
U-17ワールドカップで若き日本代表が得た財産と課題とは何か(写真はイメージです) 撮影:中地拓也
U-17日本代表の年代別ワールドカップでの冒険が終わった。インドネシアで開催されたU-17W杯で、ラウンド16で敗れたのだ。決して満足な結果ではないだろうが、若きサムライたちにとって大事なのは、この経験をどう活かすかだ。サッカージャーナリスト後藤健生が、大会を通じて見えた成長と課題をつづる。
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■アルゼンチン代表の変化
さて、こうした厳しいグループの中で日本が3位ではありながらも、ラウンド16進出に成功した。それは、何よりも日本チームらしい統制の取れた試合運びによるものだった。
基本的にはどの試合でも相手にボールを握られる時間が長い中で、最終ラインの選手だけでなくMFも前線の選手も粘り強く守備をした。ブロックを作ってスペースを消しながら守る展開がメインだったが、相手の状況や試合展開によっては前線からプレッシャーをかける場面もあった。重要なのはその見極めだったが、基本的には11人の意識を合わせながら戦えた。
ただ、試合運びの拙さが出てしまったのがアルゼンチン戦だった。
初戦でセネガルに敗れていたアルゼンチンは、日本にはどうしても勝たなければいけない状況の試合だった。そこで、彼らはセネガル戦の反省を生かして前半の立ち上がりに勝負を懸けてきたのだ。
■露呈した経験の少なさ
初戦でもサンティアゴ・ロペスやクラウディオ・エチェベリのアルゼンチン・スタイルのドリブル(ボールタッチ数の多いドリブル)は見事だったが、攻撃の展開は遅かった。パスを受けて一度ボールを止めてからドリブルに移るようなクラシカルなスタイルだったからだ。
しかし、日本戦ではアルゼンチンがスピードのある攻撃を仕掛けてきた。日本の選手は、スカウティング情報とは違った相手のスピードに面喰ったのではないか。
そして、5分にはエチェベリが倒されて獲得したFKをエチェベリ自身が決めて先制に成功する。セネガル戦では絶好の位置のFKを3本とも外していたエチェベリもキックを修正してきた。
こうしてフルパワーで攻めに出てきたアルゼンチンのパス回しに対して、日本の選手たちは当初のプラン通りに前線から積極的にプレッシャーをかけようとしたが、アルゼンチンの個人技にかわされてしまった。前線の選手と守備的ポジションの選手の間での意思のズレもあったようだ。
こうした場面では無理にボール奪いに行かずに、しっかりとスペースを消すような守り方で相手のスローダウンを待つべきだったろう。
たとえば、森保一監督が率いるフル代表の選手たちは経験豊富だから、相手の出方を見て瞬時に守り方を変えたことだろう。しかし、国際試合の経験が少ない17歳以下の選手にとって、それは難しい要求だったようだ。
実際、アルゼンチンの猛攻は20分までで、相手がスローダウンしてからは日本は互角に戦えていたので序盤戦での判断ミスは残念だった。
■セネガル戦への反映
しかし、反省は活かされたようで、セネガル戦では前からプレッシャーをかけるべき場面と、リトリートして守るべき場面の見極めがしっかりとできており、前線と後方の意思もしっかりと合わせることができていた。
もちろん、セネガルはすでにグループリーグ突破を決めていたのでアマラ・ディウフをいつもとは逆の右サイドに置いてみたり、それまでのワントップからツートップに変えてみたりと、テストの意味合いが強い試合だった(20分過ぎには、アマラ・ディウフは右サイドに戻されたが)。
さらに、セネガルはGKのセリーヌ・ディウフが脚を痛めて30分に交代を余儀なくされ、アマラ・ディウフも左サイドでドリブルを仕掛けたところで日本の3選手に囲まれて負傷し、37分に退いてしまった。
そうした事情を勘案しても、しっかり守って相手の足が止まり始めた後半に攻撃を仕掛けて効率的に2点を奪った日本の試合運びは見事だった。
そして、この「成功体験」を踏まえて、日本はスペイン戦でも守備では規律の良さを発揮していた。これから、経験を積んでアルゼンチン戦のような場面でうまく対応できるようになればよいのではないか。
後藤健生