昭和の縦割りをレイヤー構造にする 村上敬亮統括官に聞いたデジタル庁の役割

昭和の縦割りをレイヤー構造にする 村上敬亮統括官に聞いたデジタル庁の役割

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  • 更新日:2021/10/14

9月1日に発足したデジタル庁。菅内閣が掲げる目玉政策であるデジタル化を主管し、霞が関のみならず、日本全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を担う新しいこの役所はどんな役割を持ち、われわれの生活やビジネスにどんな影響を与えるのか? 内閣官房 情報通信技術総合戦略室 審議官(取材時)としてデジタル庁の創設に取り組んできたデジタル庁 統括官の村上 敬亮氏を直撃してみた。

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デジタル庁 統括官 村上 敬亮氏

1階と2階は共通化してしまう システムを現場に取り戻す

「ちょっと、どら焼きを食べてもいいですか?」「あっ、ぜひぜひ」

「デジタル庁の役割とはなにか」を直撃するオンライン取材は、実はそんなラフなやりとりからスタートした。いきなり懐に入ってくるような物腰の柔らかさ。インタビュー相手である村上 敬亮氏は、通商産業省と内閣府・内閣官房で長らくIT政策、地方創生、スーパーシティなどに携わり、2021年7月からは内閣官房 情報通信技術総合戦略室 審議官としてデジタル庁の創設に関わってきた。

デジタル庁設立の直前、多忙をきわめる村上氏だけに、昼食をとる時間もなかったのであろう。おもむろにどら焼きをほおばり、お茶を口に含み、落ち着いたらしい村上氏は、「すごく簡単に言うと、環境という横割りの課題に対して環境省ができたように、DXという横割りの社会的課題に対してデジタル庁ができたということ。デジタル化自体は本当のゴールじゃないんですよ。世のはやりで言うと、日本のDXはわれわれに任せてくださいという話です」と第一声。「デジタル庁なのにデジタル化がゴールじゃない?」「デジ庁やるのは霞が関だけじゃないの?」と混乱する私を横目に、村上氏はデジタル庁が生まれた経緯について、訥々と語り始める。

西山圭太氏の「DXの思考法」という本があります。その本の表現をお借りすればデジタル庁の役割は「レイヤー構造化する」ということです。

府省のシステムで例えると、今まではアプリケーションだけでなく、裏で使うクラウドも、実装するハードウェアも、いわば3階建ての建物のすべてを各府省がバラバラに調達してきた。でも、ガバメントで共通のネットワークやクラウドを使えばよい。ITベンダーって1階と2階を作ることで稼ぐことが多いけど、これらをまとめて設計・活用すればコストも抑えられるし、納期も短くなる。そのために、これをやるためにはレイヤー構造化を進めることが必要です。

さらに大切な狙いは、コストや納期より、(情シスやITベンダーから)システムを現場に取り戻すということです。

記者さんに身近な編集システムの例で考えてみましょう。せっかく使い始めても、最初は「日本語変換がなってない」とか、「改行が変なところに入る」とか、「この文字数制限なんだよ」とか、いろいろ不満も出るでしょう。でも、普通の企業の場合、情報システム部門って、現場からほど遠い存在です。情シスの人から、「いやあ、気持ちはわかりますけど、次の更新は3年後です」とか言われてしまう。たまらなくなくないですか? 明日の記事書くのにシステムが使いにくいと、まさに今困ってるのに(笑)。

今まで、1階・2階まで含めてすべてガッツリとITベンダーに任せてきたから、たとえば納期は1年かかり、コストは何億円という話になっていました。でも、1階・2階を整理して、速く軽く作れるようになったら、3階の事業部門は、情シス部門を介さずに、直接ベンチャーと仕事したり、もっと手軽に改修できるようになり、システム作りのリーダーシップを取り戻すことができるわけです。

使いにくいシステムが、数週間で直る。共用可能な部分をガバメントクラウドやガバメントネットワークに任せられるので、肝心かなめの部分、独自に作らなければならない部分に特化できる。だから、より速く、より現場がオーナーシップを発揮できます。システムは業務そのものだから、これをまずは官公庁のシステムで実現したい。

