日本企業の生き残りに必要な「MX」とは

日本企業の生き残りに必要な「MX」とは

  • JBpress
  • 更新日:2021/04/08
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※本コンテンツは、2021年2月25日に開催されたJBpress主催「ファイナンス・イノベーション2021」の特別講演「日本企業が生き残る為のDXの本質は、Management Transformation(MX)」の内容を採録したものです。

東京都立大学大学院 経営研究科 特任教授
デュポン株式会社 前取締役副社長
橋本 勝則 氏

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ミッション・ビジョン・コアバリューを再定義する

こんにちは、東京都立大学大学院の橋本です。本日は「日本企業が生き残るためのDXの本質は、Management Transformation(MX)」というテーマでお話しします。前半では、日本企業が生き残るためのMXに必要なミッション・ビジョン・コアバリューとリスクマネジメント、オフィスワーカーの生産性と品質の向上について。後半は、経理財務や経営企画の方の役割についてです。

DXの本質は「企業文化や固定観念を変革すること」にあり、今すぐデジタルに移行して企業文化を変革できないと敗者になる。経産省のレポートではそのように謳われています。この点について私は、経営企画・経理財務の方が活躍できるチャンスが来た、と捉えています。なぜならば、経営とITの仲を取り持つ存在が経営企画・経理財務だからです。

今の時代、ミッション・ビジョン・コアバリューが非常に重要な位置づけになっています。今までの日本社会は「本音と建前」や「阿吽の呼吸」を使ってきましたが、これらは現在の多様化した社会では通用しません。

ミッション・ビジョン・コアバリューを再定義し、社員一人ひとりの立ち振る舞いの矜持となるものをつくらなければなりません。また、これらは一度伝えて終わりではなく、根気よく伝えて浸透させる必要があります。

例えば、デュポンのコアバリューは「安全と健康」「最高の倫理行動」「人の尊重」「地球環境の保護」の4つです。デュポンは1802年創立ですが、コアバリューは210年以上変わらず、絶対に守るべきものであり続けています。この4つの観点から見て何かおかしいと感じたら、社員一人ひとりが立ち止まって誰かと相談し、決して無理はしないこと。これが世界中のデュポン社員の価値観や行動基準になっています。

続いて、リスクマネジメントについてです。デュポンでは「ビジネスリスク」「マーケットリスク」「クレジットリスク」「オペレーショナルリスク」の4つをリスク分類に位置づけ、これらのリスクマネジメントはコアバリューという土台の上で行っています。つまり、リスクマネジメントだけを用意しても、コアバリューという土台がぐらついていては機能しないということです。

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多くの日本企業がリスクマネジメントに取り組んでいますが、経験や感覚に頼った属人的、かつ網羅性に欠けるものだと感じます。組織の仕組みにリスクマネジメントを取り入れ、プランAがだめならプランB、そして最悪時のワーストケースシナリオを想定すること。絶えずこれらを考えていかないといけません。

リスクマネジメントとはチェックリストや組織を作るということではなく、業務の中で普通にやっていることをトータルで管理し、大中小の組織レベルや個人レベルで考えたり、鳥瞰的に見たり、細かく見たりすることが必要です。

絶えず変化するマインドセットを醸成せよ

オフィスワーカーの生産性、特にリモートワークにおける生産性向上については、「IT」「組織」「HR」という3つの観点が必要です。

まず「IT」ですが、会社がITにかけるコストはリモートワークのインフラやセキュリティの強化に使うべきでしょう。そして、個人のITリテラシーは、会社がコストをかけずに済むレベルまで上げる必要があります。

次に「組織」の観点。ここでは、リモートとオフィスのハイブリッド環境における業務分担や仕事のやり方の見直し、簡素化された組織の中での職務権限の明確化が必要です。そして、物理的なオフィスの大きさやロケーションなどを生産性向上のために見直すことが求められます。

最後に「HR」の観点。人の管理においては、DX・MX推進を先取りした人事制度の設計、そして日本人のチームワークの強さを維持しつつ、個人技も強い人材を育てることが課題になります。そして、これら3つの観点については「変化」ではなく「変革」を起こすことが必要です。

