「ブスを無駄にするな」ぼる塾・あんりが吉本養成所で教えられたコト お笑いライター・鈴木旭が語る芸人の“落とし穴”

「ブスを無駄にするな」ぼる塾・あんりが吉本養成所で教えられたコト お笑いライター・鈴木旭が語る芸人の“落とし穴”

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/05/02

「3時のヒロイン・福田麻貴が1年前に洩らしていたホンネ」お笑い評論家・ラリー遠田氏が“容姿イジリ”を擁護する理由から続く

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芸人の「容姿ネタ」で笑えるか否か――。4月20日から26日までの7日間、「文春オンライン」上で「お笑い芸人の『容姿ネタ』見たいですか? 見たくないですか?」という緊急アンケートを行ったところ、回答者のうち65.5%が「あまり見たくない」「絶対に見たくない」と容姿ネタに否定的な意見を寄せた。

このアンケート結果をお笑い業界に詳しい専門家たちはどう見るのか。

「こうなる予想はしていました。ただ、お笑いはシチュエーションや文脈などさまざまな要素が複合的に絡み合って構成されているものなので、一概にNGというのは難しい」

こう指摘するのはお笑いライターの鈴木旭氏だ。アンケート結果をもとに鈴木氏に「容姿ネタ」論争への私見を聞いた。(全3回の3回目。#1から読む)

◆◆◆

どんな話の流れで容姿ネタを披露するか...大事なのは文脈

――文春オンラインのアンケートでは、「容姿ネタ」を見たくないという人が3分の2近くを占める結果になりました。

鈴木旭氏(以下、鈴木) まあ、そうなりますよね(苦笑)。1980年代から90年代ごろの「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」(日本テレビ系)でやっていたような、寝起きドッキリの早朝バズーカとかタレントにビニール袋を被せて真空パックにするような“過激なお笑い”はなくなりました。同じように、容姿ネタへの反応も時代とともに変化してきたのだと感じています。

――鈴木さんは、アンケートにご回答いただくとしたらどれを選びますか?

鈴木 僕も、容姿イジりに使われる「ブス」「デブ」といったワードだけを注目すれば積極的に見たい、聞きたいとは思いません。そういう意味では「B.あまり見たくない」でしょうか。でも、芸人さんの容姿“ネタ”自体は「A.見たい」です。どんなネタであれ、楽しめるものであればいいのかなと思っています。

――その違いは何でしょうか。

鈴木 文脈です。どの芸人さんが、どんな舞台で、どんな話の流れで容姿ネタを披露するかによって、笑えるか笑えないかが変わると思うんです。コンビだったらその2人がどんな信頼関係を築いているかが伝わってくるだけでも温度感が違うと思うので、一概にダメとは言えないですね。

――「A.見たい」を選んだ人のなかには「プロの技で見せて欲しい」という回答がありました。

鈴木 僕も同じです。過去に、コント作家の修業として芸人さんと一緒に舞台に立ったことがあるんですが、僕が書いた台詞を自分が言うとウケないのに、芸人さんが言ったらウケたってことがあって。そのときに、観客は演者の容姿や雰囲気、間のとり方や声のトーンを含めて笑うんだと気付きました。見ていて簡単そうでできないのが「プロの技」なんですよね。

――4月18日放送の「ワイドナショー」(フジテレビ系)では、容姿ネタを“封印”した3時のヒロイン福田麻貴さんに、松本人志さんが「(ウケないのは)単純に3時のヒロインのポテンシャルが低いのかもしれない」という指摘をされていました。

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松本人志 Ⓒ文藝春秋

鈴木 容姿ネタのような攻撃性のある笑いは、ボケる側とツッコむ側にそれ相応の信頼関係と技量が求められると思うんです。

僕は、容姿ネタとか差別的な要素がある笑いを扱う芸人さんに対して、フグを捌くプロの料理人に近いと敬意を持って見ています。フグには毒があるけれど、プロが捌いたら新鮮でおいしい食材になる。一方で、素人が捌いたフグは怖くてとてもじゃないけど食べられません。

お笑いはプロの芸があってこそ成立するもの

――EXITの兼近大樹さんは「お笑いはサーカス」、「(一般人が真似したら)ケガするに決まってる」と発言していました。

鈴木 本当にそうだと思います。お笑いはプロ同士だからこそ成立するものなんです。逆に言えば、一度思い切って真似してみるのもいいかもしれないですね。知り合い同士の場ではなく、一般のお客さんが入るインディーズライブに出てみたり、プロも参加する賞レースで試してみたりすると笑いの難しさを肌で感じると思いますよ。

