持病と上手に向き合いながら、自分らしく生きるには

持病と上手に向き合いながら、自分らしく生きるには

  • MEDLEY
  • 更新日:2020/09/15
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先日、日本国首相である安倍晋三さんの持病(潰瘍性大腸炎)が悪化したため、総理大臣職を辞するという発表がありました。この報道に関連してさまざまな思いが渦巻いているとは推察できますが、一部に「持病をコントロールできないのであれば重責を担う立場にいてはならない」という論調の意見を目にしたため、このコラムを書くに至りました。もちろん意見の多様性は尊重されるべきですので、こうした意見を断固否定することを目的とはしていませんが、持病に対する一医師としての見解をお伝えできればと考えています。

持病とは何なのか?

持病とは何を指すのでしょう。国語辞典を調べてみると「なかなか治らず、常に、または時々起こる病気」や「完治せずに悩まされる病気」などと書いてあります。例えば、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病は生活スタイルを変えないと簡単には改善しないですし、今回話題に上がっている潰瘍性大腸炎のような指定難病はそもそもが治りにくい事がわかっていますので、これらは持病になりやすい類のものだとわかります。

持病は種類によって身体への影響がさまざまですが、長時間放置しておくと大抵の場合で身体の不調を感じるようになります。そのため、自覚症状のある人もない人も、定期通院をしながら持病をコントロールしていくことが望ましいです。

持病があると立場が難しくなる?

確かに組織の能力最大化を考えると、トップや重職にある人が病に倒れると大きなロスが生じるのは事実です。特に急なアクシデントが起こると、現場は混乱し一時的な機能不全に陥りかねません。しかし、だからといって持病のある人は要職に就いてはならないという意見は少し議論が飛躍しているように感じます。

ここで押さえておかなければならないのは、持病の有無と体調の良し悪しは必ずしも一致しないということです。たとえ難病と呼ばれる持病があってもきちんとコントロールがついていることによって長年体調が安定している人は、自分の外来を見渡しても少なくありません。持病があるから体調を崩しやすいと直線的に考えることはできないため、持病があることを理由に要職に就くことを否定することはできないと思います。しかし一方で、いくら治療や自己管理を頑張ってもコントロールが難しい持病があるのも事実で、明らかに体調が悪いのに要職に就いている状態は不健全かもしれません。組織の機能という観点からも本人の体調管理という観点からも望ましくありませんので、今回のような苦渋の決断はそうした背景からなされたものと思われます。ここでお伝えしたいのは、持病の有無でレッテルを貼るのはやりすぎで、体調の状態を見て議論するべきということです。

病気は誰にでも起こりうるということを忘れてはいけない

そもそも病気はなりたくてなるものではありませんし、誰にでも起こりうるものです。「持病があるんだからこれをしてはいけない」と決めつけてしまうと、周囲の目線や萎縮した心が自分らしくあるのを邪魔してしまいます。たった今持病のない人はセーフティエリアに居るわけではありませんし、自分が健康だと思っている人にもいつか病気が降り掛かってくるかもしれないので、いかに上手に自分らしく生きていくかを誰もが意識しておく必要があります。

昭和から平成そして令和へと、平均寿命が延びてきたことによって、いわゆる寿命と健康寿命が乖離しうる状態になってきているからこそ、きちんと考えておきたいものです。

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ほとんどの人は自分の寿命の中に病気を持った期間が発生すると考えるほうが自然です。病気との向き合い方や付き合い方を上手に考えておいたほうが良いですし、持病がある人を優しく支えるような社会を構築しておいたほうがみんなが安心です。

一病息災という考え方

古くから「無病息災」という考え方があります。これは「病気にかかることなく、元気に健康な生活を送る」ということです。もちろんつらい思いや痛い思いは少ないほうが良いと思う人がほとんどでしょう。しかし、寿命が延びた現代社会で、持病がないまま天寿を全うすることは簡単ではありません。

一方で、「一病息災」という考え方もあります。これは「持病のある人のほうが、自分の健康を気にするようになり、かえって長生きできる」という意味を指します。

少し精神論に近いものを感じる人もいるかと思いますが、特に高齢化の進む現代では大事にしたい言葉だと感じています。我々は自分が健康だと思うと健康についてどうしても意識が薄くなりがちです。他方、症状に気づいたときにはだいぶ病気が進んでしまっていたなんて状況を、医療現場ではよく見かけます。「心身のバランスや健康について意識する姿勢が病気と上手に付き合っていく方向に導いてくれる」という考え方は、持病のある人にもない人にも良い効果をもたらしてくれるかもしれません。

持病を上手にコントロールするために医療関係者を使う

「自分の健康を自分ごとにして向きあう」という姿勢はとても大事だと述べてきましたが、これを身につけるのは簡単なものではありません。健康な人も患者さんも、なんなら医療に携わる者であっても、自分の健康ときっちりと向き合えている人は案外多くありません。偉そうに語っていますが、医師である自分も悪玉コレステロール(LDLコレステロール)値が高いのに生活改善を怠ったり、歯が痛いのに放置したりした経験があります。でもそんなときに助けてくれたのが、医療関係者からの励ましやサポートでした。(本当にお恥ずかしい限りです。)

医療者は患者さんたちが良くなることを願っています。外来やリハビリなどの医療の場を活用して、気になることはなんでも聞いて、サポートをしてもらってください。「変なことを言ってしまったらどうしよう」と萎縮する必要は全くありません。

病気と向き合おうと頑張る人を応援してくれるので、みなさんは自分のために医療者を上手に使うくらいの気持ちで考えて良いと思います。そうやってみなさんが良い方向に進めば、サポートした側の医療者も喜んでいるはずです。

かけがえのない人の抜けた穴も補填できる世の中へと

ここまで述べてきたことをまとめると次のようになります。

誰にでも病気は起こりうる(持病が生じうる)

治療と自己管理を一生懸命行っても持病が悪くなることはある

持病があっても一病息災を目指して病気と向き合う視点も大切である

これらを踏まえて、持病がある人が生きにくくなるようなレッテルが貼られないようにしたいですし、一方で、病気の状態が芳しくなくなったときは速やかに治療に専念できるような環境の配備も必要になります。

環境の配備は、その組織のあり方やご本人の生き方によって手段が変わってきますが、その人がお休みになっても困らないようにバックアップ体制を整えておくことが重要です。健康と自覚している人は自分は大丈夫とついつい思ってしまいがちですが、是非この機会に今自分がいなくなったらどうなるかを想像してみてください。もし不安を覚えたら、対策を予め練っておいたほうが良いかもしれません。実際に病気になってしまったとしても、準備があれば治療に集中することができるというメリットもあります。

私は医師として、持病を抱えつつも自分らしく生きようとする人が納得感のある生活を送れることを切に願っています。持病のせいで周りに迷惑をかけてしまうのではと考え、自分を制限しすぎる必要はありません。誰もが病気にかかりうるわけなので、周りの人も持病と向き合う気持ちを理解しつつ、予めの準備と支え合う姿勢を見せていきたいものです。

MEDLEYニュース編集部 園田 唯(医師)

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