新潟の発酵を巡る旅 -上越編-

新潟の発酵を巡る旅 -上越編-

  • 新潟のつかいかた
  • 更新日:2021/10/15
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上越市、妙高市、糸魚川市からなる上越エリアは豪雪地であり、スキーリゾート地としてもおなじみです。江戸時代に幕府によって築城された高田城の城下町として発展した高田もあり、西日本との境界線にあたることから西の食文化の影響も色濃く残っています。この地を代表する発酵食品「浮き糀みそ」と、今や全国的にも知られる発酵調味料〈かんずり〉、そして雪国のワイナリーを訪ねる旅へご案内します。

上越の誇り「浮き糀みそ」

新潟県の食文化を半世紀以上研究・発信してきた食文化研究家の本間伸夫先生によれば、新潟県の発酵食は「風土特性により、米と大豆を利用するものが多いのが特徴です」とのこと。それにあたるのが、味噌、醤油、漬物、清酒など。特に味噌は県内各地に特徴があり、上越では「浮き糀みそ」が主流です。

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米糀が豊富に使われており、味噌を溶いたときに、汁椀の中でふわっと糀が浮いてくるのでこの名がついたといわれています。糀歩合は通常の味噌が大豆の量が10に対して糀の量が6~8なのに対し、浮き糀みそは糀の量が8.5~10。糀がほのかに香る、やさしい甘さも特徴です。ちなみに若い味噌は糀が浮きやすく、熟成させたものは浮きにくいそうです。

この浮き糀みそが上越の食文化として定着した背景を探るべく、上越市三和(さんわ)区にある〈あおき味噌〉を訪ねました。

「浮き糀」はなぜ上越だけ?

上越市のほぼ中央に位置する三和区は、平坦な地形に広大な田園が広がる農村地。「にいがたの名工」で、新潟県味噌醤油工業協同組合副理事長を務める社長の青木光達(てるみち)さんによれば、上越(妙高市、糸魚川市を含む)には約10社の味噌醸造所があり、そのほとんどが浮き糀みそを製造しているそうです。

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田園に抱かれるように立つレトロな建物が印象的な〈あおき味噌〉。

県内でも上越地方だけが米糀を豊富に使う浮き糀みそをつくるようになった理由をうかがうと、「ひとつは米がたくさんあったということです。昔は新潟など下越では信濃川の氾濫で水害が多かったのですが、上越は水害が少なく、米の収量が安定していました。だから味噌にたくさん使うことができたのです」と青木さん。

上越地方が県の西端に位置していることも関係しているようです。「江戸時代は参勤交代で加賀前田藩がこの地域を通ったので、糀歩合の高い加賀の味噌が伝わったようです。上越地方は東日本と西日本の境界に当たり、食文化も両方の影響を受けています」(青木さん)

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上越市のメーカーで製造されている浮き糀みそ(〈ぽんしゅ館新潟驛店〉で取り扱いあり)。

糀の粒が見える、こだわりの製法

上越地方には昔から糀屋も多く、いい米でいい糀をつくるというプライドが受け継がれてきました。〈あおき味噌〉のモットーは「米処、新潟県の良質な米を使っていい糀をつくる」。商品のひとつである〈こしひかり味噌〉は、地元契約栽培の飯米用コシヒカリを贅沢に使った逸品です。

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味噌づくりに使う糀は、米の周りに菌糸がびっしりとついた真っ白な「総はぜ糀」。米のひと粒ひと粒にしっかりと菌を繁殖させるためには、手で米をほぐしたりと、きめ細かな作業が必要です。

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総はぜ糀。雪のように真っ白に麹菌が繁殖している。

さらに、浮き糀みそをつくるためには、新潟県で開発され現在主流となっている「半煮半蒸(はんにはんむし)」という大豆の処理は行わず、大豆は「煮る」のが基本。理由は、通常の製法のように最後に塩と糀と大豆を混ぜるのではなく、先に大豆と塩を混ぜた「塩切り大豆」をつくっておくから。そのためには大豆はやわらかいほうがよいので、煮るというわけです。塩切り大豆をつくっておくことで、最後に糀と混ぜ合わせる時間や回数が減り、糀がつぶれずに残るのです。

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浮き糀みそ。糀の粒がしっかりと残っているのがわかる。

これだけのこだわりを持ってつくられている浮き糀みそは、糀の甘みと大豆の旨みのバランスが絶妙で、上越地方の郷土料理でもある「タラ汁」や、地元でとれる魚介を使った「浜鍋」などによく合います。

〈あおき味噌〉の浮き糀みそは地元スーパーのほか、新潟駅や越後湯沢駅にある〈ぽんしゅ館〉などで販売しています。首都圏の伊勢丹各店やオンラインショップでも購入できます。

実際に現地を訪れる場合は、事前に連絡をすれば、商品を用意しておいてくれるとのこと。味噌蔵の見学はできませんが、青木さんや奥さまから浮き糀みそのこだわりを直接聞くことができます。

Information

【あおき味噌】
address:新潟県上越市三和区 法花寺376
tel:025-532-2072
営業時間:月~金曜 8:00〜17:00、土曜 8:00〜12:00
定休日:日曜・祝日

なお、〈あおき味噌〉の浮き糀みそは上越市の直江津と高田に店舗を構える〈海の幸味どころ 軍ちゃん〉の味噌汁にも使用されています。

Information

【海の幸味どころ 軍ちゃん 直江津店】
address:新潟県上越市西本町1-14-2
tel:025-545-2728
営業時間:11:00〜14:00(13:30L.O.)、17:00〜22:30(22:00L.O.)
定休日:不定休

Information

【海の幸味どころ 軍ちゃん 高田店】
address:新潟県上越市本町4-1-8
tel:025-526-3950
営業時間:11:00〜14:00(13:30L.O.)、17:00〜22:30(22:00L.O.)
定休日:不定休