また、生産性には「業務プロセスの標準化」も重要です。ここで業務プロセスを精査する際には社外とのつながり、すなわちEnd-to-Endの部分を考慮することが必要になります。

こうした生産性の向上は、経営企画や経理財務の優秀な方々が「価値創造ワーク」にシフトするために必要な最低限のインフラです。「価値創造ワーク」とは、利益やキャッシュを生み出すための仕事を指します。直接的には売上高の増加やコスト削減、キャッシュフローや会社全体のコストの見直し、間接的にはコンプライアンスの啓蒙、経営リテラシーの向上などが挙げられます。

経営企画・経理財務の方は、直接的な商売からは少し距離があるかもしれません。しかし、ビジネスパーソンとしてのマインドセットは忘れないでください。そして、そのためにはキャッシュフローとリスクマネジメントの認識レベル向上が必要です。

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もちろん、一人で全てのことをできるわけではありません。チームという形での事業運営が必要になります。構成メンバーは、セールス、マーケティング、R&D、製造、技術にプラスして、事業部付の経理・財務(ビジネスCFO・FP&A)、人事、リーガル、IT。このあたりの方々が一緒になったチームを編成した上で事業運営を進めないと、現在の競争環境ではなかなか勝てないでしょう。

現状維持は衰退です。絶えず変化し続けるマインドセットを醸成してください。

経営企画と経理財務が融合した「コーポレートCFO」

ここからは、経営企画・経理財務の皆様の役割について話していきます。多くの日本企業では、社長の下に経営企画・経理財務の方々がいます。しかし、私は経営企画・事業管理と経理財務が融合した「コーポレートCFO」の下で、アカウンティングを担当するコントローラーと資金を担当する「トレジャラー」を立てること。そして、各事業部長の下に「ビジネスCFO」や「FP&A」がついて事業運営を一緒に行い、CFOとドットラインでつながっている組織図が理想だと考えています。

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経営企画や事業管理部門の方々は、将来予測を得意とする傾向があるものの、ファイナンス知識に自信を持っていることが少ない。一方、経理財務は過去の分析に長けていますが、未来志向や事業の実態に関する知識・情報に乏しい。だからこそ、お互いの強みを共有できれば良い組織になり、企業経営や事業運営に貢献できます。

実際のコーポレートCFOの話をします。CFOには2つの役割があります。

1つ目は、コーポレートオフィサーとしての役割です。CEOの右腕として、トップの考えいかに具現化し、事業戦略にまで落とし込むか。これが一番大きな役割でしょう。具体的には、リソース・アロケーションを行います。経営環境・経営理念に基づき、ヒト・モノ・カネをアロケートしていくこと。そして、地球規模の潮流としてのメガトレンドに沿って、超長期プランと超短期の四半期決算のコミットメントの両方を充足させ、キャッシュフローをベースにした事業ポートフォリオの見直しを行うことが重要になります。

対外的には、投資家やエクイティアナリスト、信用格付機関、金融機関とのコミュニケーションが求められます。他のコーポレートオフィサーとチームを編成した際にリーダーシップを取る役割、取締役会に対して説明する役割、コンプライアンスや内部統制とリスクマネジメントの確保といった守りの役割も重要です。

2つ目は、ファイナンス組織の長としてのものです。優秀な経理・財務の人材をファイナンスジョブファミリーとして育て、価値創造ワークに人々がシフトできる環境を整えます。競争力のある生産性を考えたシェアードセンターやBPOも考慮の余地があるでしょう。ビジネスパーソンとしてのマインドセット醸成も大切な事柄です。さらに、対外的にも通用する高い専門性も必要になります。

また、ビジネスCFOやFP&Aは「コーポレートCFOの事業部版」になります。事業部長のナンバー2として、また、コーポレートとのアライメントを取るつなぎ役を担う存在としても重要です。ビジネスにおけるファイナンスリテラシーを上げるためにも、製品別・顧客別損益分析、運転資金管理といった色々な見方を持っていることが求められます。

