逆境をプラスに。幼少時からの豊富な国際経験が強い日本人スケーターを作る

逆境をプラスに。幼少時からの豊富な国際経験が強い日本人スケーターを作る

  • JBpress
  • 更新日:2022/06/23

国際大会の舞台で、圧倒的な強さを誇る日本のスケーター。アメリカ発祥のスポーツで本場を上回る成績を残せるのは、どうしてだろうか。後編では、3つの理由を挙げる。

文=川岸徹

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2021年7月26日、東京五輪、スケートボード女子 ストリート決勝で西矢椛が金、中山楓奈が銅メダル 写真=ロイター/アフロ

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理由③ スケート文化が浸透していない

スケートボードパークが少しずつ増えてはいるものの、日本国内のスケート環境は決してよくない。スケートボードを禁止する場所が多く、認められている場所であっても近隣住民からのクレームなどによって、閉鎖に追い込まれてしまうケースも相次いでいる。2020年には、京浜急行電鉄が京急空港線糀谷駅の高架下にスケートボードパークを開設する予定だったが、建設反対の声により事業が白紙になってしまった。

日本では日常生活の中にスケートボード文化が浸透していない。特に都市部では、「スケートボードでコンビニへ買い物に」「いいアイデアを思いついたから家の前の道路で試してみる」といった、アメリカではごく普通の行動がほぼできないと言っていい。レベルアップを目指す子どもたちや若者たちの多くは放課後や休日を利用し、電車やバスに乗って遠方のスケートボードパークへと通っている。

環境に恵まれているとはいえないのに、なぜ日本のスケーターは強いのか。それは、スケート文化が浸透していないためだ。

どういうことかというと、例えば自転車は日本の文化に根深く浸透している。公園でも歩道でも、たいていの場所は自転車で走行できるし、よほど危険な乗り方をしなければ通報されることもない。だが、それだけ生活に浸透してしまうと特別感はなくなる。日常で自転車に乗るためにスクールへ通って練習したり、筋トレに励んだりという話はほとんど聞かない。

日本における自転車のように、アメリカではスケートボードが身近な存在だ。だから、スクールに通って基本技術を磨くというようなスケーターは少ない。逆に競技人口が少なく、練習場所にも恵まれない日本。スポーツの世界では、そんな逆境がプラスに作用することがある。

理由④ 幼少時代からの豊富な国際経験

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2021年11月14日、SLSスーパークラウン女子で3位になった西矢 写真=ZUMA Press/アフロ

競技人口が少なく、練習環境にも恵まれない。世界的な名声を得られる国際大会も、日本で開催される機会は滅多にない。そんな状況で日本人スケーターが名をあげていくには、世界に飛び出していかなければならない。

現在、世界のトップレベルで戦っている日本人スケーターの大部分は、小学生の頃から国際試合に参戦。アメリカに活動の拠点を移すスケーターも多い。東京オリンピック金メダリストの堀米雄斗もその一人。高校卒業と同時にロサンゼルスに移住し、その後、現地で住居を購入。庭には練習用のパークが設えられており、スケーターにとっては最高の居住環境といえる。

だが、そんな堀米も渡米直後から恵まれた生活を送っていたわけではない。最初はカナダ人スケーターの家に居候。英語はほとんどできずに、どんな質問にも「Yes」と答えていたという。

それでも、夢をもってアメリカに渡った以上、しっぽを巻いて日本に帰るわけにはいかない。人一倍トレーニングに励み、誰よりも長い時間スケートボードに乗った。その結果、世界を代表するスケーターに成長した。今では、英語も上達。試合後のインタビューも流暢な英語で答えられるようになった。アメリカでは日本以上に人気が高く、最近はジャズティン・ビーバーら世界のトップスターのイベントでデモ走行を披露するなど活動の幅を広げている。

世界で成功をつかむには国際経験が重要。それも、早ければ早いほどいい。海外での生活は技術的なことだけではなく、何事にも物怖じしない精神力や語学力など、様々な面を鍛えてくれる。

理由⑤ 映像コンテンツの充実

音楽やファッションとの関わりが深いスケートボードは、古くから映像コンテンツとも結びついてきた。SNSがない90年代からスケートボードをテーマにした映画やビデオ作品が制作され、数多くの名作が誕生。スパイク・ジョーンズが監督を務めた『MOUSE』(1997年)を筆頭に、90~00年代の作品は今もスケーターにインスピレーションを与え続けている。

人気のスケートビデオには、その時代を代表するスケーターが出演。前述の『MOUSE』には、ジーノ・イアヌッチ、エリック・コストン、ガイ・マリアーノら、伝説のスケーターが登場し、高いスキルで圧巻のライディングを見せつけている。こうした映像作品は鑑賞者にスケートボードへの憧れを募らせるとともに、コーチ役も務めた。若いスケーターは何度も繰り返して再生し、彼らのトリックを自分のモノにしようと模倣に挑んだ。

こうした映像を重視するスケートボードのカルチャーは、日本人にとって何ともありがたい話だ。国内に居ながら、海外のスケーターたちの滑りを間近に見ることができる。しかも近年はYouTubeやSNSによって、さらに手軽に映像を鑑賞できるようになった。

その恩恵は、日本以外のスケーターも受けている。最近は中国や東南アジアのレベルが上がり、強い選手が出てきている。現在のスケートボード強豪国といえば、日本、アメリカ、ブラジル、オーストラリア、オランダ、ポルトガルあたりが思い浮かぶが、5年後には思いもかけない国が名を連ねているかもしれない。

川岸 徹

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