クリニック経営の父が急死...遺産分割協議の席にそっと座った、母違いの兄

クリニック経営の父が急死...遺産分割協議の席にそっと座った、母違いの兄

  • 幻冬舎ゴールドオンライン
  • 更新日:2021/09/18
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クリニックを経営していた両親が相次いで死去。両親の病院に勤務していた医師の兄妹が急ぎ承継しなければなりません。しかし父には、若いころにもうけた婚外子がひとりいました。法定通り婚外子に3分の1の遺産を渡せば、クリニックの経営が立ち行きません。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

60代の若さで母が突然死、ショックを受けた父も倒れ…

今回の相談者は、父親のクリニックに勤務する、医師の佐藤さんです。両親が相次いで亡くなり相続が発生しましたが、会ったことのない腹違いの兄の存在があり、どう対応すべきか弱り果てているとのことでした。

佐藤さんの父親は代々続く医師の家系の出身なのだそうです。現在も本家は近畿地方で大きな総合病院を経営しています。しかし、本当はその総合病院の跡継ぎだった佐藤さんの父親は、病院経営の実権を握っていた祖父に勘当同然で家を追い出されてしまいました。

佐藤さんの父親は、実家の病院を追い出されたあと、大学の先輩の紹介で関東地方の総合病院の勤務医をしていました。それから数年後、佐藤さんの母親と出会って結婚。佐藤さんが生まれて間もなく勤務先から独立し、妻と二人三脚でクリニックを経営してきました。その後、妹が生まれました。

佐藤さんの妹も医師で、母校の大学病院で腕を磨いたあと、佐藤さんと同様に父親のクリニックで働いています。

ところが、父親とともにクリニックを切り盛りしてきた母親が、60代半ばで突然死してしまいました。経営のほとんどを母親任せにしていた父親は、ショックが大きかったのか、あっという間に体調を崩し、母親が亡くなってから半年後、後を追うように亡くなってしまったのです。

大病院の跡継ぎだった父親が生家を出奔した理由

じつは佐藤さんの父親は、母親と出会う前に、結婚しようと考えていた女性がいて、男の子もひとり生まれていました。戸籍上は佐藤さんの兄になります。祖父から追い出されたのも、この出来事が原因でした。祖父は相手の女性にまとまった金額のお金を渡して佐藤家と縁を切るよう迫り、女性はそのまま出身地へ帰郷してしまいました。

佐藤さんは大学時代に、酔っぱらった叔父からこの話を聞かされましたが、両親にいくら尋ねても、ふたりは一切を語りませんでした。

父の葬儀のあと、叔父に話を聞いたところ、理由は不明ですが、父親が結婚を考えていた女性のことを祖父がひどく嫌い、縁続きになることを許さなかったのだそうです。その後、父親は女性を探したそうですが、どうしても見つけられず、あきらめたというのが真相のようでした。

遺言書を残していなかった、几帳面な父

佐藤さん自身も、一度も会ったこともない兄であり、きょうだいという気持ちは持てません。とはいえ、戸籍謄本で確認すると確かに認知されており、れっきとした相続人のひとりなのです。法定割合では財産の3分の1の権利を有しているだけでなく、今回の父親の相続において、相続人の間で遺産分割の話し合いを持つ必要があります。

しかし、もし父親の遺言書があればその内容が優先されることになります。佐藤さんは几帳面な性格の父親なら、遺言書を残しているかもしれないと思い、貸金庫のなかや書類が入っていそうな場所をくまなく探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。

佐藤さんが心配していたのは、クリニックの今後のことでした。両親はあまり預貯金を残しておらず、もし会ったこともない兄に3分の1の遺産を渡してしまったら、クリニックの経営が続けられないのです。

佐藤さんは頭を抱え込み、相談先を探して筆者の事務所に訪れたのでした。

「財産を渡すと、クリニックが続けられない…」

「兄がいることは知っていましたが、会ったこともありませんし、会う機会があるとも思いませんでした。ただ、事情を知る限り、かなりご苦労されたのではと思いますし、もちろんできることなら応えたい。ですが、父から承継したクリニックを続けるには、法定通りの財産を渡すのは無理なのです。几帳面な父が遺言書でも残しているかと思ったのですが、本人も、こんなに早く亡くなるとは思わなかったのでしょうね…」

会ったことのないきょうだいについて、双方が複雑な思いを抱えていることは想像に難くありません。しかし、万一話し合いがこじれて裁判になれば、大変な思いをすることは明らかです。筆者からは、最低でも財産の6分の1は渡す必要があるため、その点については覚悟してほしいこと、感情的になってもいい結果にはならないので、冷静でいてほしいことを伝えました。

「お2人にはよろしくお伝えください」

財産の整理と財産評価が完了したため、いよいよ非嫡出子の異母兄との話し合いを開始することになりました。まずは手紙で、筆者の会社が分割協議の委任を受けていることをお知らせし、連絡を取って合う段取りをつけました。

佐藤さんの兄は、関西地方で会社員をしていました。面会して事情を伝えたところ、佐藤さんと妹さんの置かれた状況に理解を示してくれ、その結果、法定割合からみると相当少ない、数百万円程度の現金で折り合ってもらえることになりました。話し合いはあっけないほどスムーズに進み、2回目の面会時に遺産分割協議書に実印をもらい、筆者の役目は完了しました。

佐藤さんの兄は、父親はいないものと思って育ったのだそうです。しかし、母親や母方の親族にとても大切にしてもらったとのことでした。

「決して裕福ではありませんでしたが、不自由な子ども時代ではありませんでした。地元の国立大学を出て、地元の企業に就職して、家庭を持って…本当に普通ですねぇ。僕の母はまだ元気ですよ。お目にかかる機会はありませんでしたが、お2人にはよろしくお伝えください」

今回の場合、もしも高圧的な態度で話し合いに臨めば、着地はまた違ったものになったかもしれません。しかし、冷静かつ率直に事情を伝えたところ、母違いの兄からは協力的な対応をしてもらうことができました。

今回の話に限ったことではありませんが、相続人にはそれぞれの立場や思いがあります。自分の考えや感情を相手にぶつけるだけでは、話し合いはスムーズに進められないでしょう。相手の感情を刺激するようなことをすれば、トラブルは必至です。一度こじれてしまえば、事態の収拾は簡単ではありません。

それらをしっかりと認識したうえで、互いに歩み寄って折り合いをつけていくことが、なによりも重要なのです。

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

曽根 惠子

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