人間関係をつくっておけば大目に見てもらえるよ。俺は基本的に無線優先の仕事なので、無線優先権を使うんだ」

Aさんによると、次の条件をクリアすると無線優先権が与えられるという。

「月の無線了解率95%以上で、月70回(1出番平均6回)の無線を了解したら翌月に15回の優先権をもらえる。というのも、東京だと同じ会社(グループ込み)での“無線狙いライバル”が多いだろ。その中で優先的に配車してもらえるから乗車率も高まるんだ」

スリースターだったAさんはこの優先権を無限に使えていたが、「その代わり、富裕層の多い港区・中央区・千代田区の“中”で無線優先権を使うことが義務付けられていたね。乗客を降ろしたら、すぐに優先権を入れて中を目指すんだ」という。

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週に一度、夜10時に乗車するAさんの固定客が支払ったメーター料金。乗車時間1時間と非常に効率的である

無線客の中にはワンメーターもいれば万シュウ(1万円以上の乗車)もおり、たまにはとてつもない“オバケ”が潜んでいることもある。

「12月の早朝、無線を取ったところ、ある著名な経営者を栃木まで乗せたよ。誰もが知る御仁が早朝のゴルフに行ったんだ。彼は自分専用の乗り場をマンションにつくったと聞いたよ。あるいは病院経営者が密を避けて筑波や小田原まで帰るなど、驚くほどのロングもいるんだ。

また、ある日の昼すぎに、無線で乗せた上品な女性が『とりあえず帝国ホテルまで。着いたらちょっと待っててくださる?』と。30分ぐらい待ったら『ありがとう。今度は住所を入れてもらえる?』。指定されたのは山梨県大月市でね。なんでも大月の別荘に半年ほど愛犬を預けているらしく、週に1回、エサをあげに通っているんだって。メーターを見ると片道3万7000円で、30分待ったら『ありがとうね。帰りは世田谷までお願いします』。夜7時前に戻ってきたときの運賃は高速代込みで8万オーバーだったよ」

一発8万円の仕事も手にできる。確率こそ低いが、これぞ無線の醍醐味だ。

タッグを組む相方と行う「名刺営業」

Aさんは無線以外にも言及してくれた。

「ライバルの少ない付け待ちポイントを、地区ごとに1、2カ所頭に入れておくことかな。東京なら恵比寿や世田谷、あるいは佃大橋近辺の高級マンションだね。近くで降ろしたら、その近辺をゆっくり流すんだ。大事なのは、ミドルや長距離客の乗車タイミングを覚えておくこと。乗った場所だけでなく日時、曜日、時間まで頭に入れておきたいので、メモってるよ」と、小さな手帳を見せてくれた。

そこには乗車場所と日時、曜日、行き先、客の雰囲気が書かれていた。さらに「1万5000円以上のお客さんに渡すんだ」と、手帳の脇には手作りの名刺が挟まれていた。

「万客ならほとんど高速に乗ってくれるから、時間当たりの単価も上がる。そのためには、お客さんが気持ちよく乗ってくれるように空気を読むこと。会話の際も、決して自分の話をするのではなく、相手に沿うようにする。早く言えば、質問形式&聞き役だね。その反応で、会話が盛り上がるか否かを判断する。黙って乗りたい人も少なくないし、言うまでもなく、政治や宗教の話なんかNGだ。

都内で仕事をするなら、長距離のお客さんにダメ元で名刺を渡すのは大きなポイントだ。ただし、隔日勤務だと連絡が来る確率は半分だよね。そこで、相手を不快にさせない逆番の同僚とタッグを組むんだ」

Aさんは、自分が休みの日に同じジャパンタクシーに乗務する優良ドライバーのBさんとタッグを組んでいる。

「クレーム皆無で性格のいい逆番運転手と組めば、相手が来て欲しい日時に行けるだろ。タッグを組んだ相手も、俺にロングを回してくれるしね。ただし、一度でも断れば二度と電話はかかってこないから、相方と俺がともに休むことがないよう調整したり、同じ時間にダブった場合に頼める『第三運転手』もキープしてるよ。

ただ、運行管理者に事前に聞いておいた方がいい。というのも、会社によっては無線客に名刺を渡す個人営業を禁じている場合もあるからね。万が一何かあったら、その客は別の会社に行ってしまいかねないからね」

乗せる前に缶コーヒーと新聞を必ず用意

大事な長距離客には、会話以外にも気を配るポイントがあるという。

「ここ数日は寒さが続くから、指名してくれたロングを乗せる前に、目の前に温かい缶コーヒーとよく読む新聞を必ず置いておくよ。迎えに行く前にコンビニに寄り、良かったらどうぞ、とおすすめするんだ。

でもね、ワンメーターの客も大事にしないとダメだよ。あるとき、ワンメーターのおばあさんが『とてもいい運転手さんでした』と営業所にお礼の電話を入れてくれてね。それが上層部に伝わったのか、会社のお偉いさんが長距離客を接待しなければならないとき、あるいは上司が長距離を乗る際に指名してもらえるようになった。『Aなら間違いない』と言ってもらえるし、本当にありがたいよ」

最後に、Aさんはこう付け加えてくれた。

「タクシーは需給バランス=乗客数と出勤台数の比率が大事。それを感じることを忘れてはいけない。ダメだと思ったら早めにあきらめ、イケると感じたら少しだけ粘る。もちろん、相方の出勤時間を遅らせない程度にね」

(文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー)

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