借金500万円のギャンブル狂が、初めて競輪に挑戦。金銭感覚の“守破離”を説く

借金500万円のギャンブル狂が、初めて競輪に挑戦。金銭感覚の“守破離”を説く

  • 日刊SPA!
  • 更新日:2021/02/21

―[負け犬の遠吠え]―

ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。

それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。

マニラのカジノで破滅」したnoteが人気を博したTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載は38回。

今回は、久々のギャンブル回、競輪です。

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犬のTwitterプロフィール

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◆「タダでできるみたいですよ」

違法薬物やマルチ商法の沼から抜け出すのに、人間関係の清算が必要不可欠だと言われることがある。居心地のいい沼にいる人間にとって、それは不思議で怪しい光景に見え、善意や焦りから引き留めたり攻撃したりすることもあると言う。

「ウィンチケットに登録すれば1,500円もらえるみたいなんですけど、競輪やります?」

沼から這い出た腕が、シャバで働く刺激の足りない僕の足を掴んだ。

日刊SPA!の担当だった。彼は働き詰めでギャンブルによる毒気が抜けていく僕を見て、いてもたってもいられず、とうとう「自分もやるから」と、ギャンブルに誘い始めた。ジャパンカップで5万円借りている僕はすぐに承諾した。債務者がどう言えば動くのか、貧乏人リサイクル工場「SPA!」で働く彼はよく知っていた。

ウィンチケットと言うのは競輪とオートレースの車券購入アプリのことで、本人確認登録まですれば「車券購入専用ポイント」が手に入る。沼の中にいる人は皆、この購入専用ポイントのことを現金だと思い込んでいるが、実はそうではない。予想して、買って、当てなければ現金として使うことはできない。ここに落とし穴がある。公営ギャンブルは国が認めたギャンブルのくせに、

「今なら200連無料!」

と喧伝しているソシャゲと同じことをしているのだ。

◆フット・イン・ザ・ドア

フット・イン・ザ・ドアと言う心理学の用語がある。小さなお願い事を承諾してもらい、次第に大きなお願い事にズラしていき、最終的に目的を達成する方法だ。ドアに足だけ突っかからせて「お話だけでも」と粘る営業マンのイメージに、その姿を見る。

登録するくらいなら無料だしいいか。

面白かったし100円くらいならいいか。

これ当たったら1万円だし、1,000円ならいいか。

取り返さなきゃいけないから5万円賭けるぜ。

これで人生を取り戻す……100万円だ……!

ここまでの行程を「金銭感覚の守・破・離」と呼ぶ。まず自分で作ったルールを守り、一歩大きな金額のためにその自分ルールを破り、そして人間を離れていく。

◆無料ポイント

翌日の正午に浜松町で待ち合わせをする。「先生が一緒なんで」とLINEが入る。競輪の先生は同じく若い編集者だった。僕は元々カジノとパチンコのような考えてもどうしようもないギャンブルが好きだったので、競輪は全く詳しくない。1,500円、もとい1,500ポイントに釣られてホイホイとついてきただけだ。それは僕の担当も同じだった。

僕は今日、競輪で汚れる。彼らの後ろをついて歩くにつれて、赤信号を渡ってしまうような罪悪感に襲われる。その度に一生懸命働いてきた数ヶ月分の自分に、

「でも無料のポイントだから」

と言い聞かせる。無料のポイントだけ。今日は1,500円を賭けて負けたら終わろう。

そう思っていたが、なんと過去の卑しい自分がすでにウィンチケットを登録していたらしく、残念ながら1,500ポイントを得ることはできなかった。

◆レーススタート

「名古屋競輪4レース、買い目は4通りで……」

目の前では競輪の買い目についての説明が繰り広げられていく。先生の話を聞けば聞くほど当たる気がしてきて、賭けないこと自体が負けに思えてくる。UFJのオンライン口座を見ると1万円ほど入っていた。ガス代と電気代を振り込むお金として用意していたものだ。目の前には「絶対に勝てるレース」がある。

さて、この状態で金を賭けてしまう心理を理解できないのが世の大半だが、これは無駄遣いでも自棄でもない。この1万円には少し旅をさせるだけだ。賭ける意識は毛頭無い。ものの数分預けておくだけで金が増える。この機会を逃してなるものか。

投資詐欺に遭う人間と、使ってはいけない金を賭ける人間は同じだ。

4通りの買い目に1,000円ずつ賭けた報告をする。それを聞いた二人の目が「やるねえ」と言っていた。首の後ろが熱くなるこの感じ。久しぶりだ。全員が全員の想いを背負っていた。