そもそも「アーキテクチャ」という言葉が理解できるに人は、このレイヤー構造化の話はなんら目新しい話ではないはず。すべてを独自で作り込むなら、アーキテクチャなんていらない。大工さんが一から作ればいいから。でも、みんなでシステムを効率化する時は、1階、2階、3階で建物の高さの定義が違うと困るから、アーキテクチャという共通フレームワークが必要になる。そして、アーキテクチャがあるからこそ、レイヤー構造化が可能になるんです。

デジタル庁が一元管理するというと、業務からシステムまで全部面倒見るみたいなイメージを持つ人がいますが、それは間違い。僕らの仕事は、横割りのレイヤー構造を整え、各プレイヤーが本当に必要な部分だけ見てもらえるようにすること。たとえば、IDの共通化とか、認証をバラバラにするのはやめていくみたいな話です。

とりあえずは「共通化」と言ってます。レイヤー構造化するとともに、業務のパーツも可能な部分は共通化する。業務内容をシステムに合わせる、よくあるBPR(Business Process Reengineering)という奴です。ただ、これも強調しすぎると、業務が標準化されてしまい、現場の自由度は一切なくなるのではと誤解する方も出てくる。でも、そうではありません。レイヤー構造を導入して、共通化した方が合理的なところがある。それをまとめるよう、旗を振り、率先して実践していくのがデジタル庁の役割です。

官公庁の次にやろうとしているのが、いわゆる準公共と呼ばれる分野です。ガバメントクラウドまで同じように使ってもらうかは別として、医療、教育、防災など、限りなく公共サービスに近い分野もできるだけ同じことをやっていきたいと考えています。

これら準公共の分野も、基本は官公庁と同じで、今まで全部縦割りしかありませんでした。たとえば、基礎自治体の教育委員会の単位で、電源から、WiFiから、ネットワークに至るまで、それぞれがバラバラのものを考え、調達してきた。でも、これって無駄じゃないですか? 共通化できる横割りをしっかり入れて、その上でその学校の教員が自身の個性を活かせるような教育コンテンツを作れるようにする。1階と2階のベースを整理し、これに準拠したモノを使ってもらう。コンテンツやユーザーは共通のIDで管理できるディレクトリを構築する。

「誰が、どこで、なにをやっている」といったセキュリティ管理がきちんと行なわれている環境だから、コンテンツやアプリもきちんと安全に利用できる。その上で、どんな教材、どんな教え方をするかは、それぞれ学校や教員が工夫すればいい。下のレイヤーを軽くして3階部分だけを切り出してあげられるからこそ、現場が気軽に作れるし、気軽に選べる。そういう環境を作っていくという話なんです。

官公庁はもちろん、医療、教育、防災などの準公共分野、中小企業まで、それに近いことができないかという議論を進めています。日本中そうなんです。日本中トランスフォーメーションなんです。

人口減少で顕在化してきた縦割り構造のひずみ

確かに今までITシステムは組織ごと縦割りに作られてきた。官公庁はもちろん、企業だって同じだ。インフラと呼ばれるサーバーやストレージ、ネットワークがデータセンターに用意され、OSやデータベース、開発基盤が構築され、そこまで来て初めてアプリケーションが動くことになる。確かに組織ごとにこれらを調達し、運用管理していたら、コストも手間もかかるし、迅速性も欠くことになるだろう。これに対して、今まで縦割りだったシステムをレイヤー化して、共通化させるのがデジタル庁の役割だという。では、なぜこのタイミングでレイヤー構造化なのか。ここには20世紀からの日本の大きな変遷があった。

この背景には何があるか。やや唐突ですが、その正体は人口減少ではないかと考えています。

日本社会は縦の系列がしっかりしていました。全農さんや築地市場しかり、家電量販店や自動車メーカー・販売代理店しかり。どの産業分野においても、全国的に強いホールセラーがいる。これは日本社会の特徴なんです。

