米イラン、対話めぐり駆け引き激化、時間切れで抜き打ち核査察停止か

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  • 更新日:2021/02/22
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(AlessandroPhoto/gettyimages)

バイデン米政権のイラン核合意復帰をめぐって両国の駆け引きが一気に激化した。米側がイランと対話の用意があると発表したのに対し、イランは米国が制裁解除をしない限り、国際原子力機関(IAEA)の抜き打ち核査察を2月23日に停止するとの強行姿勢を変えていない。だが、イラン側はIAEAとの土壇場協議で、「3カ月間の執行猶予」に同意、対話再開へ含みを残した。

イラン懐柔シグナル

そもそも今回の事態は昨年12月、イラン国会が「2月21日までに制裁が解除されなければ、核濃縮活動の強化とIAEAによる核査察の制限を政府に義務付ける」法案を可決したことに遡る。イラン側は今年1月、ウラン濃縮度を核兵器級に近づける20%に高め、2月15日には核合意の検証措置である「抜き打ち査察」を23日に停止すると一方的に通告した。こうした一連の動きはすべて米国に制裁を解除させるための圧力だ。

沈黙を守っていたバイデン政権は18日になってやっと、イラン核合意の当事国による会合が開かれれば、米国も参加してイランと対話する用意があることを正式に発表。ブリンケン国務長官が合意当事国の英仏独3カ国外相と会談した。しかし、イラン高官は米国が制裁を解除する動きを示していないことを指摘し、通告通り23日に抜き打ち査察の受け入れを停止すると表明した。

抜き打ち査察が実施できなければ、核開発の全容を監視することは困難だ。このためIAEAのグロッシ事務局長が20日、急きょテヘラン入りし、サレヒ原子力庁長官と会談した。事務局長によると、会談の結果、23日の停止を翻意させることはできなかったが、「最大3カ月間、必要な確認作業を続ける取り決めに合意できた」という。

この取り決めの詳細は明らかではないが、抜き打ち査察停止の事実上の「執行猶予」と見られており、イランはこの間に米国との対話が制裁解除につながるよう協議を進めたい思惑のようだ。イラン側は当面、通常の査察については認め、査察官の追放なども行わない方針で、米側にボールを投げ返した形だ。

イラン側の立場は明解だ。「一方的に核合意を離脱し、制裁を課したのは米国(トランプ前政権)だ。だから合意に復帰するのなら、まずは制裁を解除するのが先決。濃縮度のアップなどの合意違反については制裁が解除されれば、是正する」というのが基本。

これに対し米国の立場は「最初の一歩はイランが合意を順守することだ。イランが合意を守れば、米国も同様の対応を取る」(ブリンケン国務長官)というもの。どちらが先に譲歩するかの突っ張り合いである。バイデン政権の真の狙いは単に元の合意に復帰することではない。イランによる①弾道ミサイルの開発の中止②シリアやレバノンなど地域の武装組織への援助停止―も盛り込んだより包括的な合意を目指している。

だが、イラン側にしてみれば、そうした枠組みは核合意とは全くの別物で、受け入れることは到底できまい。バイデン政権が今後、核合意を超えた包括的合意をあくまでも要求するのかは不明だが、イランとの対話の下地を整えるための懐柔シグナルをすでに送っていることは注目に値する。

コロナ対策で側面支援の妥協案も浮上

バイデン政権は「対イラン国連安保理制裁が“スナップバック”という仕組みにより、全面復活した」という前政権の一方的な主張を撤回する方針を明らかにし、さらにニューヨークのイラン国連代表部員に科してきた米国内の移動制限を緩和することもイラン側に伝えた。これらの措置はイランとの緊張激化を回避したいバイデン政権の意向を込めたものだ。

イラン側もこうした米国のシグナルに対し、経済の復興を最優先にするロウハニ大統領やザリフ外相が軟化姿勢を示唆しており、核合意当事者による多国間協議の場に米国が出席する形で対話を開始する可能性がある。欧州連合(EU)が現在、この方式での会合の開催を仲介しており、最初は「ゲスト」か「オブザーバー」資格で米国が参加することが検討されている。

米メディアなどによると、イラン側は「米国による制裁の解除」と「イランによる核合意違反の是正」を同時並行的かつ段階的に進めるやり方を検討している。バイデン政権は国内的に制裁解除に反対する強い圧力を受けており、この案に乗ることには消極的だ。そこで浮上しているのが制裁の解除に代わってイランのコロナ対策への側面支援だ。

イランは制裁で収入源の石油輸出が激減したため経済が悪化、インフレ、失業、通貨リアルの下落など苦境にあえいでいるのが現状だ。これに新型コロナウイルスのまん延が追い打ちを掛け、ロウハニ政権は国際通貨基金(IMF)に50憶ドルの融資を申し込んでいるとされる。バイデン政権は制裁を直ちに解除しない一方で、この融資に反対せず、実質的にイランを支援するという妥協案を検討しているようだ。

イラン大統領選挙を視野に攻防

米国との対話に向け、3か月間の猶予を与えた格好のイランだが、バイデン政権同様、ロウハニ政権も国内の保守強硬派から圧力を受けており、制裁解除の見返りが全くないまま米国の復帰を認めるわけにはいかないだろう。IMFの融資の承認だけでは保守強硬派は納得しない。米国の核合意会合出席を認めるための“大義名分”が必要だ。

両者の念頭にあるのは6月のイラン大統領選だ。今回は穏健派のロウハニ大統領の任期切れに伴う選挙となるが、米国との対話に失敗し、一部でも制裁解除が実現できなければ、保守強硬派の大統領が誕生する可能性が高い。昨年2月の議会選挙はイランの英雄ソレイマニ将軍が米国に暗殺された反発もあって保守強硬派が圧勝した。保守強硬派の大統領が生まれれば、反米色が強まって制裁解除は遠いてしまう。ロウハニ政権が恐れる事態だ。

バイデン政権にとっても強硬派大統領の誕生は悪夢でしかない。イランが核開発を進め、核武装するリスクが高まるからだ。イランが核武装すれば、適性国のイスラエルやサウジアラビアに対する脅威が増大、サウジなども核開発に走り、ペルシャ湾岸に核ドミノが起きかねない。こうしたことを避けるためには、最終的にイランの核施設を軍事攻撃する以外、選択肢がなくなってしまう。バイデン大統領にとっては絶対に回避したいシナリオだろう。

このように強硬派政権の誕生を阻止するという点ではロウハニ、バイデン両大統領の思惑は一致しており、両者の対話再開の可能性は小さくない。こうした中で、危険な臭いを醸し出しているのがイスラエルだ。ネタニヤフ首相は19日、「古い合意に戻ることはイランが核保有する道を開く」と米国の復帰に懸念を表明した。イスラエルはすでに、イランの核施設攻撃計画を策定したと伝えられており、展開次第では再び軍事的緊張が高まる恐れがある。

佐々木伸

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