経営効率やリスク管理への貢献も必須

ここからはコントローラーシップ(会計)、トレジャリー(財務)、インターナルオーディット(内部監査)、タックス(税務)という経理財務の役割についてお話します。

まず初めに、コントローラーシップには「高い専門性」「高い遵法性」「高い生産性」の3つが求められます。まず「専門性」、これは会計士と会計原則で渡り合えるレベルの専門性を指します。「遵法性」は開示の部分、M&Aにおけるカーブアウトステートメントを迅速につくれるかどうかです。そして「生産性」は、会計ITエキスパートとして、IT環境の中で業務プロセスをつくれること。例えば、ERPの導入や社内会計処理の統一、コード体系の一元管理、プロセスの自動化・省力化などに取り組めることが挙げられます。

続いて、トレジャリーの役割には、資金調達・運用、外為、金利、コモディティ、保険といった財務リスクの管理があります。そして、キャッシュマネジメントも欠かせません。キャッシュは各社で管理をするよりも、グループ全体でひとまとめにして、専門性を持った人が管理するほうがよいでしょう。この方が会社にとってもメリットが大きいですし、効率的です。

したがって、事業部は運転資金の管理に特化し、トレジャリーがグループ全体の資金調達や運用、管理をする形が良いでしょう。また、お金を全社ベースでアロケーションすることで、稼いだ事業部から今後成長する事業部へお金を持って行くこと。これが経営の大きな役割だと言えます。

その他のトレジャリーの役割としては、年金関係や格付け機関への対応があります。また、ビジネスサポートとしてお客様やサプライヤーへのファイナンス、外為管理などもあります。

次に、インターナルオーディット。ここはぜひ、若手のエントリーポジションとして考えていただきたい部分です。デュポンの場合、若手がインターナルオーディットに入って業務プロセスを学び、事業部を知った上で次のポジションへと移っていきました。リスクベースの監査計画をし、それに基づいたプリベンティブ(予防的)な監査体制が必要です。

最後はタックス。税金は最大のコストですし、何かあったときには金額的な影響も、レピュテーションリスクも非常に大きい要素です。つまり、一日中タックスについて考えている人が必要といえます。また、税務申告、納税や税金の軽減・免除は勿論のこと、補助金といった分野もタックスの役割です。事業再編やM&Aにおいては、タックスの観点から一番有利な方法を取ることが、大きな意思決定につながります。

なお、欧米ではファイナンスの中でタックスの分野が一番報酬を取れるポジションとされています。この分野の知識やスキルを磨いていただいて、タックス部門に手を挙げられるのも一つだと思います。

専門性を磨き、DX・MXの「船頭役」に

最後のまとめとして「D&MX」についてお話します。デジタルトランスフォーメーションは、デジタル変革の河を渡り対岸を目指すプロセスに例えられます。そこで、向こう岸に渡るための「船頭役」を経理財務の方に担っていただきたいと思います。

船頭役には船が必要ですし、船の性能も重要です。この船にあたるのが、定型業務から価値創造ワークにシフトできるデジタル環境です。これによって今の会計的な仕事から、キャッシュフローや各種戦略をベースにした仕事へとシフトすることが必要です。その中で会社全体のレベルアップをし、そのリード役を担っていただきたいと思います。

そして、これは経理財務の皆さまに対する船頭役としての心得です。船頭としては、やはり経営・事業部門から頼りにされる、何かあったときに「あいつに聞いてみよう」と相談を受けるような立場になっていただきたい。セールス・マーケティングや技術・生産の専門性と同列で、経理財務の専門性をもったビジネスパーソンになる、という自覚を持つべきだと思います。

相談に対しては「できない」と言わず、相談の裏側にあるWhyを理解し、できるところを探して一緒に考える姿勢が大切です。もちろん、何をやってもいいと言うわけではなく、コンプライアンスや倫理上の問題になりうるときはしっかり「ノー」と伝える力も必要になります。

コロナ禍ではありますが、今の環境には活躍のチャンスがゴロゴロしています。それをいかに拾って、活躍の場に変えるかは皆さま次第です。この環境の中で皆さまが変わり、会社が変わり、会社が良い方向に進むよう注力して変革を実行していただきたいと思います。

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