僕はやる。

守・破・離の破だ。

競輪には「ライン」というものがあり、例えば地元が一緒の選手同士が手を組んで走るのがほとんどだ。他のレースギャンブルに比べると変な感じがするだろう。7人が走るレースのうちの3人がラインを組んでいれば、そのうちの一人が風避けとして前を走り、後ろの二人が他の選手に抜かれないようにブロックしたりする。

単純に選手の強い弱いだけでは決まらず、さらにこのラインシステムが周知のものとして買われているのでオッズの偏り方も特徴的だ。これらを踏まえた上で先生にレース展開を教えてもらい、その通りに買った。

◆第一レース

レースが始まった。ライン通りに選手が並び、それぞれのチームが列ごとに競り合う。先生の予想は最後の最後にこのラインが崩れ、もつれた後の話までしていた。2-5-6のラインはそんな予想を裏切るかのように綺麗に並んだまま最終ラップに突入する。

またこのパターンか。

ノコノコとついてきて、結局予想家がたまたま外した馬券を買い、怒りの矛先も有耶無耶になったまま後悔する。もうこんなの何度目だろう。

そう諦めていたが、最終コーナーを回ってから選手の挙動が大きく変わった。ラインの列が崩れ、数秒の間にもみくちゃになり、何が起こったのか全くわからなかった。勝負どころが一瞬で過ぎ去り、勝ったのか負けたのかさえわからなかったが、スロー再生で見直すと結果は2-5-1。

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なんと、最初のレースは見事的中。久しぶりの的中に感情がついてこなかったせいで涼しい顔をしてしまったが、合計で4,000円賭け、それが8,000円になった。久しぶりにしっかり勝ったせいか、首周りの熱がすぐにスッと引く。予想通りのレース展開に気持ちが遅れて湧き上がる。

「今日はもう僕、先生のラジコンになります」

僕と担当は考えることを辞めた。

それから8レースも言いなりになって車券を購入し、勝ったり負けたりしながらプラス5,000円を行ったり来たりしていた。最初の4,000円勝ちを守りながら楽しく競輪を理解していく。ギャンブルを覚える過程で一番楽しいパターンに入った。

9レース目。

ここまでは買った車券のうち順当に人気な買い目ばかり当たっていたが、この時は教えてもらったレース展開の動きと少し違った。段々と勝負どころがわかってきたのでオロオロと車券を見返す。2-4-1なら当たり、2-4-7なら負け。

3着はスロー再生でも1と7がほとんど同着だったので結果発表を待つ。天国と地獄。たった数分が10分くらいに感じる。こういう時、パンは大抵バターを塗った面が下になって落ちてしまう。期待するな、期待するなと言い聞かせる。ぬか喜びはギャンブルを加速させてしまう。

そしてアナウンスが鳴った。結果はなんと2-4-1。最後に7が追い上げたが、ギリギリ追いつくことができなかった。3,000円が3万円に化けた。

扉を閉めていない会議室でガッツポーズをする。

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◆守破離とは

ギャンブルで10倍になることは久しぶりだった。令和に入ってからダラダラと負け続けてきたのは、的中した時の配当が小さかったからだった。大きく賭ければ負け、小さく賭けた時だけさらに小さく勝つ。この繰り返しの日々に終止符を打つようなレース。人に乗るのも運。働くことでギャンブル運を溜めた甲斐があった。嬉しすぎて血の気が引き、少し貧血気味になる。

もう終わりでいい。調子に乗って人間を辞める前に楽しい記憶のまま終わろう。

「次、全通り5,000円ずつ買います」

同じラジコンだったはずの僕の担当が言った。同じレースを同じように買っていても勝ち負けで分かれることはある。たまたま厚く張ったレースで負けた者、勝った者。今日の僕は運が良かった。

机と椅子の縁に足を乗せ、出社しているとは思えない姿勢で競輪を買い続ける彼を置いて先生は帰った。僕はこの原稿を書き始める。

「犬さん。もう一緒に賭けなくても大丈夫ですよ」

そこにいたのは守・破・離の離。人間を辞めた、一人のギャンブル依存症だった。

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担当の最後のLINE。息音が聞こえない

〈文/犬〉

―[負け犬の遠吠え]―

【犬】

フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。

Twitter→@slave_of_girls

note→ギャンブル依存症

Youtube→賭博狂の詩

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