人口増加期はこれがよかった。全国的なホールセラーが「次はうなぎだ!」って決めると、すごい勢いでうなぎを買い付ける。まとめて買い付けてくれるから、普段なら高いうなぎも、スーパーで1200円とかで買える。食べたうなぎの単価は別として、嫌いではないのうなぎを食べたことがない人は珍しい。ステーキもいっしょ。お店を選べば1000円しない価格で食べられる。なんとか手の届く贅沢ですよね。こんな風に、どの所得層をとっても消費生活体験が似ている国って、実は珍しい。所得によって食べているものが全然違う国の方が普通ですからね。

これは全国的なホールセラーが在庫のリスクをまとめてとってくれるからです。今でも、その年の需要など考えず、生産キャパいっぱい生産している農家の方が多いですよね。すべてホールセラーや流通市場がリスクをとってくれる。だから、来年の市場規模の増減を予想してキュウリを作る必要がないし、そういう現場もほどんどない。もっとも、最近はそもそも買ってもらえないという形で、このあとに触れる課題が顕在化しつつありますが。

製造業も同じです。これまで部品メーカーは系列の取引先メーカーが買ってくれたから、ほかのメーカーに売り込む必要がなかった。メーカー側もいい部品メーカーを他社に知られたくないから、営業活動をさせなかった。その代わり、上から下りてくる指示は絶対という縦割り社会です。

これって人口が増加していたからこそできたこと。国内のマーケット全体が拡大していたからできたこと。ホールセラーが思い切って在庫調整リスクをとってくれていたから、これでよかったんですよ。

でも、これが人口減少期になると、こうした全国規模の在庫調整というアプローチはリスクの塊になります。だから、たとえば大手スーパーに全国⼀律の調達から地域ブロックごとの調達に切り替える動きが出ています。これは地方創⽣でもあるけど、本質的には需給調整リスクを抱えきれなくなったのが原因です。⾃動車メーカーでも部品メーカーの選別は、そこはかとなく始まっています。

今までは分野ごとに系列的取引関係がしっかりしていたから、DXは不要だった。デジタル化は取引先が求める範囲だけ。あとは、系列ごとの慣行を反映したアナログ業務を頼っていた方が、むしろ便利でした。

でもこれからは、ホールセラーも完成品メーカーも、すべての部品メーカーの⾯倒までは⾒ていられない。「⾃活してくれよ」が本音です。その瞬間、中小企業の側も、自分でデジタルを⼊れ、新たに営業しないと、やっていけなくなってしまう。漁師さんにしても、農家さんにしても同じことです。実際、今回のコロナ禍でも、直販ルートをすでに確立していた漁師さんや農家さんは、さほどは困ってない人が多かった。影響が二極化してしまった。

このように、実は日本社会全体が、レイヤー構造の導入というトランスフォーメーションをしなければならない局面にいる。それを実行しようと思うと、たいがいの場合はツールとしてデジタルを使います。だからDXということになるんです。デジタル庁はこうした日本のDXを下から押し上げるように進めていきたい。

もちろん、全産業いきなりは難しい。それぞれの産業については所轄の官庁で動いてもらう必要もある。でも、どうやってやるの?とか、IDは何を使うべきなの?といった仕組みは、デジタル庁が用意すればいい。そこには各省庁が自分では言い出しにくい制度改革の要素も出てくるでしょう。それら全体の推進役になって、日本のDXを進めていくことが、デジタル庁の役割だと思っています。

進めるのは各分野のプレイヤー。全産業で共通に利用できる仕組み、レイヤー化するのに必要な部品を用意するのはデジ庁。準公共のような国に近いようなサービスは、所管官庁とデジ庁、官と民とがいっしょに取り組むこととし、霞が関向けの中の仕組みはデジタル庁が⼀元的に予算管理しますよという話です。

プラットフォームの誤解 ベンダーは「伽藍とバザール」に立ち返れ

こうしてお話を聞いていると、つくづく民間企業がやっているのと同じことを、国レベルでやろうとしているのだなと感じる。多くの企業と同じく、インフラやネットワーク、ミドルウェアなどを共通化し、コストやスピードという点でメリットを出し、アプリやコンテンツにフォーカスしてもらう。これって国がいわゆるプラットフォームを構築するという話ではないだろうか?

