企業の将来像が分かる?キリン、日立、伊藤忠、個人投資家も一読すべき企業の「統合報告書」とは?

企業の将来像が分かる?キリン、日立、伊藤忠、個人投資家も一読すべき企業の「統合報告書」とは?

  • MONEY PLUS | くらしの経済メディア
  • 更新日:2021/02/24

ESG投資家が投資判断時に活用する情報のひとつに「統合報告書」があります。

これは「財務データ(売上や利益など損益計算書、現預金や純資産など貸借対照表のデータ)」に加え、「非財務データ(経営者の能力や経営理念、社員のモチベーションの高さやスキル、商品開発力、技術力など決算書に出てこない情報)」の両方の観点から企業の方針や経営についてまとめたものです。

近年、発表数は増加基調にあり、2010年時点の23社に対し、20年10月には565社にのぼりました。今回は、個人投資家にとっても有用な統合報告書について解説します。

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なぜ統合報告書が求められるのか

企業に対して「統合報告書」の発行が求められるようになった背景に、企業価値と「非財務データ」の相関が強まってきたことがあります。ビジネスの複雑化やデジタル化を背景に、「財務データ」だけを見ても企業価値を判断できなくなってきています。企業は投資家に「非財務、財務を含む企業価値の全体像」を示す必要が出ています。

もう一つの背景は、企業が果たすべき役割が大きく変わってきたことがあります。近年「経済至上主義」ともいえる企業活動が、気候変動や食料問題など地球規模での弊害を生み出していると批判されています。

これらの課題解決に向けて、企業の持つ資金や技術革新、アイデアの活用が期待されています。非財務データによって、企業は重要な社会課題の解決に貢献する力と意思があることを分かり易く説明する必要があります。

統合報告書には何が書かれている?

統合報告書は、単に、財務報告を中心とした「アニュアルリポート」と、社会的貢献を謳った「CSRリポート」を合作しただけのものではありません。

最も重要なのは、企業の長期的な価値創造プロセスを明らかにしていることでしょう。自社のビジネスがどのように成り立ち、それが将来的に、自社や社会にどのような価値を生むのか、事業を通じてどのような価値を創造したいのかを明らかにした「価値創造ストーリー」が統合報告書の主軸です。

統合報告書は、財務価値だけでなく、人材や原材料など、企業が調達する様々な資源をどのような価値(製品やサービス)に変換し、どの程度、貨幣やその他の資源と交換したかという一連のプロセスを示しています。

「価値創造ストーリー」を描く

日本ではこの「価値創造ストーリー(プロセス)」や「価値協創ガイダンス」などが報告書作成時に参照されています。

上記2つのガイダンスを用いて、企業は自らの経営理念やビジネスモデル、戦略、ガバナンスなどを統合的に投資家に伝えるために、価値創造の流れの全体像が伝わるように体系的に整理する必要があります。稼ぐ力やリスクマネジメント力を明らかにするという点で、経営トップの所信表明演説とも言えるでしょう。

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その企業の重要課題はなにか

企業は価値創造プロセスを策定する前に、どのような社会課題の解決に取り組んでいくかを特定しなければならなりません。なかでも、企業が統合報告書で充実を図りたい項目は「マテリアリティ(重要課題)」です。

「マテリアリティ」とは、組織の短、中、長期の価値創造能力に実質的な影響を与える事象に関する情報です。社会にとっての課題と企業にとっての課題が重なった部分を最も重要な課題と設定します。

マテリアリティは元来、企業や業種によって異なり、外部環境で変化するため、企業毎にKPI(重要業績評価指標)は異なり、開示するESG関連情報も企業や業種によって異なります。

重要なことは、マテリアリティの解決に向けた取り組みが企業の事業領域となり、どのように価値の創造に繋がっていくかです。ビジネスモデルの持続性の観点で「マテリアリティ」を説明している企業や、「マテリアリティ」と関連付けて「リスクと機会」を説明している企業は多いです。

優れた統合報告書「キリンホールディングス」

具体的にみると、後述する「優れた統合報告書」に選出されたキリンホールディングスは、マテリアリティとして「健康」が最も重要だとし、そのほか数課題を抽出しています。

企業存在価値としては、”私たちは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(KV2027)」において、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV(企業利益と社会貢献を両立する共通価値)先進企業となる」ことを目指しています。

「酒類メーカーとしての責任」を前提に「健康」「地域社会・コミュニティ」「環境」についての指針の実現に向けて、各事業で「CSVコミットメント」に取り組んでいます。“と表明しています。

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日立は納得感のある将来戦略が評価

優れた統合報告書とはどのようなものでしょうか。年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)は毎年、国内株式の運用委託機関が選定する「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」を発表しています。

20年は各々延べ71社、91社が選定されました(次頁図表⑥)。以下、GPIFによる、運用機関から選ばれた「優れた統合報告書」へのコメントを抜粋しました。

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日立製作所(20年に7機関が選出)は、過去の経験を踏まえた収益性向上の施策や社会イノベーション事業への取り組みを説明。ROIC(=投下資本利益率:企業が事業に投じた資本に対して、どれくらいの利益を生み出したかを示す指標)経営・バランスシート戦略など、持続的な企業価値拡大に向けた強固な意志と戦略を理解できることが評価されました。

CEOメッセージやビジネスモデルは分かり易く、マテリアリティもリスクと機会を丁寧に解説し、納得感が高いと評価されました。

先に挙げたキリンホールディングスは、資本コストを超えるROIC目標や取締役の専門性など、より実質に重きを置いていること、「世界のCSV先進企業」を目指し、短期・中長期の取り組みが良くわかる内容であることなどが評価されました。

伊藤忠、丸井も選出

伊藤忠商事は、順調に拡大してきた業績や企業価値について、健全な危機感を持ちつつ、いかに持続的拡大に繋げていくかの挑戦がよく伝わり、そのコアが人材戦略であることが上手く説明されています。サステイナビリティの可視化に取り組み、CEOメッセージに長期ビジョンが込められたこと、総合商社を見る上で重要な指標が充実していることなども評価されました。

丸井グループは、多様なステークホルダーと対話を重ねた成果を生かして丁寧に説明しており、目指す方向性や価値創造の目的、方法が確信につながっていると評価。実績や中期的な観点では主要なKPIを開示し、長期的な視点ではビジネスモデルの革新等を通じて収益構造の転換を図るストーリーを記載しています。

機関投資家は上記のような「統合報告書」に示された価値創造ストーリーを考慮して投資を決定しています。個人投資家もそのような動向を参考に「統合報告書」を眺めてみるのも良いのではないでしょうか。

<文:チーフESGストラテジスト 山田雪乃>

(大和証券 執筆班)

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