この状況でも「プロの技」を感じる芸人は

――「子供が真似するのが困る」という意見も、「見たくない」派から多く寄せられました。

鈴木 芸人の真似をした子供が他人の容姿をイジって、傷つく子が現れるという懸念だと思うのですが、正直お笑いのネタと子供の道徳観がどれほど関係しているかは疑問です。子供っていろんなことを真似して、失敗したり成長したりするものじゃないですか。お笑いに限らないと思うんですよ。今に始まったことではなく、「8時だョ!全員集合」(TBS系)の頃から、「子供が真似するから止めてほしい」という保護者たちの意見はありましたしね。

――その結果として、性的なコントや強く叩くようなツッコミは姿を消しました。そして今、容姿ネタを問題視する人が増えてきました。

鈴木 それはありますね。容姿に言及すること自体に敏感になっているんだと思います。

――そんな状況でも容姿ネタで笑いを生む「プロの技」を感じる人はいますか。

鈴木 ぼる塾のあんりさんでしょうか。彼女は父親が元暴走族、母親が元レディースというヤンキー一家の育ちで、お笑いの世界に入るまで“ブスイジり”をされたことがなかった。吉本の養成所時代に「ブスを無駄にするな」と講師に言われて、自分は“ブス”なのかと驚いたそうです。そこから積極的に容姿をネタにしていったら、どんどん笑いが取れるようになったと。

容姿ネタの割合が増えすぎると"いやな感じ”になる

――たしかにぼる塾は、メンバー間の容姿のギャップを笑いに変えるネタを得意としている印象です。

鈴木 彼女たちにとって、容姿は笑いをとる武器なんですよ。その武器を活かせないのは、本人が一番やるせないでしょうね。とはいえ、容姿ネタを武器にする芸人さんが気を付けなければいけない落とし穴もあると思います。

――どんな落とし穴があるのでしょうか。

鈴木 容姿ネタだけを強調する笑いのとり方です。マイナスをプラスに転じるような工夫がなければ周囲も引いてしまいます。そもそも見た目はフックであって笑いの本質じゃない。容姿ネタが“いやな感じ”になる時は、見た目イジりからの展開がないケースがほとんどだと思いますよ。

――嫌悪感が高まると、おもしろいかどうか以前にシャットアウトされてしまいそうです。

鈴木 そういう意味でも、あんりさんはバランスが絶妙だと思います。浜田雅功さんに「パンスト被ってる?」と聞かれたり容姿をネタにされることも多いですが、鋭い切り返しやツッコミの上手さによって、見た目イジりが中和されるんですよ。ハゲネタ代表のトレンディエンジェル・斎藤司さんもポジティブすぎるキャラが容姿を凌駕していて、観客を“いやな感じ”にさせない腕のある芸人さんだと思います。

制約があった方が創造力は発揮されやすい

――容姿を上手く武器にして笑いに変え続ける芸人がいる一方で、今後は3時のヒロインのように容姿ネタをやめる芸人も増えると思いますか?

鈴木 芸人さんの適応力は本当に高いので、今後どうなっていくかは想像もつきません。ただ「容姿ネタ」への風当たりが強い現状は、芸人にとってチャンスだという見方もできると思うんです。

――どういうことでしょう?

鈴木 パッと見で判断できる容姿で笑いがとれなくなれば、その人の内面を掘り下げたり外見以外の個性を活かすネタを探す必要が出てきます。そうすると今まで生まれなかった笑いが噴出する可能性もある。制約があることで、むしろ創造力は発揮されやすいと思うので。

個人的には、お笑いと「人の容姿に言及することの是非」の問題は、どこまで行っても噛み合わないだろうと考えています。人が「好奇心」と「恐怖心」のどちらも捨てられないのと同じです。どっちも必要だし、バランスを取るしかない。

今は地震や豪雨、SNSの誹謗中傷、コロナ禍……と社会的な背景もあって、「自分も被害に遭うんじゃないか」という恐怖と隣り合わせの時代だと思うんです。視聴者がもう少し寛容な目でバラエティーを見られるようになれば、容姿ネタに対する過剰反応もなくなっていくと思いますけどね。

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(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

「文春オンライン」特集班

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