プラットフォームという言葉は少し危険をはらみます。プラットフォームって、2003年に自分が情報政策課の担当補佐だったときに、経産省の産構審の情報経済分科会というところの報告書で改めて言い出し、おかげさまでいろんなところで使ってもらえるようになったんですけど。

2つのことをお話しさせてください。

まずプラットフォームと言った瞬間、プラットフォームがリッチになってしまう傾向があるんですよ。そうすると、プラットフォームを使うアプリケーション側が儲けにくくなる。シンプルに言うと、これはGAFAが儲かる仕組み。これって日本の戦術としてはダメ。プラットフォームは軽く、サービスの方をリッチにしなくてはいけない。

デジタル庁が進めるレイヤー化の話で、1階と2階を作るのはあくまで黒子。余計なことをやり過ぎてはいけない。その上で、3階でデジタルやる人たちが、「おもしれー」「どんどんお金使いてー」と思うような共通化を上⼿な黒子として実現できるかどうかが勝負です。僕はこれを、「『薄い』データ連携基盤」と言っています。

スーパーシティ構想に取り組み始めたとき、1990年代の国内ベンダーのオフコン市場が見事なまでにクラサバの世界にひっくり返されていったのと同じように、まちづくりもプラットフォームで一挙に外資に全部持って行かれるかもよ、という警鐘が鳴らしたくて、あえて「都市OS」という言い方を最初にしました。 正直、これが少し失敗だったかなと。プラットフォームがいろんな機能をつけてきて、個人情報まで集め出すと、アプリケーションビジネスの方がどんどん元気なくなっていくんですよ。それではダメなんです。プラットフォームは必要なんですが、そこを強調してしまうと、すぐリッチなプラットフォームを作りたがる。これが問題点です。

オープンの基本を考え直すため、古い本で恐縮ですが、「伽藍とバザール※」の思想に立ち返るべきだと思います。日本人はどうしても(設計者がすべてをコントロールする)伽藍を建てたがるのですが、僕らはやはり楽しい広場(バザール)を作るべきなんです。その広場でなにを売るのか、どんな大道芸をするのか、僕らは口出してはいけない。モノを売る人や、大道芸をやる人が、やっぱりあの広場行こうぜって思うような楽しい広場じゃなきゃダメだと思う。

※Linuxの開発モデルについてエリック・レイモンドが書いたエッセイ・書籍で、原名は「The Cathedral and the Bazaar」。オープンソースソフトウェア(OSS)開発における思想的バックボーンとなっている。

もう1つのプラットフォームの問題点は、ベンダーのビジネスモデル。ベンダーって、すぐに客を囲い込みたがる(笑)。決められた市場の中でシェア争いをしてきた日本の大企業は、ITに限らず、すべてその発想かな。

役員さんが顧客分野ごとに売上責任を持っているから、客を囲い込むしかない。そうすると、ベンダーは三文字カタカナ用語を連発して、相方であるユーザー企業の情シス部長の社内の予算取りを支え、結果的に情シスは予算を確保する。これがWin-Winの関係になっているから、顧客囲い込み型のビジネスモデルは、そう簡単には変わらない。

IT市場が良くならないのは、半分はユーザー企業が悪いんです。情シスがグリップして作り込むから、システムのオーナーシップは事業部門にはない。だからこそベンダーも囲い込みやすい。でも、本当のエンドユーザーは不便を被っているし、日本のシステムはどんどん世界から後れをとるという構造になる。でも、プラットフォームといった瞬間に、多くのベンダーはまたユーザーをまとめて囲い込めるんじゃないかという幻想を持ってしまう。でも、これでうまくいくのは、意志の強いCIOと現場に寄り添う姿勢が強い情シス部門がいるときだけです。

ベンダーがプラットフォームを作ってもらうのはいいんです。でも、そこには徹底的にオープンな姿勢を持ってもらわないといけません。ITベンダーは今こそ伽藍とバザールの違いをもっと強く意識して、既存のアカウントと売上を確保するのではなく、面白い広場を作ってもらって5年後ビッグになることを想像してもらいたい。