創業者の熱意と雪が育んだワイン

新潟といえば日本酒。上越地方には20もの酒蔵があり、〈あおき味噌〉のある上越市三和区には〈雪中梅〉で知られる〈丸山酒造場〉があります。さらにもうひとつ、〈あおき味噌〉から車で約5分の場所に特筆すべきお酒の醸造元があります。

それが「日本のワインぶどうの父」と呼ばれる川上善兵衛が1890(明治23)年に開園した〈岩の原葡萄園〉です。

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大地主の6代目に生まれた川上善兵衛は、米の栽培とともに、豪雪地での新たな産業としてワインの製造を決意。きっかけは親交があった勝海舟に「葡萄酒」を振る舞われたことだったといいます。

創業後、雪国の気候風土に適したぶどう品種を求めて品種改良に取り組み、1万311回の品種交雑の中から〈マスカット・ベーリーA〉などの優良品種を生み出しました。さらに冷房装置のなかった時代に、発酵温度の調整や暑い時期の温度管理のために雪を活用。1898(明治31)年には雪による冷却庫を併設した「第二号石蔵」(上越市指定文化財)を竣工しました。

その後、2005(平成17)年に「第二号石蔵」の冷房のため雪室が復活。雪を利用したワインの熟成も行われ、現在行われているワイナリーツアーでは「第二号石蔵」などとともに雪室を見学することもできます(4~10月限定)。

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「第二号石蔵」で熟成されているワインは、ワイナリーイベントなどでテイスティングすることもできます。ワインショップでの試飲やレストランで〈マスカット・ベーリーA〉や〈ヘリテイジ〉など、善兵衛が生み出した品種でつくったワインの数々を飲み比べてみるのもおすすめです。雪が育んだ発酵の力が凝縮された、きれいで力強い味わいを堪能できます。

Information

【岩の原葡萄園】
address:新潟県上越市北方1223
tel:025-528-4002
営業時間:9:30~16:30(ワインショップ、ワイナリー見学)
定休日:年末年始及び特定日を除き無休(1、2月は日曜)

おなじみ〈かんずり〉の食べ比べ

妙高市も含めた上越エリアを代表する発酵食品といえば、唐辛子を発酵させた辛味調味料〈かんずり〉です。戦国時代に上杉謙信が寒さをしのぐため、唐辛子をすりつぶしたものを携行していたともいわれ、頸城(くびき)平野ではもともと各家庭でつくられていました。時代の流れとともに家庭でつくることがなくなり、その食文化を絶やさないようにと、1966年に創業したのが〈有限会社かんずり〉です。

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1~3月に行われる「雪さらし」作業は体験が可能。希望の場合は電話で予約を。一般公開日は公式サイトで要確認。

唐辛子を塩漬けにして雪にさらし、すり潰したものをゆずと米糀、塩などを混ぜた後、3年以上かけて発酵熟成させます。発酵を促すために年に1回、かき混ぜて空気を入れる「手返し」も行います。3年後、外に出して寒さにさらし、味を引き締め、瓶詰めをしてようやく完成します。

通常の商品は瓶詰め後、加熱処理をして発酵を止めますが、それをしない「生」状態のかんずりも商品化されています。きっかけは、かんずりを使った焼き鳥屋に生を卸していたところ、お客さまからおいしいと評判になり、商品化を望む声があがったそうです。

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通常の〈かんずり〉(左)と〈生かんずり〉(右)。どちらも刺し身、焼き鳥、冷ややっこなどさまざまに活用できる。

「生のかんずりを食べると、もう普通のかんずりに戻れない」という人もいるとか。気兼ねなく旅行ができるようになったら、この生かんずりを求めて訪ねてみてはいかがでしょうか。

販売には冷蔵ケースが必要なので、現在でも販売店舗は限られています。〈かんずり〉本社のほか、道の駅〈カンパーナあらい〉、上越妙高駅〈駅弁山﨑屋〉、無印良品〈なおえつ良品市場〉のほか、新潟市の〈ぽんしゅ館新潟驛店〉でも販売しています。

Information

【かんずり】
address:新潟県妙高市西条437-1
tel:0255-72-3813
営業時間:9:00~17:00
定休日:日曜・祝日(土曜は不定休)

上越の発酵を巡る旅の締めくくりは、この生かんずりを使った料理を提供している〈雁木亭(がんぎてい)〉へ。上越の城下町、高田にある郷土料理と地酒のお店で、居酒屋探訪家の太田和彦さんもほれ込み、自身のテレビ番組でも取り上げたお店です。

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店主の永島興樹(えいじまこうき)さんは地元らしいオリジナルの酒肴をと、ラム肉を使ったフランスのソーセージ「メルケーズ」に生かんずりを加えてアレンジ。生かんずりがラム肉によくなじみ、ゆずの風味も相まって、日本酒にも合う一品になっています。ほかに、イカの塩辛にも生かんずりを添えて出しているそうです。

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Information

【雁木亭(がんぎてい)】
address:新潟県上越市仲町3-4-9
tel:025-525-8843
営業時間:17:30~23:00
定休日:無休
web:雁木亭Facebookページ

雁木亭がある高田駅から徒歩圏内のまちなかには、〈杉田味噌屋〉、〈高野醤油味噌醸造所〉などもあるので、雁木の商店街を散策しながら訪ねてみるのもおすすめです。

上越地方の発酵を巡る旅で、この地ならではの発酵調味料やワイン、郷土料理などを味わい、風土と歴史、そして暮らす人々の知恵と思いに触れてみてください。また訪ねてみたい、忘れられない旅に、きっとなるはずです。

credit text&photo:『新潟発R』編集部

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