スタートアップの救世主なるか? バイオベンチャーが選んだ新しい調達方法

スタートアップの救世主なるか? バイオベンチャーが選んだ新しい調達方法

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/02/22
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人工タンパク質素材の開発で知られるスタートアップ企業、スパイバー。このバイオベンチャーがこの度、珍しい金融スキームをつかった資金調達で、新しいチャレンジに取り組むことになった。なぜこれまでにない調達方法を使ったのか。また、それに伴い、何を実現し、どう社会を動かすのか。

「コロナ禍にあっても成長を止めず、プロダクトの本格的な量産を進めていくためには大規模な資金調達が不可欠でした。投資銀行の担当者の方々とあらゆる角度から議論を深め辿りついた結論が、『事業価値証券化』という調達スキームの採用でした」

バイオテクノロジーベンチャーのスパイバーが、250億円の大規模資金調達を発表したのは昨年12月末。フォーブス編集部の取材に対し、関山和秀CEOはそう調達の経緯について切り出した。

2007年に慶応義塾大学・先端生命科学研究所からスピンアウトしたスパイバーは、人工タンパク質の研究・開発および量産化技術で世界トップを走る日本屈指のリアルテックベンチャーだ。

人工タンパク質でつくられた素材は、例えばカシミアなどの既存の動物由来の素材と比較しても温室効果ガスの排出量が少ないことが予測されるなど、環境課題に対し優位性を持つ。また動物を殺傷することがない、いわば”クルエルティフリー”な素材であり、現代のビジネスシーンにおいて倫理的な競争力も持ち合わせる。

人工タンパク質は産業領域を選ばない応用可能性や潜在力を秘めているが、スパイバーがまずフォーカスしてきたのはアパレル産業だ。現在、カシミア、ウール、ファー、レザーなど動物由来の繊維素材や、ポリエステルやナイロンなどの石油由来の繊維素材を代替するタンパク質素材「Brewed Protein」の開発・製造を行っており、国内外の有名ブランドとの契約のもと実用化が着々と進んでいる。

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スパイバーとコラボした「ユイマ ナカザト」2019-20年秋冬オートクチュール(Estrop/Getty Images)

「これまで使用されてきた石油・動物由来の素材の一部だけでもBrewed Proteinに置き換えるころができれば、温室効果ガスや海洋プラスチックの排出を効率よく抑制することができるようになると考えています。またBrewed Proteinはアパレル製品のみならず、炭素繊維強化プラスチックやウレタンの軽量化にも利用できます。すでに、自動車など輸送機器の素材改良にも着手しているところです」(関山氏)

今回の調達では「事業価値証券化」という、「日本のみならず世界的にも非常に珍しいスキーム」(アレンジャーである三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資銀行部の担当バンカー)が注目を浴びた。

事業価値証券化は株式を新規発行・売却したり、土地や設備などの有形資産のみを担保とするのではなく、企業が抱える知的財産の潜在的市場価値や将来的なキャッシュフローの価値など無形資産などを含む事業の価値を総合的に勘案して、投資家から資金を募る調達スキームだ。いわゆる”株式の希薄化”を回避しながら、大規模な資金調達を実現できるという特徴がある。

スパイバーが国内外で出願・登録してきた技術特許の数はおよそ570件(2020年10月時点)。事業価値証券化によって大規模な資金調達が実現した理由は、「スパイバーの技術やプレゼンス、また成長性に対する投資家たちの厚い信頼だ」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の担当バンカーは説明する。

「本資金調達のユニークな点は大きくふたつです。ひとつは金額で、国内ベンチャー企業でここまで大規模な調達が実現した例は他にありません。もうひとつは、ベンチャー業界における新たな資金調達の道を切り拓いた点です」(同担当バンカー)

ベンチャー企業が銀行など金融機関から資金調達を行う方法は、「従来、コーポレートローン、転換社債、エクイティの3つがほとんどすべて」(同担当バンカー)だった。仮に高い成長性が見込まれるとしても、限られた選択肢の中で資金調達ニーズを満たし続けることに困難を伴ってきたベンチャー企業は少なくない。そういう文脈でみた際、技術や知財、成長性などを含む総合的な評価が、伝統的な金融機関の投資根拠になりうるという前例をスパイバーは築いたことになる。

なお、三菱UFJ銀行はスパイバーのメインバンクで、資金調達に関しては日ごろからコミュニケーションを積み重ねてきたという。スパイバーとしては、エクイティファイナンスやコーポレートローンによる資金調達を検討していたが、三菱UFJモルガン・スタンレー証券からの提案を受け新スキームの採用を承諾したという。スキームの構想から実施までの期間は、わずか4カ月程度だった。

「我々としても、かねてから有力なベンチャー企業の資金調達支援に力を注いで行かなければならないという認識や自戒の念がありました。スパイバーのケースが、ベンチャー企業やスタートアップのエコシステムや資金調達の今後を考えるうえで、ひとつのきっかけになればよいと考えています」(同担当バンカー)

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スパイバー、ラボの様子

新型コロナウイルスが猛威をふるった2020年は、スパイバーにとっても苦難の1年となった。同社が注力するアパレル産業が世界的に打撃を受けているというニュースは毎日のように取り沙汰されており、その苦難の一端を想像することはそれほど難しくないだろう。実際、「投資の話を進めていた海外投資家と急に連絡が途絶えたこともあった」(関山氏)という。しかし、今回大規模調達が実現したことで、成長のスピードを維持できる環境が整った。

「調達資金は米国での生産体制、インフラ設備の強化、また業種や取引先の増加に対応するためのR&D体制拡充に投資していきます。どの産業に向け、どういうタンパク質素材を生産するかにもよりますが、全体的なボリュームとしては2030年頃まで万トン単位での生産を実現したいと考えています」(関山氏)

現在、アパレルや輸送機器以外のクライアントからも、年々、相談や実用化の問い合わせが増えていると関山氏。生産体制の強化とともに、航空宇宙、メディカル、コスメティクス、フード(人工肉)、建築資材などの産業領域で、新たな人工タンパク質素材の商用化を形にしていくことが次の目標だとする。

前例のない資金調達を実現した屈指のバイオベンチャーは、コロナ後の世界でも日本のリアルテックを牽引し「止まらぬ成長」をみせてくれるはずだ。

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