逆に、そうしないと日本のベンダーはもう生き残れない。ベンダーが既存の顧客のためにクラウドを入れると、顧客企業からは「それって安くなってるんでしょ」とか言われて、アカウント守るために、金額を削ったり、自分の取り分を削ったりすることになる。データが増えても、結局クラウド事業者に持って行かれるから、見た目の売上は守れても、利益率は下がっているはずなんですよ。そんな中、プラットフォームという概念が入ってきて、新たな囲い込みの手段という幻想が広がり、このゲームを加速させしてしまうことを危惧しています。

私たちもベンダーをいじめたいわけじゃない。日本のベンダーにはがんばってほしい。でも、客を囲い込んで、売上を立てるスタイルを続けていたら、悪いけど日本のベンダーには頼れなくなってしまう。そこは気がついてほしい。そんなメッセージを出していくのも、僕はデジタル庁の役割だと思っています。

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デジタル庁発足式での平井大臣と石倉デジタル監

じゃあ、今までなぜこれができなかったのか︖ すごく簡単。ユーザー自身が縦割りなのに、ベンダーに対してだけ横のレイヤー構造にしてくれなんて言えるわけなかったからです。

私から言われなくたって、ベンダーの皆さんもわかっていると思います。でも、役員がコミットした売上を顧客の囲い込みにより獲得し、かつ、その実績を株主から評価されたら、自らでは自らを変えようがない。SDGsのように、横から風が吹いてきて、株式市場から別の基準で評価されるようにならないと、自分たちでは変えようがない。

こうしたITベンダーの役員の所掌の話と顧客の囲い込みの話が、国とどう関係あるのかと言われがちですが、これって各省の管轄と日本全体のパフォーマンスの話とも似てるんです。各省の目の前には「このままで農協の未来は大丈夫か?」「森林組合の将来は大丈夫なのか?」「電力業界はどうなるんだ?」と心配する人が列をなしています。そのためにデジ庁ができたんだと思いますよ。新たな縦割りを切り出すのではなく、縦割りの顧客対応とは違う視点から取り組む新たな担当役員を、政府の中に作ってしまったという感じですね。

平井大臣は「デジタル担当大臣」ではなく、9月1日から「デジタル大臣」です。全省庁のトランスフォーメーションをデジタルを使って、手伝いなさいと。顧客対応分野を切り出すのではなく、新たな視点から、縦割りの産業をレイヤー構造化するための旗振り役が、あなたのミッションですよと言われているんです。

省庁向けのシステムは法律上もうちの所管になったので、各府省とともに、責任をもって取り組んでいきます。レイヤー構造化に対するコミットは、官だけではなく、民も含めて、できる限りすべてやる。ただし、それは、その結果としてできたシステムを、すべてデジタル庁が持つという意味ではありません。

もちろんコストをかけずに、日本全国をレイヤー構造化できたらベストですし、理想は各プレイヤーが自前でやることですが、それをすぐに実現するのは難しいでしょう。ですから、まずは、マイナンバーの使い方や、先ほど話した医療、教育、防災 などの準公共の分野でなにができるかというテーマに切り込んでいきます。

デジタル社会の基本となるID管理とディレクトリ化

今回のデジタル庁立ち上げのきっかけとして、マイナンバーのシステムとしての使い勝手や不便さがあったことは間違いない。昨年のコロナ禍の給付金の受け取りで、多くの自治体はシステムとしてのマイナンバーの使い勝手の悪さに白旗を揚げた。ワクチン接種の現場においても、使われているのはいまだに紙のクーポンだ。ある意味、「はりぼてのデジタル国家」だった日本をどのように変革していくのか? デジタル庁としてマイナンバーにどう関わっていくのかを聞いてみた。

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今回の法改正で、マイナンバーは正式にデジタル庁の所管になりました。各自治体の住民基本台帳のシステムまでは持ってきたわけではないですが、今後、マイナンバーに関わる権限はすべてデジタル庁が持ちます。

ずっとレイヤー構造化の話をしてきましたが、その基本はID管理です。ただし、IDの統合管理自体が目的ではありません。すべてのヒト、モノ、サービスに第三者認証も効いた信頼できる本人確認の手段を、社会のインフラとして整備することが必ず必要になります。本質はディレクトリ構造の確立です。

マイナンバーばかり注目を浴びていますが、これって本当はヒトだけじゃない。法人についてもやらなければならないし、モノやソフトウェアについてもIDをふらなければならない。でも、IDだけでは商売にならないから、そこはデジ庁がやります。デジタル社会の基本としては、日本中のIDをディレクトリ構造できれいに整理するという作業が要る。先ほど話した1階屋と2階屋の基盤はハードウェアやネットワークなんですが、⼀番大事なのはID管理。そのアンカーとなるのが個人に政府が求めるマイナンバーだし、法人ではGビズIDになります。

GビズIDって知らない方も多いと思いますが、400万くらいある日本の法人のうち、55万社程度はすでに持っておられます。実は400万といっても、これは法人番号の振られている数で、実質的に活動しているところは200数十万社。だから、中小企業まで含めて1/4くらいまでは、もう持っておられるんです。ちなみに、GビズIDの番号そのものは、法人登記の時に付与される法人番号と同じものを使っています。

個人ならマイナンバーと、マイナンバーカードのICとマイナポータルで使える電子証明書、法人ならGビズIDと、商業登記証明でとれる電子証明書。日本中をレイヤー構造化していくため、デジ庁としては当然力を入れ、これらの利用をてこ入れしていくことになります。

マイナンバー自体が取り沙汰されがちですが、大切なのは「レイヤー構造化する」ことであって、そのための基本が人、モノ、ソフトにIDをつけディレクトリ構造化していく作業です。その主客が転倒しないよう、デジタル庁としても気をつけながら、がんばっていきたいと思います。

発足時はよくも悪くも「白紙」 経営計画にあたる重点計画は年末

次の質問は実行体制についてだ。9月1日に発足したデジタル庁は600人程度の陣容を計画しており、民間人も数多く登用される予定となっている。官公庁や準公共と呼ばれるシステムのレイヤー化を推進し、日本全体のDX化を推進するというミッションを実現するため、どのような組織構造や方針になっていくのだろうか?

とにかく1つ1つの開発案件をすべて、デジ庁内部でプロジェクトとして定義し、現場で指揮をとるプロジェクトマネージャーとリソースや進捗を管理するプロジェクトオーナーを立てます。大きな分類では、スタート時点ではプロジェクトマネージャーは主に民間人材、プロジェクトオーナーは主に行政官で始めようとしています。

もちろん、行政官でもITリテラシがあって、ソースコードも見られて、プログラムをバリバリ書けるような人は、プロジェクトマネージャーにします。逆に民間でも行政リソースの分配や段取りの管理に慣れた人がいれば、プロジェクトオーナーにしていきます。今後は両者のケースが混ざっていくのが理想です。

ただ、まだ検討の最中です。どういう単位をプロジェクトとすればいいのか、今のデジ庁でどれだけの数のプロジェクトを持ちきれるのかも手探りですし、そもそも民間人材は絶賛募集中なので、うまく配分できるかもわからない。その辺は、引き続き、⼿探りでやっていきます。

手探りと言いましたけど、良くも悪くもなにも決まってない。組織のスタートするのが9月1日ですから。民間でジョイントベンチャー立てるとき、設立前に詳細な経営計画なんてできてないでしょ。まずは陣容を、各府省や民間からそろえつつあるところ。取材をいただいている現段階(8月時点)では、やむを得ないかなと思っています。

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発足時のデジタル庁の組織体制

今のデジ庁は、昨年末に作業部会がまとめた報告書があり、閣議決定された重点計画(「デジタル・ガバメント実行計画」)があるので、そこに書かれた論理に即して動いています。重点計画に即した法改正が今年の通常国会で行なわれ、見合った権限も付いてきたので、それに見合った組織を作り、マイナンバー関連や電子署名に関する権限の移行作業などを行なっています。

これからは組織を作って、みんなでわいわいやりつつ、次の12月に新たな重点計画を作ります。閣議にかけるこの重点計画が、株式会社で言うところの経営計画のようなものだと思います。それまでは昨年作った計画に基づいてデジ庁という新たなジョイントベンチャーを作り、すったもんだしながら、今後4か月かけて新たな計画を決めていくということです。

別に逃げるわけではないですけれど、デジ庁がやることはデジ庁だけでは決められない。各省との協同作業が必要です。ただ、デジ庁だけで乱暴に決めれば良い、というわけにはいきません。

DXを進める日本企業はデジタル庁とどう付き合っていけばよいのか?

最後の質問は「われわれ民間企業はデジタル庁とどう付き合うべきなのか?」 官公庁や準公共と呼ばれるシステムがレイヤ構造化されるトランスフォーメーション、マイナンバーの整備や電子署名などのデジタル基盤の整備という話は理解できる。しかし、デジタル庁の掲げる「日本全体のDX」というのは、どのようなイメージなのだろうか? そして企業にとってデジタル庁はどんな存在になるのだろうか?

⼀言で言うと、「DXは⼀社ではできません。いっしょにやる相⼿を探しましょう」ということです。

こういう例がいいかなあ。兼業・副業って最近伸びていますよね。でも、兼業・副業が増えると、労務管理が困る。勤務時間をどうやって追いかけるか。労基署には誰が届け出を出すか。面倒な問題です。

今までは、終身雇用が主流だった。人口増加局面にあった昭和の時代では、良いものを作れば必ず普及するという信念に従って、がんばって三種の神器を作った。各家庭に普及した冷蔵庫を⾒て、「オレの人生も少しは社会に貢献できた」とつぶやきながら、一つの会社に奉仕するのが、昭和の生き方だった。それが当たり前だったから社会保険・雇用保険も、終身雇用を前提に、個人ではなく、企業がまとめて処理を代行しているわけです。

でも、兼業・副業で今は個人の動きがレイヤー化しているんです。そうなった瞬間に、縦割りの組織を前提とした人事管理システムがもはや機能しにくくなってくる。もはや大企業も、従業員の人生を一生面倒見るなんて言えない。そんな時代です。これは、米国の労働市場で1960~70年代に起きた変化と同じことです。

ここにDXの素地がある。労務管理のために会社同⼠が横でつながってもいいし、個人に伴⾛する新しい人材サービスが出てきてもいい。とにかく、いろんな可能性がある。こんなサービスを作るのはデジタル庁ではなく、もちろん市場だし、オーソライズするのは厚労省です。でも、こうした個人のレイヤー化を妨げるような社会や制度は変えなきゃいけないよね。その議論をリードし続けるのはデジタル庁の仕事だと思っています。

労働局だって、企業が個人の実務を代行することを前提に実務を組んでいるわけだから、いきなり組織をまたいだ複雑なオペレーションやれって言われても困ってしまう。他人に言われて失敗したら、まだ他人のせいだと言える。でも、⾃らそれを言い出して失敗したら、世の中から激しく非難されてしまう。行政官ってちゃんとやりきることに対して異常なまでに正義感を持っているので、とりあえずやってみようという話にはならない。

企業の労務管理だって同じです。兼業・副業が当たり前の時代になって、副業先の労務担当と組んだ方がいいのか、新しい人材サービスと組んだ方がいいのか、労務担当者レベルではわからない。だからDXの問題って、取引のデジタル化をとってみても、労務管理をとってみても、どのみち1社じゃ解決しないんです。「1社でできないのがDXです。誰と組んで、なにをしたいのか、ぜひデジタル庁にも今の悩みを教えてください」と。

僕らはその声を元に、この分野のDXがどの方向に進んでいくのか、所管省庁と一緒に必死に考え、対応の方向性が明らかになれば、どうすればいいかをしっかり発信していきたいと思います。

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デジタル庁

大谷イビサ 編集●ASCII

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